2025.03.18
道路交通法違反被告事件
★「新・判例解説Watch」刑法分野 令和7年5月上旬頃解説記事の掲載を予定しております★
LEX/DB25574057/最高裁判所第二小法廷 令和 7年 2月 7日 判決(上告審)/令和5年(あ)第1285号
被告人が、交通整理の行われていない交差点において、普通乗用自動車を運転中、同交差点に設けられた横断歩道上を歩行中の被害者(当時15歳)に自車を衝突させて、同人を右前方約44.6メートル地点の歩道上にはね飛ばして転倒させ、同人に多発外傷等の傷害を負わせる交通事故を起こし、もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに、直ちに車両の運転を停止して、同人を救護するなど必要な措置を講じず、かつ、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったとして、道路交通法違反で起訴され、第一審が被告人を懲役6か月の実刑に処したところ、被告人が控訴し、控訴審が、被告人の救護義務を履行する意思は失われておらず、一貫してこれを保持し続けていたと認められるとして、第一審判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡したことから、検察官が上告した事案で、被告人は、被害者に重篤な傷害を負わせた可能性の高い交通事故を起こし、自車を停止させて被害者を捜したものの発見できなかったのであるから、引き続き被害者の発見、救護に向けた措置を講ずる必要があったといえるのに、これと無関係な買物のためにコンビニエンスストアに赴いており、事故及び現場の状況等に応じ、負傷者の救護等のため必要な措置を臨機に講じなかったものといえ、その時点で道路交通法72条1項前段の義務に違反したと認められるところ、原判決は、本件において、救護義務違反の罪が成立するためには救護義務の目的の達成と相いれない状態に至ったことが必要であるという解釈を前提として、被害者を発見できていない状況に応じてどのような措置を臨機に講ずることが求められていたかという観点からの具体的な検討を欠き、コンビニエンスストアに赴いた後の被告人の行動も含め全体的に考察した結果、救護義務違反の罪の成立を否定したものであり、このような原判決の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるとして、原判決を破棄し、本件控訴を棄却した事例。
2025.03.11
電子計算機使用詐欺、道路交通法違反、電磁的公正証書原本不実記録・同供用被告事件
LEX/DB25621843/大阪地方裁判所 令和 7年 1月14日 判決(第一審)/令和5年(わ)第590号 他
被告人B及び被告人Cが、被告人Dの許諾を得て、被告人D名義のETCカードを、被告人Dが乗車することなく高速道路で利用したとして、被告人Bが電子計算機使用詐欺の罪で、被告人Cが電子計算機使用詐欺、道路交通法違反、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の罪で、また被告人Dが電子計算機使用詐欺の罪でそれぞれ起訴され、被告人Bにつき懲役1年6か月、被告人Cの電子計算機使用詐欺、道路交通法違反につき懲役1年4か月、確定判決前余罪である電磁的公正証書原本不実記録・同供用につき懲役1年2か月、被告人Dにつき懲役10か月を求刑された事案で、被告人Cにつき、〔1〕前刑の執行猶予判決の宣告後確定前に、内容虚偽の住民異動届を提出して住民基本台帳ファイルに不実の記録をさせるなどし、〔2〕同判決確定後の刑執行猶予期間中に、高速道路で最高速度を超過して普通自動車を運転して進行したとして犯罪事実を認定し、一方、被告人3名に対する電子計算機使用詐欺の罪について、名義人本人以外の者によるETCカードの利用が一般に禁止されていることを踏まえても、本件ETCカード名義人である被告人Dと同被告人から使用の許諾を得た被告人Bとが生計を一にする同居の事実婚の夫婦であり、ETCカード使用の際には本人確認のための措置がクレジットカード使用の場合とは異なり厳格にはされていない状況の下で、G社等が本件各行為のような生計を一にする同居の事実婚の夫婦間での1枚のETCカードの貸し借りによって使用することまで、不正通行に当たるとして許容していない旨の周知を十分にしていなかったなどの本件事実関係の下では、本件各行為が処罰に値するだけの虚偽の情報を与えたものということはできないと解されるとして、被告人Cを上記〔1〕の罪について懲役1年2か月、執行猶予3年間に、また〔2〕の罪について懲役4か月、執行猶予2年間に処するとともに、執行猶予期間中被告人Cを保護観察に付する一方、被告人Cの電子計算機使用詐欺の点については無罪を言い渡し、被告人B及び被告人Dについても、いずれも無罪を言い渡した事例。
2025.03.11
住居侵入、殺人、殺人未遂、現住建造物等放火被告事件
★「新・判例解説Watch」刑法分野 令和7年6月中旬頃解説記事の掲載を予定しております★
