連結納税の基礎

連結納税制度適用の注意点(時価評価と繰越欠損金)

更新日 2012.10.01

  • X
  • Facebook

税理士 藤井 規生TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 藤井 規生
制度創設から10年が経過し、繰越欠損金の持ち込み制限の緩和や復興特別税の創設等、連結納税制度の適用を検討するためのポイントも変遷しています。
そのため、このコラムでは、連結納税制度の適用を検討するにあたり必要となる制度の基礎的な理解や制度創設時とは変わった点について、わかりやすく解説します。

 連結納税を開始する前(連結納税グループに新たに加入する前を含みます。)に連結子法人が通過しなければならない関門として「時価評価」があります。また、連結子法人が連結納税に参加する前に生じた青色繰越欠損金は連結納税に持ち込むことが原則としてできない(切り捨てられる)こととなっています。これは、連結納税の主人公である親法人は別格として、従たる子法人は単体申告から連結納税という別制度へとステージが変わるため、最後の単体申告時において一旦含み損益の精算をするとともに、青色繰越欠損金は切り捨てて連結納税の導入を利用した租税回避を防止しようとするものです。
 ただし、平成22年度税制改正において、一定の子法人については課税上の弊害がないと考えられるため、連結納税開始前の時価評価の適用除外及び青色繰越欠損金の持ち込みが可能となっています。よって下記の様な子法人については時価評価及び青色繰越欠損金の切捨は考慮する必要がありません。

1.時価評価をしなくていい子法人の例

  • (1)完全支配関係が5年超継続している場合
    • ①親法人の100%子法人
  • (2)完全支配関係が5年以内の場合
    • ①株式移転に係る完全子法人(実質親法人)
    • ②親法人又は子法人となる法人が設立した100%子法人
    • ※細かくなりますが(2)①②以外でも、
      • 1)適格株式交換による株式交換完全子法人(一定の要件を満たす必要あり)
      • 2)適格合併等による被合併法人等が保有していた子法人
      • 3)法令の規定による単元未満株式等の取得による100%子法人
      • 4)完全支配関係を有してから2ヶ月以内にその完全支配関係を有しなくなる法人があります。

2.時価評価

(1)だれが、いつ時価評価をするのか
 時価評価は連結子法人が連結納税を開始する直前の事業年度末に有する「時価評価資産」の評価益又は評価損について、連結納税を開始する直前の事業年度の所得の金額の計算上、益金の額または損金の額に算入します。あくまで税務上で評価損益を計上するだけであり、会計上はなんら処理しません。よって、法人税の別表での加算・減算を行います。

(2)どんな資産を時価評価するのか
 基本的には、棚卸資産(土地は例外です)以外の資産が時価評価の対象となりますが、含み損益がその子法人の資本金等の額の50%相当額又は1000万円のいずれか少ない金額未満の資産については、時価評価は不要となっています。

(3)時価の算出方法
 時価といっても、実務上どう評価したらいいか困ってしまいますよね。そこで、国税庁が時価評価の対象資産の種類別算定方法として基本通達に掲げているのが概ね下記の内容です。この算定方法であれば時価評価はそんなに手ごわくないですね。

資産の種類 時価算定方法 備考
減価償却資産 有形減価償却資産は、再取得価額を基礎としてその取得時から時価評価時まで旧定率法で償却した後の未償却残額。
無形固定資産及び生物は、取得価額を基礎としてその取得時から時価評価時まで定額法により償却をした場合の未償却残額。
 
土地 近傍類似の売買事例や公示価格等から合理的に算定した価額。 土地については棚卸資産であっても時価評価が必要です。
有価証券 上場有価証券は市場価格。
非上場有価証券は、売買実例価格、類似法人の株式価額に批准して推定した価額、純資産価額等参酌した価額。
売買目的有価証券や償還有価証券は、時価評価の対象外です。
金銭債権 貸倒れが見込まれる金銭債権は、個別貸倒引当金繰入限度額相当額を控除した残額。
それ以外の金銭債権は、帳簿価額。
 
繰延資産 会社法上の繰延資産は帳簿価額。
税法上の繰延資産は、その取得価額を基礎としてその支出時から時価評価時までその支出の効果の及ぶ期間に応じて償却した時の未償却残額。
 

3.繰越欠損金

(1)繰越欠損金の控除
 連結納税では、連結親法人の連結事業年度開始の日前9年以内に開始した各連結事業年度において生じた連結欠損金額(各連結事業年度の損金の額が益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額)については、その各連結事業年度の所得の金額の計算上、損益通算をした後になお黒字が残っている場合には損金の額に算入(一定の場合を除き控除前連結所得金額の80%が限度となります。)され、基本的には単体申告と同様の考え方と言えます。

(2)繰越欠損金の持ち込み
 連結親法人または上記の時価評価をしなくていい子法人(特定連結子法人といいます。)が、連結納税開始前または加入前に有していた青色繰越欠損金額については、連結事業年度において生じた連結欠損金額とみなされますので、連結所得の金額の計算上、損金の額に算入されます。
 ただし、特定連結子法人が連結納税に持ち込んで連結欠損金額とみなされた金額(特定連結欠損金額といいます。)は、その持ち込んだ連結子法人の個別所得金額を限度として繰越控除され、連結親法人や他の連結子法人の所得から控除することはできません。よって、せっかく特定連結欠損金として持ち込めたとしても、万年赤字の子法人では控除する機会が永遠に訪れないことになります。

税制改正についての資料より

※子法人の連結開始前欠損金の控除は子法人の個別所得金額が限度
(平成22年度 財務省 税制改正についての資料より)

  • X
  • Facebook

この連載の記事

テーマ

プロフィール

この執筆者の記事一覧へ

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 TKC企業グループ税務システム普及部会会員 税理士 藤井規生

税理士 藤井 規生(ふじい のりお)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

ホームページURL
税理士法人創経

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。