更新日 2012.10.29

連結納税の基礎

連結所得の計算Ⅰ ①単体調整から②単体での連結調整まで

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税理士 藤井規生TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 藤井 規生
制度創設から10年が経過し、繰越欠損金の持ち込み制限の緩和や復興特別税の創設等、連結納税制度の適用を検討するためのポイントも変遷しています。
そのため、このコラムでは、連結納税制度の適用を検討するにあたり必要となる制度の基礎的な理解や制度創設時とは変わった点について、わかりやすく解説します。

 単体申告の課税標準である所得金額は、その事業年度の決算において確定した損益計算書の当期利益からスタートし、法人税の別段の定めによる各種調整計算をして算出します。
 連結納税の所得金額の場合はどのように計算されるのでしょう。連結財務諸表の利益からスタートするのでしょうか?
 結論から言えば、連結納税にとって連結財務諸表は一切関係ありません。
 連結納税でもスタートは各連結法人の当期利益であり、それに対して各種調整計算するという大きな流れは単体申告と同様です。連結納税の課税標準である連結所得(連結グループ全体の所得)の計算方法は「意外にシンプル」なのです。
 それでは、下記のイメージに基づいて、連結所得の計算過程とその特徴を見ていきましょう。

<連結所得の計算>

連結所得の計算イメージは下記のとおりです。

①単体調整

 これは、連結グループの各法人が単体申告と同様に所得調整を行うものです。主に、減価償却費等の損金経理が要件となっている計算項目がこれに該当します。

<連結納税での留意点>

1.貸倒引当金

(1)
連結親法人が税法上の大法人に該当する場合、連結子法人が中小法人であっても、一括評価金銭債権の繰入限度額を計算する場合は、貸倒実績率を使用する必要があります。連結納税開始前に、法定繰入率を使用していた連結子法人は、貸倒実績率の計算基礎を整理しておく必要があります。
(2)
繰入限度額の計算及び一括評価金銭債権に係る貸倒実績率の計算において、連結グループ内の法人間の金銭債権は除外することになっています。
(3)
平成24年4月1日以後開始事業年度より、貸倒引当金制度の適用は中小法人や銀行・保険会社等に限定されています。

2.減価償却費

(1)
償却限度額の計算において、連結納税の開始時または加入時に時価評価が行われた資産については「評価益は、取得価額の増額」・「評価損は償却費として損金経理した金額」として取り扱われます。

②単体での連結調整

 連結グループ各法人が単体で所得調整を行うもののうち、連結納税特有の調整が必要とされるものです。主に、連結法人間取引の損益調整と子法人株式譲渡時の帳簿価額修正があげられます。

1.連結法人間取引の損益の調整

 この概念は、グループ法人税制にも導入されていますね。企業グループ内部の取引による損益は除外するという発想で、連結決算に通ずる考え方ですが、実務上の事務負担を考慮して調整する対象は一定の資産に限定されています。
 この規定により、譲渡法人で繰延べた譲渡損益は、譲受法人が再譲渡又は除却・償却等費用化した場合に譲渡法人の所得計算に反映させることになっています。

譲渡損益調整資産 (※譲渡直前の帳簿価額が1,000万円未満のものを除く)

資産の種類 備 考
固定資産  
土地 土地の上に存する権利を含む
有価証券 売買目的有価証券や譲渡を受けた法人において売買目的有価証券とされる有価証券は対象外
金銭債権  
繰延資産  

※上記の譲渡損益調整資産は、第3回で取り上げた"時価評価"の対象資産とよく似ていますので混同しないようにしましょう。

2.子法人株式の帳簿価額修正

(1)
連結納税事業年度においても、連結子法人の連結個別利益積立金額(課税済利益剰余金)は増減します。本来であれば、連結子法人株式を保有している連結法人は、増減発生の都度、連結子法人株式の帳簿価額を修正すべきです。
 しかし、実務が煩雑になるため、連結納税においては、次の事由が発生した場合に、まとめて子法人株式の帳簿価額を修正することとされています。
1)
連結納税グループ内の法人間で連結子法人株式を譲渡する場合
2)
連結子法人が連結納税グループから離脱する場合
3)
連結納税を取り止める場合
4)
その他(連結子法人株式の評価替えや非適格再編等の事由発生の場合)

 帳簿価額修正を行う目的は、連結グループに対する二重課税や二重控除を防止することですから、連結子法人株式に係る譲渡損益が実現する際に、まとめて帳簿価額(譲渡原価)を修正(連結納税加入期間における連結個別利益積立金額の増減額を反映)し、譲渡損益から課税済の額を排除すれば事足りるというわけです。
 グループ法人税制においても、グループ間の寄附があった場合には、株式を保有する法人がその法人の帳簿価額を修正する「寄附修正」の規定がありますね。よく似ていますが、連結納税ではこの帳簿価額の修正は、まとめて行うというところがポイントです。

 ここまでが連結所得の「②全体の仮計」までとなります。 冗長に説明してもわかりづらくなりますから、今回はここまで。
 次回(第6回)は、「③全体での連結調整」から連結所得が算出されるまでを解説します。

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 TKC企業グループ税務システム普及部会会員 税理士 藤井規生

税理士 藤井 規生(ふじい のりお)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

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税理士法人創経

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