LEX/DB25621968/甲府地方裁判所 令和 6年 1月18日 判決(第一審)/令和4年(わ)第97号
犯行当時19歳であった被告人が、当時通っていた高校の後輩であるCの心に大きな傷を与えるために同人の家族を殺害すること等を考え、Cやその家族の住居であった被害者方に侵入した上で、Cの両親であるA及びBの2名を殺害し、Cの妹であるDにも攻撃を加えたが殺害の目的を遂げず、被害者方に放火して全焼させたとして、住居侵入、殺人、殺人未遂、現住建造物等放火の罪で死刑を求刑された事案で、被告人の成育環境等が限定的とはいえ本件各犯行の動機形成過程に影響を与えていたといえること、被告人が犯行時19歳の少年であったことなどの事情を合わせて最大限考慮したとしても、被告人の刑事責任の重大さや現時点での更生可能性の低さなどに照らすと、死刑選択を回避する事情となり得るものではないなどとして、被告人を死刑に処した事例(裁判員裁判)。
2025.03.04
監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
★「新・判例解説Watch」刑法分野 令和7年4月中旬頃解説記事の掲載を予定しております★
LEX/DB25621841/最高裁判所第一小法廷 令和 7年 1月27日 決定(上告審)/令和6年(あ)第753号
被告人が、監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反の罪で懲役9年を求刑され、第一審が、被告人を懲役6年に処したところ、被告人が控訴し、控訴審が、被告人は、Bを現に監護する者であるAと共謀し、現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてBと性交をしたと認められるから、被告人に対し、刑法65条1項により、監護者性交等罪の共同正犯の成立を認めた原判決に誤りはなく、判決に影響を及ぼすような法令適用の誤りもないとし、また、原判決の量刑事情に関する認定、評価に論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、量刑判断も不当とはいえないとして、控訴を棄却したことから、被告人が上告した事案で、弁護人の上告趣意は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらず、なお、18歳未満の者を現に監護する者の身分のない者が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて当該18歳未満の者に対し性交等をした場合、監護者の身分のない者には刑法65条1項の適用により監護者性交等罪の共同正犯が成立すると解するのが相当であり、被告人は、当時16歳であった本件児童の監護者ではないが、監護者である同児童の実母と意思を通じ、被告人との性交に応じるよう同実母から説得等された同児童と性交をしたというのであるから、被告人に監護者性交等罪の共同正犯が成立することは明らかであるとして、本件上告を棄却した事例。
2025.02.25
業務上過失致死被告事件
LEX/DB25621698/仙台高等裁判所 令和 6年12月16日 判決(控訴審)/令和5年(う)第68号
A船に船長として乗り組み、A船の操船業務に従事していた被告人が、猪苗代湖上を北東に向けて時速約15ないし20kmで航行するにあたり、針路前方左右の見張りを厳に行い、その安全を確認しながら航行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、針路前方左右の見張りを厳に行わず、その安全確認不十分のまま漫然前記速度で航行した過失により、折から、針路前方で、いずれもザップボードに乗るためにライフジャケットを着用して湖上に浮かんでいたP4(当時8歳)、P5(当時35歳)及びP6(当時8歳)に気付かないまま、P4ら3名に自船後部に設置された推進器の回転中のプロペラを接触させ、よって、P4に傷害を負わせて死亡させるとともに、P5及びP6にそれぞれ傷害を負わせたとして、業務上過失致死傷の罪で起訴され、原審が被告人を禁錮2年に処したところ、被告人が控訴した事案で、被告人が本件時、針路前方左右の見張りを厳に行い、安全を確認しながら航行したとしても、本件事故に至るまでの間に、被害者らを発見することができず、本件事故を回避することができなかった具体的な可能性を否定することはできないといわざるを得ず、被告人に過失を認めることはできないところ、原判決は、視認距離に関する証拠評価について誤りがあり、A船の航路について客観証拠と整合しない認定をした結果、被告人の過失について事実を誤認するに至ったものであり、この点が判決に影響を及ぼすことは明らかであるとして、原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡した事例。
2025.02.12
殺人、覚せい剤取締法違反被告事件(資産家覚せい剤中毒死無罪判決)
