2019.06.18
殺人被告事件
LEX/DB25570289/東京高等裁判所 平成31年 4月24日 判決 (控訴審)/平成30年(う)第1882号
被告人は、かつて覚せい剤を使用したことにより30代頃から覚せい剤精神病にり患し、自分の頭の中に年配の男性がいるとの妄想や、同男性から自殺や殺人を命ぜられる幻聴を生じ、入退院を繰り返していた状況の中、被告人の自宅で、同男性から「人を殺せ。」と命ぜられる妄想・幻聴を何度も体験し、同妄想・幻聴によって、隣室に、家事手伝いに来ていた被害者(当時73歳)を殺害しようと決意し、被害者が1人であることを確認した後、ビニール手袋を着用し、ビニール袋で両足を覆った上、毛染め用ガウンを着て、ペティナイフを持ち、隣室に赴き、被害者に対し、本件ナイフで、その左前胸部と前頸部を突き刺し、その頸部と左手首を複数回切り付け、被害者を前頸部と左前胸部の刺突に基づく右上甲状腺動脈の完全切断と左鎖骨下静脈の損傷による失血により死亡させて殺害した事件で、原判決は、本件犯行当時、覚せい剤精神病の影響により、心神耗弱の状態にあった、という事実認定をし、懲役8年6月に処したため、弁護人が、原判決には事実の誤認があるとして控訴した事案において、被告人に、妄想・幻聴以外に犯行の原因が全くない事案であるところ、原判決は、論理則、経験則等に反して、被告人の精神障害の本件犯行への影響の強さについては過少に評価し、行動制御能力については、犯行発覚防止行為を二重の意味で過大に評価しているといわざるを得ず、被告人の精神障害が本件犯行に及ぼした影響が圧倒的なもので、被告人が、本件犯行当時、行動制御能力が失われ、心神喪失であったことの合理的疑いは残り、原判決には事実誤認があるとして、原判決を破棄し、被告人に対し、無罪を言い渡した事例。