連結納税の基礎

連結納税の適用による6つのメリット

更新日 2012.09.18

  • X
  • Facebook

税理士 藤井 規生TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 藤井 規生
制度創設から10年が経過し、繰越欠損金の持ち込み制限の緩和や復興特別税の創設等、連結納税制度の適用を検討するためのポイントも変遷しています。
そのため、このコラムでは、連結納税制度の適用を検討するにあたり必要となる制度の基礎的な理解や制度創設時とは変わった点について、わかりやすく解説します。

 グループ各社それぞれを課税単位とする単体申告(グループ法人税制も含みます)と、企業集団を1つの課税単位とする連結納税では、適用される制度が異なりますから、所得金額及び納付税額に差が生まれることになります。今回は、連結納税制度を適用することによって実現できる6つのメリットについて解説します。

1.損益通算

 これは、グループ各社の所得(黒字)と欠損(赤字)を相殺できるという意味です。黒字と赤字を相殺する訳ですから、黒字の額は小さくなりますよね。単純に言えば、法人税額は、所得金額に税率をかけて求められるので、所得の額が小さくなれば税額も小さくなり節税になるということです。単体申告ではこれができませんから、黒字の法人は納税する、赤字の法人は繰越欠損金として繰り越すということになります。
 下の図は単体申告と連結納税の法人税額の差異を単純な例で比較したものです。グループ全体では赤字である子法人S2の分だけ法人税額の発生が抑えられていることが分かります。また、赤字である子法人S2の納税額-510はなんら課税を受けることなく親法人Pから貰えますからキャッシュフローが増加します。このメリットは大企業だけでなく中小企業にも等しくもたらされるのです。

連結納税グループ各社 所得金額 法人税(25.5%) 差額
単体申告 連結納税
親法人P 5,000 1,275 1,275 0
子法人S1 1,000 255 255 0
子法人S2 -2,000   -510 -510
子法人S3 1,000 255 255 0
グループ合計 5,000 1,785 1,275 -510

2.繰越欠損金の解消

 繰越欠損金がある場合には、損益通算した後になお黒字が残っていれば繰越欠損金を控除することができます。単体申告では親法人単独の所得が発生せず繰越欠損金を解消できない場合でも、連結納税においては、グループ各社の所得を利用して繰越欠損金を解消することができるのです。(下記の図を参照)
 なお、平成22年度の税制改正により子法人の繰越欠損金のうち一定のものは、その子法人の個別所得を限度に繰越控除が出来る様になりました。また、平成23年12月の税制改正では、①欠損金の繰越控除限度額が繰越控除前の所得金額の80%(中小法人等を除き、平成24年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。)に制限され、②繰越控除期間が7年から9年(平成20年4月1日以後に終了した事業年度において生じた欠損金額から適用されます。)に延長されました。
 繰越欠損金の控除は、その欠損金の種類や発生年度によっても控除条件や計算方法が異なりますので、注意が必要です。

連結グループ各社 繰越欠損金控除
前の単体の所得
繰越欠損金 所得金額
単体申告 連結納税
親法人P 5,000 8,000 1,000 -1,400
子法人S1 4,000   4,000 4,000
子法人S2 -2,000   0 -2,000
子法人S3 1,000   1,000 1,000
グループ合計 8,000 8,000 6,000 1,600

3.受取配当等には課税されない

 連結納税グループ各社からの配当金は100%益金不算入となるので所得にならない。つまり税金がかかりません。これは、グループ法人税制にも導入されましたが、純粋持ち株会社である親法人の場合は、収入の大半がグループ子法人からの配当であることが多いですから課税されないのはメリットですね。
 ついでに、海外子会社からの配当金は、95%益金不算入とされています。これによって、親法人の所得は減りますが、所得が減りすぎると欠損になりますね。単体申告ではグループ各社の所得は利用できませんから、親法人の繰越欠損金が長期間にわたり解消できずに期限切れになることも想定されます。よって、上記1.の損益通算との相乗効果が大きいと言えます。海外進出される日本企業も増加していますので連結納税の注目度が上がるのも頷けます。

4.税額控除額の拡大

 直接的に税額から引けるので節税においては影響が大きいものです。単体申告と比較すると、試験研究費や外国税額において控除限度額(引くことができる限度額)が大きくなるケースがあります。控除限度額は、税額を基準に求められる仕組みになっていますから、グループ各社の合算所得に対する法人税額が高くなれば控除限度額も拡大し、結果的に税額が抑えられるといったイメージです。

5.税効果会計

 税務からは少し外れますが、節税だけでなく、繰延税金資産の計上においてもメリットがあります。連結納税においては、2.の通りグループ各社の所得を利用して繰越欠損金の解消ができますから、将来、繰越欠損金を引けるだけのグループ所得が見込まれれば、法人税について繰延税金資産を計上できることになります。また、3.のように、親会社の所得が減る傾向にある中、単体申告においては所得が発生しなければ一時差異に係る繰延税金資産の計上ができないところ、連結納税においてはグループ所得の発生により一時差異に係る繰延税金資産の計上が可能となります。税効果は、税引後利益や総資産価額に大きな影響を与えます。このメリットも意外と大きいのです。

6.組織再編が容易に

 連結納税制度の下でグループ内の組織再編を行った場合には、組織再編前と後での法人税の負担が変わらず、税務上の課題を意識せずに組織再編を行えることも大きなメリットになります。

  • X
  • Facebook

この連載の記事

テーマ

プロフィール

この執筆者の記事一覧へ

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 TKC企業グループ税務システム普及部会会員 税理士 藤井規生

税理士 藤井 規生(ふじい のりお)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

ホームページURL
税理士法人創経

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。