LEX/DB25621573/和歌山地方裁判所 令和 6年12月12日 判決(第一審)/令和3年(わ)第156号
被告人が、法定の除外事由がないのに、b方において、夫であるb(当時77歳)に対し、殺意をもって、何らかの方法により致死量の覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン又はその塩類を情を知らない同人に経口摂取させ、よって、同人を急性覚せい剤中毒により死亡させて殺害するとともに、覚せい剤を使用したとして、殺人、覚せい剤取締法違反の罪で無期懲役を求刑された事案で、被告人が、本件時にbに致死量を超える覚せい剤を摂取させることは一応可能であり、被告人が、本件に先立ち、インターネット上の掲示板を使って致死量を超える覚せい剤を注文し、現実に密売人と対面して代金と引換えに品物を受け取ることまでしていること、本件当日、b方でbと2人きりでいた時間帯のうち、1時間余りの間に集中して繰り返し2階と1階を行き来するという普段と異なる行動をとっていること、さらに、被告人には、bの死亡により多額の遺産を直ちに相続できるなどbを殺害する動機になり得る事情があったことは、被告人がbに覚せい剤を摂取させて殺害したのではないかと疑わせる事情であるものの、これらの事情を検察官が指摘する被告人の検索履歴等と併せ考慮しても、被告人がbを殺害したと推認するに足りず、さらに、消去法で検討しても、bが本件時に初めて覚せい剤を使用し、その際に誤って致死量を摂取して死亡した可能性については、これがないとは言い切れないから、本件公訴事実については犯罪の証明がないとして、被告人に無罪を言い渡した事例(裁判員裁判)。
2025.01.28
覚醒剤取締法違反、関税法違反、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反被告事件
LEX/DB25621560/千葉地方裁判所 令和 6年11月27日 判決(第一審)/令和4年(わ)第1722号
被告人が、覚醒剤取締法違反、関税法違反、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反の罪で、懲役7年及び罰金200万円を求刑された事案で、本件においては、本件貨物の中身が覚醒剤を含む違法薬物かもしれないとの認識が認められれば、各罪について故意が認められ、また、そのような認識が共犯者との共謀を認定する前提となるところ、麻薬特例法違反の罪については、故意が認められ、本件の経緯によれば、被告人と共犯者との共謀も明らかに認められるから、被告人には、同罪が成立するが、他方で、起訴状記載の公訴事実第1に係る覚醒剤取締法違反(営利目的輸入の罪)については、既遂時、すなわち覚醒剤が隠し入れられた本件貨物がF空港において航空機外に搬出された時点までに、前記認識が生じていたとは認められないから、被告人に故意及び共謀が認められず、同罪は成立しないとしたうえで、本件は、組織的な違法薬物の密輸事案であるところ、本件当時社会経験に乏しく未熟であった被告人が、組織に末端の立場として利用された側面があること、被告人が本件犯行時少年であり現在も若年であること、被告人が反省の態度を示しており更生の意欲も高いことのほか、更生に家族の支援も期待できることに照らせば、被告人を主文の刑に処したうえ、その刑の執行を猶予し、家族の指導監督の下、社会内で更生する機会を与えることが相当であるとして、被告人を懲役1年に処するとともに、3年間その刑の執行を猶予し、一方、本件公訴事実中、覚醒剤取締法違反及び関税法違反の点については、被告人に無罪を言い渡した事例。
2025.01.14
傷害致死、強制わいせつ致傷、傷害被告事件(女児虐待致死事件控訴審逆転無罪判決)
LEX/DB25621501/大阪高等裁判所 令和 6年11月28日 判決(控訴審)/令和3年(う)第593号
被告人が、養子であった被害児(当時2歳の女児)に対し、〔1〕その左足を骨折させ、〔2〕その肛門に異物を挿入して傷害を負わせ、〔3〕その頭部に強度の衝撃を与えて頭蓋内損傷等の傷害を負わせ、搬送先の病院で死亡させたとして、傷害致死、強制わいせつ致傷、傷害の罪で懲役17年を求刑され、原判決が、〔1〕の事件について、被害児の骨折が他者からの暴行以外の原因で生じた合理的疑いが残り、被告人が同児に暴行を加え骨折させたと認めるには立証が十分ではないとして無罪とし、〔2〕及び〔3〕の各事件につき有罪と認めて、被告人を懲役12年に処したところ、検察官及び被告人が控訴した事案で、〔1〕の事件について、被害児の左足に強い衝撃を与える暴行が加えられ、同児が本件骨折の傷害を負ったことや、その暴行の主体が被告人であったことを認めるには合理的な疑いが残り、立証が不十分とした原判決の判断は正当であり、論理則経験則等に反する点はないとし、〔2〕の事件について、E医師の見解は、本件裂傷の発生原因を異物挿入と特定する根拠を合理的に示したものといえず、これによっては同裂傷が被害児の肛門への異物挿入により生じたと推認することはできず、しかるに、原判示第1の事実を認めた原判決の