グループ法人税制と連結納税制度の比較検討のポイント

第5回 受取配当等の益金不算入制度と寄附金に関する実務上のポイント

更新日 2010.06.07

  • X
  • Facebook
税理士  畑中 孝介

TKCシステム・コンサルタント 税理士 畑中 孝介

平成22年度税制改正においてグループ法人税制が創設されました。そこで、皆さんが気になる制度の概要や連結納税制度との相違点、比較検討のポイントなどを全10回にわたって連載いたします。

2010年6月7日掲載

 今回は、グループ法人税制の「グループ内受取配当等の益金不算入制度と寄附金に関する実務上のポイント」について説明します。

【グループ内受取配当等の益金不算入制度と実務上のポイント】

 グループ法人税制では、完全子法人株式等の受取配当等について、益金不算入制度を適用する場合には、負債利子控除を適用しないこととなりました。その結果として、受取配当等は全額益金不算入になります。すでに、連結納税制度で同様の制度があるのはご存じのことと思います。
 前回の譲渡損益調整資産やグループ内の寄附金同様、100%資本関係にある企業からの配当等は、グループ内の内部取引であるため、二重課税が防止されることになります。
 この制度の導入の目的は、グループ内での資金移動を活性化させ、グループの経営資源を最適化することで、親法人の株主配当の増加や設備投資原資の増加を図ることとされています。また、連結納税制度と、制度の統一を図るものでもあります。

 この制度は、事業年度単位で判定することになるため、平成22年10月1日以降ではなく、平成22 年4 月1 日以後開始事業年度から適用されますので、注意が必要です。
 また、同様の制度としてグループ内での現物配当(みなし配当を含む)についても、含み益(譲渡損益)を繰り延べられることとなり、"源泉徴収も不要"とされました。
 今までは、現物配当を行いたくても、含み益のある資産を現物配当しようとする場合には、課税対象となり源泉徴収されていました。これを回避するため、適格会社分割等の制度を利用していた場合も多くありましたが、今後は現物配当を行えるようになるため、時間とコストが大幅に軽減されると思われます。これによって、円滑な組織再編が促進されることになります。
 どのような制度を使って組織再編するのか、ますます手法の選択とシミュレーションの重要性が増すことになりました。また、グループキャッシュマネジメント等を利用している企業についても、今後は配当金との使い分けが必要となります。

 ここでの実務上のポイントとして、以下の3点への対応が必要になります。

  1. 有価証券の分類「完全子法人株式」等の新設を子法人に周知徹底
    今まで、株式の区分は「関係会社株式」「その他の株式」の2区分でした。今回、新たに「完全子法人株式」といった分類が必要になります。子法人に対しこの点の周知徹底を図る必要があります。
  2. グループ全体での受取配当等の益金不算入の別表の作成と影響額の把握
    受取配当等の益金不算入制度を適用していない子法人があった場合、タックスメリットを取っていないケースも見受けられます。それらの法人に対する指導が必要です。
  3. グループ全体での経営資源最適化の観点からの、子法人の配当方針の見直し
    先にも触れましたが、この制度を活用し、グループ内での資金移動を活性化させ、グループ全体最適化の視点によって、親法人の株主配当の増加や設備投資原資の増加を図ることができます。配当方針の見直しを行うことも必要と思います。

 この3点から考えると、タックスメリットを取り漏らさない、グループ法人税制・連結納税制度における受取配当等の益金不算入のメリットを享受できるよう、当制度を必ず適用するように、子法人に指導するのが望ましいと思います。

【グループ内寄附金の益金不算入制度と実務上のポイント】

 今回の税制改正によって、100%資本関係にあるグループ内寄附金も、支出側:全額損金不算入、受領側:全額益金不算入となり、課税所得を構成しないことになりました。このことは、一見、課税上は受取配当金とまったく同様になったと誤解してしまいます。しかし、別表様式には規定されておりませんが、連結納税制度同様に一定のグループ"法人間の寄附"(寄附修正事由)については、利益積立金額と有価証券の帳簿価額を修正する規定が置かれています。配当金と寄附金ではこの帳簿価額修正の部分について取り扱いが異なっているため、子法人からの資金還流の際には有利不利の判定に注意が必要です。
 また、現段階では、いわゆる認定配当(法基通1-5-4)との関係及び子会社の支援等に関する通達(法基通9-4-1.9-4-2)についての影響は不明確です。その改正動向も注目されます。

  • X
  • Facebook

この連載の記事

テーマ

プロフィール

この執筆者の記事一覧へ

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 畑中 孝介

税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員

略歴
ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。
著書等
  • 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
  • 『令和6年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
  • 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
  • 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
  • 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
システム・コンサルティング事例
ホームページURL
ビジネス・ブレイン税理士事務所

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。