更新日 2012.11.26
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 藤井 規生
制度創設から10年が経過し、繰越欠損金の持ち込み制限の緩和や復興特別税の創設等、連結納税制度の適用を検討するためのポイントも変遷しています。
そのため、このコラムでは、連結納税制度の適用を検討するにあたり必要となる制度の基礎的な理解や制度創設時とは変わった点について、わかりやすく解説します。
第5回と6回にわたり、連結所得までの計算体系を見てきました。今回は、連結所得から「連結法人税額」(連結納税グループ全体の法人税額)、及び「連結法人税の個別帰属額」(各連結法人が負担する連結法人税額)計算までの流れを確認していきましょう。
<連結法人税額の計算>
連結法人税額の計算イメージは下記のとおりです。
1.連結法人税額の計算
青の破線部分となります。前回までのコラムをご覧いただいた方は想像がつくのではないでしょうか。連結法人税額は、連結所得金額に法人税率を乗じて税額控除等を加減算して求めます。
2.連結法人税の個別帰属額の計算
赤の破線部分です。連結法人税額を各連結法人に配分するのではなく、各連結法人ごとに連結法人税の個別帰属額を計算し、その合計が、結果的に連結法人税額と一致することとなります。連結法人税額の計算と連結法人税の個別帰属額の計算を並行して行うイメージです。
連結法人税の個別帰属額計算にあたっては、各連結法人の個別所得金額だけでなく、個別欠損金額にも税率を乗じます。「マイナスの連結法人税の個別帰属額」が発生することになりますから注意が必要です。
第4回「申告書の種類と提出時期・電子申告のメリット」の「納付・還付」で解説した、子法人S2の法人税等に関する仕訳が「(借方)未収入金(貸方)法人税等」となる理由はここにあります。
それでは連結法人税額の計算イメージに沿って、①~③のステップごとに計算体系を確認しましょう。税額控除等が中心となりますからややこしい部分ですが、単体ベースの連結税額調整と、連結ベースの連結税額調整の2種類があることを押さえてください。
①「調整前連結税額」の計算
連結法人税の課税標準である連結所得金額に乗ずる税率は、連結親法人の資本金の額等に応じて単体申告と同様(連結納税制度導入初期の二年間は2%の付加税が課されるという暗黒時代がありました。)に下記の税率となっています。
連結親法人の種類 | 所得金額 | 税率A | 税率B | |||
---|---|---|---|---|---|---|
本則 | 特例 | 本則 | 特例 | |||
普通法人 | 資本金1億円超 | 30% | - | 25.5% | - | |
資本金1億円以下 | 年800万円以下 | 22% | 18% | 19% | 15% | |
年800万円超 | 30% | - | 25.5% | - |
- 税率A
- H24年4月1日前に開始する事業年度
- 税率B
- H24年4月1日以後に開始する事業年度
- 特例
- H24年4月1日からH27年3月31日までの間に開始する事業年度
よって、親法人の資本金の額等が1億円以下であれば、子法人の資本金の額等が1億円超であってもグループ全体として軽減税率が適用され、逆に親法人の資本金の額等が1億円超であれば、すべての子法人の資本金の額等が1億円以下であっても軽減税率は一切適用されないのでご注意ください。
なお、一定の場合を除き、H24年4月1日からH27年3月31日までに開始する事業年度から3年間は、通常の法人税のほか、復興特別法人税(基準連結法人税額の10%)が課されます。
また、連結親法人が特定同族会社に該当する場合で、連結留保金額が連結留保控除額を超えるときは、上記の法人税の額に加え、その超える部分の金額に対して一定の特別税率(10%、15%、20%)を乗じて計算した連結留保税額が課されます。
②「単体連結税額調整」
①で計算した調整前連結法人税額について、措置法による投資税額控除等(試験研究費の税額控除を除く。)の単体申告ベースでの連結税額調整を行います。なぜ単体計算で行うかというと、措置法上の税額控除は特定の業種や規模など個別法人毎の状況に対して適用することが前提になっているからです。しかしながら、単純に単体申告と同じ計算ではなく、税額控除額は、各連結法人の連結法人税個別帰属額の一定割合以下であることに加え、連結法人税額の一定割合以下であることが必要ですから、単体では個別所得があっても、連結所得が無い場合には控除額が無くなってしまい、単体申告より不利になるケースも出てきます。