認定・判断は、論理則経験則等に反する不合理なものであり是認することができず、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、原判示第1の事実を認めた部分は破棄を免れないとし、〔3〕の事件について、M医師やQ医師らの原審証言等の関係証拠によっては、被告人が被害児の頭部に何らかの方法によって強度の衝撃を与える暴行を加え、同時に頭蓋内損傷の傷害を負わせた事実を認定することはできないのに、原判示第2の事実を認めた原判決の認定・判断は、論理則経験則に反する不合理なものであり是認することができず、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、破棄を免れないとして、検察官の本件控訴を棄却し、原判決中、被告人の有罪部分を破棄して、本件公訴事実中、傷害致死及び強制わいせつ致傷の各点について、被告人に無罪を言い渡した事例。
2025.01.14
大麻取締法違反被告事件
LEX/DB25621378/千葉地方裁判所 令和 6年 3月14日 判決(第一審)/令和5年(わ)第216号
被告人が、みだりに、駐車中の自動車内において、大麻である液体約2.122グラム及び大麻であるワックス様のもの約0.204グラムを所持したとして、大麻取締法違反の罪で懲役1年4か月を求刑された事案で、検察官が、被告人に大麻所持の故意を推認させるとして主張する各事実については、検察官が主張するほどの強い推認力があるとはいえず、これらを総合しても、本件リキッドについて、友人からCBDだと聞いて、もらったものであり、大麻と思っていなかったとする被告人の供述を排斥することができないから、本件リキッドについて、被告人が違法な大麻かもしれないと認識していたことが間違いないとまではいえず、本件リキッドが大麻取締法上の「大麻」に該当すると認められるものの、本件リキッドについて、被告人に大麻所持の故意を認めるには合理的な疑いが残るから、被告人に対する本件公訴事実については、犯罪の証明がないことになるとして、被告人に無罪を言い渡した事例。
2024.12.24
過失運転致死、道路交通法違反被告事件
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LEX/DB25573679/札幌地方裁判所 令和 6年 6月 5日 判決(第一審)/令和5年(わ)第732号
被告人が、信号機により交通整理の行われている交差点において、普通乗用自動車を運転中、自己の運転により上記横断歩道付近で人をれき過して傷害を負わせたかもしれないと認識したのに、直ちに車両の運転を停止して、Aを救護する等必要な措置を講じず、かつ、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったとして、懲役2年を求刑された事案において、被告人が本件交差点に戻り、黒っぽい物をちらっと見た時点で、被告人は自己の運転により人をれき過して傷害を負わせたかもしれないと認識していたとし、被告人には救護義務違反及び報告義務違反の故意が認められ、救護義務違反及び報告義務違反の罪が成立するとした一方で、被告人が前方注視義務を尽くしていたとしても、停止限界地点より手前でAを発見できなかった可能性は否定できないことなどから、被告人には過失が認められないとして、本件公訴中、道路交通法違反の点については、懲役8か月、3年間の執行猶予を言い渡し、過失運転致死の点については、無罪を言い渡した事例。
2024.10.29
各組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件
LEX/DB25573793/最高裁判所第三小法廷 令和 6年10月 7日 決定 (上告審)/令和4年(あ)第1059号
被告人両名が、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反の罪で起訴され、第一審が、被告人両名から、被告会社が仮想通貨交換所の運営会社に対して有する仮想通貨の移転を目的とする債権を没収したところ、弁護人が控訴し、控訴審が、暗号資産であるNEM及びBTCは、通貨である日本銀行券や貨幣とは異なり、日本国内での強制通用力がなく、その移転を目的とする債権は、組織犯罪処罰法13条1項にいう没収可能な金銭債権には当たらず、組織犯罪処罰法16条1項によれば、犯罪収益等が金銭債権ではなく、同法13条1項による没収ができないときは、その価額を追徴することができるとされており、暗号資産の移転を目的とする債権が金銭債権に当たらないと解したとしても、犯人から犯罪収益等をはく奪することは可能であり、妥当性を欠く結果とはならないなどとして、原判決を破棄したことから、検察官及び被告人両名が上告した事案で、検察官、弁護人、被告人両名の各上告趣意は、判例違反をいうが、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとし、なお、被告人のみが控訴した場合において、第1審判決が法13条1項の規定により没収するとした財産について、控訴審判決において、没収に換えて法16条1項の規定によりその相当価額の追徴を言い渡すことは、刑訴法402条にいう「原判決の刑より重い刑を言い渡す」ことにはならないと解するのが相当であると職権で判断し、本件各上告を棄却した事例。
