更新日 2013.07.22
TKC全国会
中堅・大企業支援研究会
税理士 畑中 孝介
新刊書籍のご紹介
共著『税務のプロが教える「消費増税」への実務対応』(TKC出版)
消費税法改正法への対応について税務のプロが解説した決定版。「価格転嫁」や「経過措置」、「システム対応」等についても実務家の視点からわかりやすく説明しています。
前回のコラムに引き続き、平成25年6月12日に公布された特別措置法(「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」)への対応を解説します。
前回は、法律の概要や消費税額還元セール等の禁止について解説しましたが、今回は、小売業等にとって非常に影響が大きい「価格表示(総額表示)」について解説します。
1.価格の表示
(1)総額表示義務の一時的緩和(法10条・11条)
現在、消費税の価格の表示に関しては消費者に対して商品の販売、役務の提供などを行う場合には、総額表示が義務付けられています(事業者間での取引は総額表示義務の対象ではありません)。
(対象となる表示物)
- 値札、商品陳列棚、店内表示、商品カタログ等への価格表示
- 商品のパッケージなどへ印字、あるいは貼付した価格表示
- 新聞折込広告、ダイレクトメールなどにより配布するチラシ
- 新聞、雑誌、テレビ、インターネットホームページ、電子メール等の媒体を利用した広告
- ポスター など
(総額表示の例)
例えば、次に掲げるような表示が「総額表示」に該当するとされています。
10,290円
10,290円(税込)
10,290円(税抜価格9,800円)
10,290円(うち消費税額等490円)
10,290円(税抜価格9,800円、消費税額等490円)
価格表示の方法は、商品やサービスによって、あるいは事業者によってさまざまな方法があると考えられますが、例えば、税抜価格9,800円の商品であれば、値札等に消費税相当額を含めた「10,290円」を表示することがポイントになります。
(総額表示に当たらない例)
次のような表示は、支払総額がひと目で分かりませんので、「総額表示」には該当しないとされています(財務省ホームページより)。
ただし、今回の改正では1年半の短期間に2度の税率引上げが行われるため、値札やカタログ等総額表示方式のままでは価格の付け替えや印刷のしなおしなど事業者に多大な影響やコスト負担を強いることから、総額表示の原則を一時的に緩和するものです。
(総額表示義務の緩和の内容)
- 消費税率の引上げに際し、価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じてれば、税込価格を表示することを要しない。
- 上記の場合でも、できるだけ速やかに、税込価格を表示するよう努めなければならない。
- 税込価格と税抜価格をあわせて表示する場合で、税込価格が明瞭に表示されているときは、景品表示法の不当表示の規定は適用しない。
(2)消費税転嫁・価格表示のカルテルの独占禁止法の適用除外(法12条・13条)
カルテルは不当な取引制限として、独占禁止法第3条で「入札談合」とともに禁止されている行為です。「カルテル」は、事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、本来、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為です。
今回の消費税率の引き上げでは、消費税率の円滑かつ適正な転嫁のため、カルテルのうち「転嫁カルテル」「表示カルテル」については独占禁止法の適用除外とされ、認められることとなりました。
(独占禁止法の除外措置)
- 転嫁カルテル=転嫁の方法の決定に係る共同行為(例:事業者がそれぞれ自主的に定めている本体価格への消費税額分の上乗せの決定、端数の合理的な範囲での処理の決定)・・・消費税の上乗せの完全実施など。
- 表示カルテル=表示の方法の決定に係る共同行為(例:価格について統一的な表示方法を用いること)・・・業界ごとに「税抜き ○○円+消費税」と表示するように決めるなど。
この連載の記事
-
2013.09.09
第14回 税務はグループ全体の視点で取り組もう!
-
2013.08.26
第13回 消費税にもグループ概念導入!? 新設法人の免税点制度の改正
-
2013.08.05
第12回 駆込み需要の取り込みと反動減への対応策
-
2013.07.22
第11回 特別措置法への対応② 総額表示義務の緩和
-
2013.07.08
第10回 特別措置法への対応① 値下げセール等の禁止
-
2013.06.24
第9回 仕入税額控除否認事例も!帳簿の記載要件は満たされていますか?
-
2013.06.10
第8回 控除対象外となった消費税額等の処理について
-
2013.05.27
第7回 緊急掲載:決算申告でミス多発!交際費等の別表加算も必要となる控除対象外消費税額等
-
2013.05.13
第6回 消費税額に差が出る?!消費税95%ルール改正への対応と部門別管理
-
2013.04.15
第5回 軽減税率とシステム対応
-
2013.04.01
第4回 経過措置③ 長期割賦販売・リース契約・資産の貸付・サービス提供など
-
2013.03.18
第3回 経過措置② 売上返品・貸倒
-
2013.03.04
第2回 経過措置について① 請負契約
-
2013.02.18
第1回 消費税法改正の概要と趣旨
テーマ
プロフィール
税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員
- 略歴
-
ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。 - 著書等
-
- 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
- 『令和4年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
- 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
- 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
- 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
- システム・コンサルティング事例
- ホームページURL
- ビジネス・ブレイン税理士事務所
免責事項
- 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
- 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
- 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。