更新日 2013.09.09
これまで当コラムでは、主に「社会保障と税の一体改革」における消費税の増税法案の経過措置を中心に、95%ルール改正の影響、価格表示などの特別措置法について解説してきました。また、途中、消費税に絡んだ法人税での交際費の加算漏れの問題や帳簿の記載要件と仕入れ税額控除の否認事例といった旬の話題を緊急掲載として取り上げてきました。
最終回となる今回は、増税で一層高まる税務リスクに関連して「税務に関するコーポレートガバナンス」について確認します。
まずその前に、これまでの連載で特に重要なテーマについておさらいしましょう。
1.おさらい:重要なテーマとそのポイント
(1) 第6回「消費税額に差が出る?!消費税95%ルール改正への対応と部門別管理」
一般的なケースでは課税売上高10億円の会社であれば、「一括比例配分方式」と「個別対応方式」の税負担差額は年間30~50万円程度になり、消費税率が引上げられた場合、「個別対応方式」を選択できないデメリットは現行より2倍(売上10億円の企業では年間60~100万円程度)に拡大すると見込まれます。このデメリットは、消費税がある限り未来永劫続くこととなりますので、「税率引上げ後の影響額も踏まえた対応方針の決定が必要となる」と述べました。また、この対応策としては、「部門別の消費税の管理の徹底が処方箋となる」ということをお伝えしました。
【ポイント】消費税増税で税務リスクが2倍になる
(2) 第7回「緊急掲載:決算申告でミス多発!交際費等の別表加算も必要となる控除対象外消費税額等」&第8回「控除対象外となった消費税額等の処理について」
平成25年3月決算法人の申告において、消費税の95%ルール適用除外となったため、法人税の交際費等の処理で、控除対象外消費税額等を加算すべきところ加算していないという"ミス"が多発していることをお伝えしました。これを踏まえ、消費税の改正に伴って、実は、法人税の別表の調整も必要になるという注意喚起をさせていただきました。
【ポイント】消費税の95%ルールの改正で、実は、消費税だけでなく法人税にも影響が出る
(3) 第9回「仕入税額控除否認事例も!帳簿の記載要件は満たされていますか?」
消費税の仕入税額控除を受けるための帳簿及び請求書等の保存要件・記載要件等について解説しました。それらの要件を満たしていないシステムや帳簿も散見されており、実際に、課税仕入等の税額控除が否認される事例も出ているということ、消費税率アップにより、税務リスクは2倍に高まるということをお伝えしました。
【ポイント】増税に際しては税務当局や会計検査院などの監視の目が強まり、法令の規定の適用(消費税の仕入税額控除における帳簿等の記載要件等)について厳格な判断をする方向にある
(4) 第13回「消費税にもグループ概念導入!? 新設法人の免税点制度の改正」
消費税にも、グループ法人税制と同様にグループ概念が導入され、グループ全体での税の公平化という観点がいよいよできたということをお伝えしました。
【ポイント】消費税にもグループの視点が導入されたと考えられる
2.税務におけるコーポレートガバナンス
以前連載したコラム「グループ法人税制と連結納税制度の比較検討のポイント」でも述べましたが、平成22年度税制改正のメッセージは、「連結経営が進展し、税務も連結で考える時代になりました。」ということではないかと思っています。
グループ法人税制の導入あるいは連結納税制度の改正を踏まえ、これからは、税務に関してもグループ全体の最適化を考え、視点を親会社だけでなくグループ全体へ拡げていくことが重要となるでしょう。
*TKCWEBコラム「グループ法人税制と連結納税制度の比較検討のポイント」
第10回 戦略的な税務部門の構築「グループ法人税制と連結納税制度の比較検討のポイント」をご参照ください。
(1) 国税庁の「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた主な取り組み」
税務を取り巻く環境はますますタックスコンプライアンス重視の方向にあると思われます。今後はより法令遵守、税務コンプライアンス重視の方向に向かうことは既定の事実だと思われます。
国税庁では「納税者の権利利益の保護を図りつつ、適正な調査・徴収を行う」ことを目的として、大企業を中心とした「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取り組み」に注力されており、主な取り組み内容は以下の通りです。
- 平成23年度税制改正において税務調査手続の明確化等をはかるとの観点から国税通則法を改正
- 平成23年事務年度からは税務調査対象の特別国税調査官所掌法人の大企業に対して、税務調査の際に税務に関するコーポレートガバナンスの状況をヒアリングする「税務に関するコーポレートガバナンス確認票」への記入を求める
※「税務に関するコーポレートガバナンス確認票」の主な内容
- トップマネジメントの関与・指導
- 経理・監査部門の体制・機能の整備
- 内部牽制の働く税務・会計処理手続の整備
- 税務に関する情報の社内への周知
- 不適切な行為に対するペナルティの適用
- 国税局幹部が企業のトップマネジメントと意見交換を行い、その成果として効果的な取り組み事例を紹介する
こうした取り組みの背景には、企業に対して期待される責任ある行動を自主的にとるよう勧告する「OECD多国籍企業行動指針」(1976年策定、2011年改訂)や大規模法人のコーポレートガバナンスの強化を通じた税務コンプライアンスの向上に言及した「OECD税務長官会議(FTA)声明」(2012年1月)があり、国税庁では税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取り組みは、「企業と税務当局の双方にメリットがある」としています。
【企業にとってのメリット】…自らコーポレートガバナンスを充実させ、税務コンプライアンスを高めることで税務リスクが軽減し、調査間隔が1-3年に延長されるなど税務調査に対応する負担が軽減される。
【税務当局のメリット】…企業に適正な申告を継続してもらうことで調査必要度の低い法人についてはマンパワーを減らし、一方で調査必要度の高い法人に税務調査のマンパワーを重点配分できる
(2) 今後の傾向
政策全体の方向性が「弱者救済」から「選別支援」に転換していると考えられ、今後、税務コーポレートガバナンスの流れは、ますます強まることが想定されます。
これからは税務リスクが高まるため、税務コーポレートガバナンスが脆弱な一部の企業グループにとってダメージは大きく、場合によっては、企業の存亡にかかわるケースも出てくることが考えられます。一方で、優良な企業グループについては税務調査にかかる時間が減少するなどメリットは大きいと思います。税務部門のグループ全体への税務ガバナンスの取り組みの巧拙によって、企業の業績は大きく変わることが考えられます。税務部門にとっては大きな課題を背負ったとも言えますが、裏を返せばそれだけ活躍の場が広がるということでもあります。
税務部門の皆様の"グループ全体"での活躍を祈念して当コラムを終えたいと思います。
「目指しましょう"カッコイイ"税務部門を!」
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第3回 経過措置② 売上返品・貸倒
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第2回 経過措置について① 請負契約
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第1回 消費税法改正の概要と趣旨
テーマ
プロフィール
税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員
- 略歴
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ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。 - 著書等
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- 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
- 『令和6年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
- 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
- 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
- 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
- システム・コンサルティング事例
- ホームページURL
- ビジネス・ブレイン税理士事務所
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