2024.10.22
傷害致死被告事件
LEX/DB25620608/大阪高等裁判所 令和 6年 4月23日 判決 (控訴審)/令和5年(う)第756号
被告人が傷害致死の罪で懲役12年を求刑され、原審が、おおむね公訴事実に沿う認定をして、被告人を懲役10年に処したところ、被告人が事実誤認を主張して控訴した事案で、原判決は、e供述にはその信用性に疑問を差し挟む余地があり、被告人の前記検察官調書と明確に食い違う部分もあるのに、十分な検討をせず、同供述と整合することをもって同調書の信用性があると即断したものといえ、証拠評価の在り方において不合理であり、是認し難いところ、本件については、被害者の遺体にe供述によっては説明することができない損傷がある点を含め、関係証拠を基に改めて同供述の信用性を検討し、被告人が単独で公訴事実記載の犯行に及んだと合理的な疑いを入れる余地がない程度の立証が尽くされているかどうかにつき、被告人の原審供述を含め、関係者の供述を再検討して判断する必要があり、また、本件犯行期間中、被告人のみならず、被告人以外の者が被害者に暴行を加えた可能性が考えられる場合は、〔1〕被告人単独による暴行内容、この暴行と被害者の死亡結果の間の因果関係の有無、〔2〕刑法207条の適用の可否、〔3〕同条を適用し難い場合の被告人の罪責等を検討する必要もあるといえるとして、原判決を破棄し、本件を地方裁判所に差し戻した事例。
2024.10.01
名誉毀損被告事件
LEX/DB25620363/大阪高等裁判所 令和 6年 6月20日 判決 (控訴審)/令和5年(う)第853号
被告人が、A(当時38歳)の名誉を毀損しようと考え、自己のスマートフォンを使用し、インターネットを通じて、b協同組合c会ホームページに記載された令和5年度新卒職員採用案内の問合せメールアドレス宛てに、被告人がd協同組合に勤務していた当時、あたかもAが、その容姿が他の職員より醜悪で、通常の営業活動により顧客との契約を成立させる能力がなく、被告人から容姿を中傷されているにもかかわらず、被告人に対する一方的な恋愛感情を有しているかのような事実を記載した電子メールを送信し、その頃、前記メールアドレスを使用する同会の職員らが閲覧可能な状態にし、もって公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損したとして、名誉毀損の罪で懲役2年6か月を求刑され、原審が、被告人の行為は「公然性」の要件を満たすなどとして、名誉毀損の事実を認定し、被告人を懲役1年6か月に処したところ、被告人が控訴した事案で、f会に対する照会や同会等の関係者の供述を得ることで比較的容易に判明する事実関係といえ、その内容により、公然性(伝ぱの可能性)及びこの点に関する被告人の故意の有無の判断が左右されるものと考えられるが、記録上は、本件メールの受信状況等に関する捜査報告書、f会のホームページ画面を写した写真撮影報告書及び問合せメールの報告システムに関する電話聴取書の各証拠の取調べにとどまっており(Aの証人尋問も実施されたが、被害状況に関する供述が主であり、本件メールの内容を知った経緯は簡単に触れられた程度に過ぎない)、原判決は、この点等を検討することなく、そのための証拠も十分ではない審理内容であったのに、本件メールの伝ぱの可能性を認めたのであり、その判断は論理則・経験則等に照らしても不合理であって、論旨は理由があるとして、原判決を破棄し、本件を地方裁判所に差し戻した事例。
2024.09.17
保護責任者遺棄被告事件
LEX/DB25620818/東京高等裁判所 令和 6年 8月20日 判決 (第一審)/令和4年(刑わ)第1727号
被告人は、b、分離前の相被告人c(本件後に婚姻し「d」姓となり、令和5年4月9日に死亡)及び同eとともに、令和3年6月10日から東京都豊島区内の本件ホテルの一室にg(当時38歳)と宿泊滞在し、同室において同人らとともに複数種類の薬剤を摂取し、その効果を味わうなどしていたものであるが、前記gが薬剤を過剰に摂取して同月11日午前8時過ぎ頃には身体をゆするなどしても全く反応しない昏睡状態に陥っているのを認めたのであるから、直ちに救急車の派遣を求めて医師による専門的診察・治療を受けさせ、同人の生命、身体の安全のために必要な保護をなすべき責任があったにもかかわらず、b、c及びeと共謀の上、その頃から同日午後4時14分頃までの間、同所において、救急車の派遣を求めることなく同人を放置し、もって同人の生存に必要な保護をしなかったとして、保護責任者遺棄の罪で、懲役2年を求刑された事案で、gが、6月11日午前8時過ぎ頃から同日午前9時24分頃までの間に要保護状態に陥っていたと認めるには合理的な疑いが残り、また、同日午前8時過ぎ頃より後の同日午前9時24分頃までの間については、被告人がgの状態を見て把握していたことにも疑問が残るとして、本件公訴事実については犯罪の証明がないとし、被告人に対し、無罪を言い渡した事例。
