連結納税の基礎

個別帰属額等の算定理由と連結納税下の事業税・住民税の取扱い

更新日 2012.12.10

  • X
  • Facebook

税理士 藤井規生TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 藤井 規生
制度創設から10年が経過し、繰越欠損金の持ち込み制限の緩和や復興特別税の創設等、連結納税制度の適用を検討するためのポイントも変遷しています。
そのため、このコラムでは、連結納税制度の適用を検討するにあたり必要となる制度の基礎的な理解や制度創設時とは変わった点について、わかりやすく解説します。

 第5回から7回にわたり、連結所得から連結法人税額までの流れを確認しました。連結法人税は、連結親法人が連結納税グループを代表して申告、及び納付・還付を受けることになっていますから、グループ全体の連結所得と連結法人税額さえ計算すれば事足りるはずですが、なぜ各連結法人の個別所得金額や連結法人税の個別帰属額を計算する必要があるのでしょうか?

Ⅰ 個別帰属額等を算定する理由

 連結納税は、連結納税グループを一体と捉えて、連結所得金額及び連結法人税額を計算します。しかし、以下の理由により各連結法人の個別所得金額及び連結法人税の個別帰属額を算定する必要があるのです。

{理由1}事業税及び住民税の計算のため

 連結納税は、法人税についてのみ適用できる制度であり、事業税や住民税には適用がありません。地方税は、各法人が所在する地方団体から行政サービスを受けている等、その所在する地域と密接な関係にありますので、グループを一体とした課税は容認できないという立場です。
 よって、連結納税を導入していても、事業税や住民税は従来どおり単体申告をする必要があります。本来ならば、単体申告の法人税の所得金額、及び税額を算定しなければ地方税の計算はできないということになりますが、連結納税の計算に加え、地方税のために単体申告計算を行うとなると、実務は煩雑になります。
 そこで、各連結法人の個別所得金額や連結法人税の個別帰属額を、事業税(所得割)や住民税(法人税割)の課税標準として利用するため、計算しておく必要があります。

{理由2}連結納税の流動性

 連結納税は、一度選択して適用すると簡単にはやめられないことになっていますが、未来永劫に継続されるわけではありません。連結納税のとり止めや、連結納税グループからの離脱があった場合には、個々の利益積立金額等を持って単体申告に移行することになりますので、連結納税においてもそれぞれの法人毎の利益積立金額等を計算しておく必要があります。

{理由3}他の法律全般は単体を前提としていること

 連結納税を導入すると、法人税では連結納税グループ全体を一体とした課税が行われますが、これは法人税だけのルールであり、他の法令全般はあくまで独立した個々の法人単位を前提にしています。よって、連結納税といえども、個別の法人毎に所得金額や法人税額に相当する金額を計算しなければ、様々な権利義務上の問題が生じます。

Ⅱ 連結納税下での事業税・住民税の取扱い

 上述Ⅰ{理由1}のとおり、連結納税下の事業税・住民税は、少なからず連結納税の影響を受けることになります。影響を受ける内容は、以下のものがあげられます。

  1. 法人税でみなし事業年度が発生した場合の地方税の事業年度
  2. 連結納税開始または加入時の連結子法人の時価評価にかかる所得調整
  3. 連結子法人株式の帳簿価額修正にかかる所得調整
  4. 上述の他の単体申告と異なる連結納税における所得調整や税額調整等

1.事業税(所得割)の計算

 事業税(所得割)の計算は、以下の様になります。

事業税(所得割)の計算

 ポイントは、事業税の欠損金の取扱で、連結納税の影響は受けず、事業税は我が道を行くということです。また、外形標準課税の取扱いについては、単体申告と同様に各連結法人毎に適用判定を行った上で計算されます。
 なお、平成23年の税制改正を受けて、繰越欠損金控除限度額の80%制限や繰越控除期間の延長(7年から9年)は法人税と同様の取扱いとなりました。

2.住民税(法人税割)の計算

 住民税(法人税割)の計算は、事業税より少し複雑になります。住民税の法人税割額は、連結法人税の個別帰属額を課税標準として計算されますが、連結法人税の個別帰属額は、連結欠損金額を調整した後の額であり、これを単体申告ベースに調整する必要があります。

住民税(法人税割)の計算

 上述の注2)の連結法人税で利用不可となった繰越欠損金には以下の2種類があります。

(1)控除対象個別帰属調整額

 連結納税開始時または加入時に時価評価が必要な連結子法人は、連結納税開始前の繰越欠損金が切捨てられますが、それはあくまで法人税の取り扱いであり、住民税においては単体申告が継続しています。従って、この切捨てがなかったものとして計算するため、切捨てられた法人税の繰越欠損金額に法人税率を乗じた金額(「控除対象個別帰属調整額」といいます。)を繰越して、住民税独自の欠損金という位置づけで計算します。

控除対象個別帰属調整額の算式

(2)控除対象個別帰属税額

 連結納税制度導入以降に発生した、住民税独自の欠損金です。連結納税においては、ある連結法人の個別所得金額が赤字の場合でも、他の連結法人が黒字であれば損益通算され、その赤字は消えてしまいます。しかし、地方税は単体課税であり、連結納税において他の連結法人に使用されて消えてしまった個別欠損金額に、法人税率を乗じた金額(「控除対象個別帰属税額」といいます。)を繰越して住民税独自の欠損金として計算します。

控除対象個別帰属額の算式

 上述(1)(2)は、名称もそっくりで非常にまぎらわしいですが、この考え方は法人税の青色欠損金の繰戻還付(中小企業者等に限定適用ではありますが。)における「控除対象還付法人税額」と同様です。

 当コラムも8回目となり終盤にさしかかりました。次回は連結納税制度下での税効果会計について解説します。

  • X
  • Facebook

この連載の記事

テーマ

プロフィール

この執筆者の記事一覧へ

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 TKC企業グループ税務システム普及部会会員 税理士 藤井規生

税理士 藤井 規生(ふじい のりお)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

ホームページURL
税理士法人創経

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。