消費税増税に向けた実務対応

第10回 特別措置法への対応① 値下げセール等の禁止

更新日 2013.07.08

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税理士 畑中 孝介TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 畑中 孝介
「社会保障と税の一体改革」の一環として消費税の増税法案が成立しました。消費税増税に際してはさまざまな経過措置を理解することが必要になります。このコラムでは経過措置を中心に、95%ルールへの影響、そして増税で一層高まる税務リスク・税務コンプライアンスの取り組みなどとの関連について解説していきます。

 平成25年6月12日、特別措置法(「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」)が公布されました。この法律の趣旨は第1条の目的にもあるとおり『消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保すること』とされており、アベノミクスと足並みをそろえ、消費税の増税時の値下げ等の防止=デフレ脱却というテーマに沿ったものと考えられます。企業経営にとっては価格の表示や消費税還元セール等の禁止など価格戦略に大きな影響を与えるテーマでもありますし、いかに円滑に価格に転嫁をできるかという利益確保については企業経営にとって大変重要なテーマとなりますので以下に解説します。

1.この法律の主な内容

  • 大手業者の下請いじめ等の防止に関して
  • 値下げセール等の禁止
  • 総額表示義務の一時的緩和
  • 消費税転嫁・価格表示のカルテルの独占禁止法の適用除外
  • 当特別措置法の平成29年3月31日での失効

 上掲のうち、今回は「大手業者の下請いじめ等の防止に関して」と「値下げセール等の禁止」を解説します

2.消費税の転嫁拒否など下請けいじめの防止について

 大手の小売業者等が消費税率の引き上げに際し、下請けや中小の納入業者に対して実質的に値下げ要求・消費税の転嫁拒否などをすることを防止し、公正取引委員会等が検査・指導・勧告・公表等ができるようにするものです。

(1)法人の定義(法2条)

①特定事業者

  1. 大規模小売事業者
  2. 特定供給事業者から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者(個人事業者・資本金が3億円以下の事業者は適用除外)

②特定供給事業者

  1. 上掲①1)の大規模小売事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者
  2. 上掲①2)の特定事業者に対して商品または役務を供給する業者(資本金等の額が3億円以下である事業者及び個人事業者)

とされています。

(2)特定事業者が行ってはならない事項(法3条)

 特定事業者が特定供給事業者に対し、下請いじめ等に関することを行ってはいけないとして定められた事項は以下のとおりです。

  1. 減額・買いたたき
  2. 購入強制・役務の利用強制、不当な利益提供の強制
  3. 税抜き価格での交渉の拒否
  4. 報復行為

(3)上掲に対する公正取引委員会等の検査・指導・公表措置(法4条~6条・15条)

 いわゆる下請いじめ等に対して、公正取引委員会・主務大臣・中小企業庁長官は下記の措置が行えるとされています。

  1. 報告・検査
  2. 指導・助言
  3. 措置請求
  4. 勧告・公表

3.値下げセール等の禁止

 前回の消費税率の引き上げ時においては、税率引き上げ後に駆け込み需要の反動減への対応策として「消費税還元セール」等の消費税増税分を値下げしたり・クーポン券等を配布したりといったセールが行われ、大手小売業者等を中心に大きな成果を上げたようです。一方でそのことによって、価格転嫁が阻害され中長期にわたるデフレの一因になったとの分析もあるようで、デフレ脱却を唱える安倍政権の下では、今回の特別措置法によって明確に「値下げセール等」の禁止がうたわれました。法律の内容は以下のとおりです。

(1)事業者が行ってはいけない事項(法8条)

  1. 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示・・・「消費税はいただいておりません」などの表示
  2. 取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示・・・「消費税還元セール」「増税分は値引きします」等の表示
  3. 消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示・・・「消費税分クーポン還元・ポイント還元」「ポイント還元率アップ」などの表示
    ※消費税の転嫁を阻害する表示に対する勧告、指導等については、消費者庁長官等が実施

注意)適用時期について

 本法律の施行期日は平成25年10月1日ですが、規制の対象は平成26年4月1日以降に供給する商品又は役務についてになります。
 また、総額表示義務に関する特例については、施行期日(平成25年10月1日)から適用されます。

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 畑中 孝介

税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員

略歴
ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。
著書等
  • 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
  • 『令和6年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
  • 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
  • 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
  • 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
システム・コンサルティング事例
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ビジネス・ブレイン税理士事務所

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