2024.09.10
盗品等有償譲受け、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件
LEX/DB25620264/神戸地方裁判所 令和 6年 5月30日 判決 (第一審)/令和5年(わ)第300号
被告人が、法定の除外事由がないのに、氏名不詳者と共謀のうえ、(第1)P2らが窃取し、同人が配達業者を介して同所に配送してきたVJAギフトカード5000円券30枚(時価合計15万円相当)を、それらが財産に対する罪に当たる行為によって領得された物であることを知りながら、「P3」から代金約13万5000円で買い受け、(第2)P2らが窃取し、同人が配達業者を介して同所に配送してきたVJAギフトカード5000円券80枚(時価合計40万円相当)を、それらが財産に対する罪に当たる行為によって領得された物であることを知りながら、「P3」から代金約36万円で買い受け、(第3)P2らが窃取し、同人が配達業者を介して同所に配送してきたUCギフトカード5000円券20枚(時価10万円相当)を、それらが財産に対する罪に当たる行為によって領得された物であることを知りながら、「P3」から代金約9万円で買い受け、もって財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を有償で譲り受けるとともに、犯罪収益等を収受したとして、盗品等有償譲受け、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反の罪で、懲役3年及び罰金50万円を求刑された事案で、検察官が主張する各事実関係は、いずれもそれ自体から直ちに被告人の知情性を推認させるものではなく、そして、これらの事実関係を総合考慮しても、被告人の知情性を未必的にも認定することはできず、「P3」からのギフトカードの仕入れを担当していたのは、被告人ではなく主としてP5であり、被告人がどの程度「P3」との取引について把握していたかは証拠上明らかでなく、また、関係各証拠を精査しても、その他に被告人の知情性を推認することのできる事実も認められないから、被告人が本件の知情性を有していたと認定するには、合理的な疑いが残るというべきであるとして、被告人に無罪を言い渡した事例。
2024.08.27
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件
LEX/DB25573652/最高裁判所第三小法廷 令和 6年 7月16日 判決 (上告審)/ 令和4年(あ)第1460号
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件の上告審の事案で、弁護人らの上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとしたうえで、本件の事情の下では、氏名不詳者が、不正に入手したA社のNEMの秘密鍵で署名した上で本件移転行為に係るトランザクション情報をNEMのネットワークに送信した行為は、正規に秘密鍵を保有するA社がNEMの取引をするものであるとの「虚偽の情報」をNEMのネットワークを構成するNISノードに与えたものというべきであるから、本件移転行為が電子計算機使用詐欺罪に該当し、本件NEMが組織的犯罪処罰法2条2項1号にいう「犯罪行為により得た財産」に当たるとして、その一部を収受した被告人について、犯罪収益等収受罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当であるとして、本件上告を棄却した事例(補足意見あり)。
2024.07.23
電子計算機使用詐欺被告事件
★「新・判例解説Watch」刑法分野 令和6年9月中旬頃解説記事の掲載を予定しております★
LEX/DB25620093/広島高等裁判所 令和 6年 6月11日 判決 (控訴審)/令和5年(う)第24号
被告人が、被告人口座に振り込まれた本件誤振込金が被告人に無関係なものであることを認識しながら財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作るなどして財産上不法の利益を得た行為をしたとして電子計算機使用詐欺の罪で懲役4年6か月を求刑された事案において、原審が被告人を懲役3年に処し、5年間その刑の執行を猶予したところ、(1)刑法246条の2の解釈の前提となる事実を誤認して同条の解釈適用を誤り、被告人に電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認ないし法令適用の誤りがある、(2)原審には、審理を尽くさないまま不意打ち的な認定をするなど、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるとして、被告人が控訴した事案で、事実誤認ないし法令適用の誤りをいう論旨は理由がなく、また、訴訟手続の法令違反をいう論旨も理由がないとして、本件控訴を棄却した事例。