この投資税額控除には、中小連結法人が機械等を取得した場合等の特別税額控除や事業基盤強化設備等を取得した場合の特別税額控除等が該当します。
③「全体連結税額調整と配分」
次に、下記の連結ベースの連結税額調整を行い、この調整額はグループの各法人へ配分します。
1.試験研究費の特別税額控除
単体申告と同じ考え方ですが、連結納税の場合には試験研究費の税額控除額の計算を連結納税グループ全体で行います。そして計算された税額控除額を各連結法人の個別帰属額として配分します。また、特別試験研究費に係る特別税額控除も同様です。
{留意点}
試験研究費の総額に係る特別控除額の計算上、"試験研究費割合"の分母の4年間の平均売上金額の合計額や、高水準型税額控除の税額控除限度額の計算基礎となる平均売上高の合計額には、試験研究費を支出していない連結法人分も合計する必要があります。
2.所得税額控除
単体申告と同様に、その連結事業年度において利子・配当等に課された所得税額は、元本所有期間(連結納税グループ全体で判定します。)に対応する額が連結法人税額から控除されます。
また、控除できる額は「原則法」または「簡便法」のいずれかを選択して計算し、その控除を受ける所得税額は損金不算入となり、連結法人税額から控除しきれなかった場合には、還付されます。
{原則法(個別法)}
利子配当等に課された所得税の額に、利子配当等の計算の基礎となった期間の月数のうち、元本を所有していた期間の月数の占める割合を乗じて計算します。また、この計算は、元本の1口または1株毎に算定します。
{簡便法(銘柄別簡便法)}
所得税の額に係る利子配当等の元本を、イ・公社債、ロ・株式等、ハ・集団投資信託の受益権の3種類に区分し、さらに元本を利子配当等の計算期間が1年を超えるものと1年以下のものとに区分し、銘柄毎に控除する所得税の額を計算します。
- A=
- 各連結法人の利子配当等の計算期間の開始時における所有元本数の合計数
- B=
- 各連結法人の利子配当等の計算期間の終了時における所有元本数の合計数
{所得税額控除額の個別帰属額}
利子配当等以外に課された所得税額は、その全額が控除対象なので源泉徴収された各連結法人に帰属します。利子配当等に課された所得税額について個別法による場合には、源泉徴収された各連結法人に上記の個別法で計算した金額がそれぞれ帰属し、銘柄別簡便法による場合には、上記の算式で連結納税グループ全体での控除額を計算して、それを利子配当等の元本の銘柄毎にそれぞれの連結法人が課された所得税額に応じて按分計算した金額が帰属します。
3.外国税額控除
単体申告と同様ですが、違いは、連結納税グループを一体として控除限度額を計算する点になります。連結納税では連結納税グループ全体の連結所得金額に対する法人税額に、その連結所得のうちに連結国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額を連結控除限度額とします。そして、連結控除限度額を各連結法人に配分し、その配分された各連結法人の連結控除限度額個別帰属額の金額を限度として控除額を計算し、その合計額が連結納税グループにおける外国税額控除額となります。
(各連結法人及び連結グループ全体の控除額の計算)
各連結法人が、その連結事業年度の個別控除対象外国法人税の額を、上記により配分された連結控除限度額個別帰属額を限度として個別の外国税額控除額を計算します。そして、その個別の外国税額控除額の合計額が、連結所得に対する法人税額から控除される外国税額控除額となります。
これで第5回、6回、7回と3回にわたり基礎的な連結所得と連結法人税額の計算を確認してきました。当コラムは「わかりやすい」をモットーにしていますが、この3回はどうしても専門用語が多くなります(連結納税が嫌いになった方もいらっしゃるのでは?と危惧しております)。
まずは"鳥の目"で全体を捕え、次に"虫の目"で細部を確認し、"魚の目"で流れをつかんでいただければ幸いです。
次回は、なぜ個別所得金額や連結法人税の個別帰属額を計算する必要があるのか、そして、連結納税下での地方法人2税の取扱いについて解説します。
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