2024.07.16
監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
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LEX/DB25620060/広島高等裁判所松江支部 令和 6年 5月31日 判決 (控訴審)/令和5年(う)第38号
被告人が、監護者性交等、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反の罪で懲役9年を求刑され、原審が、被告人を懲役6年に処したところ、被告人が控訴した事案で、被告人は、Bを現に監護する者であるAと共謀し、現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてBと性交をしたと認められるから、被告人に対し、刑法65条1項により、監護者性交等罪の共同正犯の成立を認めた原判決に誤りはなく、判決に影響を及ぼすような法令適用の誤りもないとし、また、原判決の量刑事情に関する認定、評価に論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、量刑判断も不当とはいえないとして、本件控訴を棄却した事例。
2024.07.02
強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制性交等未遂、強制性交等被告事件
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LEX/DB25573543/最高裁判所第三小法廷 令和 6年 5月21日 判決 (上告審)/令和5年(あ)第1032号
被告人が、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制性交等未遂、強制性交等の罪で起訴され、第1審が被告人を懲役7年に処したところ、被告人が控訴し、控訴審が、児童ポルノ法7条5項を適用した第1審判決を支持し、控訴を棄却したことから、被告人が上告した事案で、同法が、処罰対象となる児童ポルノ製造の範囲を拡大するために制定されたという立法の趣旨及び経緯、並びに、同条4項、5項の各児童ポルノ製造罪の保護法益及び法定刑に照らせば、児童に姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても、なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し、同罪で公訴が提起された場合、裁判所は、同項を適用することができると解するのが相当であり、本件各児童ポルノ製造の事実について児童ポルノ法7条5項を適用した第1審判決を是認した原判断は正当であるから、刑事訴訟法410条2項により所論引用の判例を変更し、原判決を維持するのを相当と認めるから、所論の判例違反は、結局、原判決破棄の理由にならないとし、その余の上告趣意について、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって本件に適切でないか、引用の判例が所論のような趣旨を示したものではないから前提を欠くものであり、その余は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらないとして、本件上告を棄却した事例。
2024.06.25
窃盗、道路交通法違反、殺人被告事件
LEX/DB25573554/最高裁判所第一小法廷 令和 6年 5月27日 判決 (上告審)/令和5年(あ)第292号
被告人が、無差別に狙った2名の被害者にトラックを衝突させて殺害したとして、殺人、窃盗、道路交通法違反の罪に問われ、第一審が被告人に死刑を言い渡したため、被告人が控訴し、控訴審が、第一審判決が死刑の選択をやむを得ないと認めた判断には、具体的、説得的な根拠が示されているということはできず、不合理な判断をしたものといわざるを得ないとして、第一審判決を破棄し、被告人を無期懲役に処したところ、検察官が上告した事案で、検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は量刑不当の主張であって、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとしたうえで、本件は被害者2名に対する殺人を含む事件であり、その動機は身勝手かつ自己中心的であるというほかなく、被告人の刑事責任は誠に重いものの、犯情を総合的に評価すると、死刑を選択することが真にやむを得ないとまではいい難く、第一審の死刑判決を破棄し、被告人を無期懲役に処した控訴審判決が、刑の量定において甚だしく不当であってこれを破棄しなければ著しく正義に反するものということはできないとして、本件上告を棄却した事例。