更新日 2026.09.07

TKC税務研究所 特別研究員
御園生 渉
本コラムは、移転価格税制と寄附金課税について、制度の仕組みと相違点を整理し、実務上の適用区分(線引き基準)を検討します。両制度は課税構造が類似しますが、適用の違いにより企業グループとしての税負担や国際的二重課税リスクに差異が生じる点が重要です。本稿では「贈与の意図」と「対価性の有無」を軸に整理するとともに、証拠に基づく事実認定や税務調査上の留意点を具体例により解説します。
当コラムのポイント
- 「移転価格税制」と「寄附金課税」の共通点および相違点
- 両制度の線引きが税負担や二重課税リスクに影響する重要な実務上の論点であること
- 「贈与の意図」と「対価性の有無」に基づく線引きの判断基準
- 目次
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前回の記事 : 第4回 移転価格税制と寄附金課税の線引き基準(その2)
税務署や国税局のTP (Transfer Price:移転価格)セクション以外の職員による一般調査においては、本来、移転価格課税で対処すべき事案が、国外関連者寄附金として否認されるケースが散見される、との声をよく耳にします。
この場合、例えば、次のような事例については、移転価格課税のアプローチで検証することにより、課税上の問題が回避できる可能性もあります。
- イ グループ内役務提供取引(IGS)
- 海外の親会社等から、本社費用、管理費用、マネジメントフィー等の名目で、グループの子会社等に対し多額の費用が配賦されている場合、税務調査で寄附金課税が検討されるケースがあります。
しかし、親会社からグループの子会社等に提供される経営、技術、財務又は営業上等の活動が、当該子会社等にとって経済的又は商業的価値を有する場合(これは同じ活動に対して非関連者間で対価が支払われるか否か等により判定します。)には、その取引は「グループ内役務提供(Intra-group services:IGS)取引」に該当し、適正な対価の授受が必要となります(移転価格事務運営要領3-10 (企業グループ内における役務提供の取扱い))。
IGSの提供は、移転価格税制上、適正な対価を授受すべき正当な取引であり、役務提供の事実を裏付ける書類(サービス提供に係る契約書、親会社等のサービス提供部署の組織体制、サービスの提供方法、サービスの提供事績、対価の算定根拠等)を備え、役務提供の事実や対価の適正性を説明することで、寄附金課税のリスクを回避できます。
逆に、日本の親会社が海外のグループ子会社等に対してIGSの提供を行っているにも関わらず、「親が子の面倒をみるのは当たり前」等の認識により対価を収受していない場合は、移転価格税制の適用により、ALP対価相当額を国外移転所得金額として課税されるリスクがあります。
なお、IGSの適正対価(ALP)は、原則として比較対象取引を選定した上で、役務提供に要した総原価に比較対象取引に係る利益率より算定した適正な利益をプラス(マークアップ)して算定するCP法等が原則的な方法となります。他方、当該役務提供が支援的性質を有し、企業グループの中核的事業活動に直接関連せず、かつ無形資産を使用していないこと等の一定の要件を満たす低付加価値IGS(いわゆるバックオフィス的な業務を想定)については、総原価に5%の利益を加算する「5%マークアップ法」(比較対象取引の選定プロセスを省略できます。)により算定した対価の額をALPとして取り扱うことができます(移転価格事務運営要領3-11(1))。 - ロ ブランド等の販売用無形資産
- 一般に、親会社が開発した製品の製造技術や優れた製品性能などに係る特許権等の使用許諾契約に基づくロイヤリティの支払い事例は多く見受けられますが、日本に進出している、いわゆるブランド品等を取り扱う外資系企業グループの日本販社が、製品対価とは別途、企業名・製品名等のブランドの使用料等として、日本での売上高の一定割合等による多額のロイヤリティを海外の親会社等に支払っている場合、税務調査において寄附金課税が検討されるケースがあります。
しかし、海外の親会社による企業や製品などのグローバルな広告活動等により、日本において当該ブランドが広く認知され、これにより一定のマーケットシェアと安定的な販売価格を維持できている等、当該ブランドが日本において高い利益を生み出している重要な無形資産と認定された場合には、移転価格分析により算定した適正なロイヤリティ、又はそのロイヤリティ相当額を加味した製品対価の親会社への支払いは、当該無形資産の使用に対する適正な対価となります。
また、日本の親会社が企画・立案した海外子会社の販売促進戦略(例えば、新規参入市場において自社製品や企業ブランドを浸透させるため、一定期間、大幅にディスカウント販売して市場シェアの拡大を図る場合など)に係るコストを親会社が負担するために、製品の輸出価格を値引又は別途、金銭を支出しているケースも考えられます。
この場合、当該販売促進戦略に係る事業リスクを日本の親会社が引き受けている場合には、その実施に伴う費用負担にも一定の合理性が認められます。リスク引受けの有無については、対象製品・値引幅・実施期間など当該販売促進戦略の策定と子会社への指示、実施の意思決定、中・長期的なシェアや収益拡大の予測と実績評価、さらには戦略継続の見極めなど、当該事業戦略に関する意思決定及びリスク管理等を誰が実質的に担っているかといった観点から判断します。
なお、このような機能・リスク分析の結果、親会社が当該販売促進戦略に係る事業リスクを引き受け、その費用を負担していると判断され、その成果として形成されたブランド価値や市場シェア等の重要な無形資産が、現地の同業他社に比べ海外子会社に高い利益をもたらしている、との事実認定がされた場合には、当該重要な無形資産が生み出す超過的な利益はその形成等に貢献した親会社に帰属することとなります。したがって、このような場合には、上述の海外ブランドのケースと同様、その貢献に見合う適正なロイヤリティ、又は当該ロイヤリティ相当額を加味した製品対価を海外子会社から収受する必要があります。 - ハ 業務委託料・サービスフィー等
- 上記イのIGSに係る移転価格事務運営要領3-10の(5)では、「法人が国外関連者に対し支払うべき役務提供に係る対価の額の妥当性を検討するため、当該法人に対し、当該役務提供の内容等が記載された書類(例えば、帳簿や役務提供を行う際に作成した契約書等)の提示又は提出を求めることとする。この場合において、当該役務提供の実態が確認できないときは、措置法第66条の4第3項(国外関連者寄附金)の規定の適用について検討することに留意する。」とされています。
例えば、日本の親会社が特定の海外子会社に支払っている業務委託料やサービスフィー等の名目の金銭の支出について、その委託業務の具体的内容やフィーの算定根拠が曖昧である場合には、当該支出が対価を伴う取引に基づくものではなく、単なる金銭の贈与、との事実認定がされる可能性があります。この場合には、寄附金課税に加え、取引を仮装した架空取引と認定され、不正計算に係るペナルティの対象となってしまうリスクもあります。
しかし、当該金銭支出の見返りとして、何らかの対価的意義を有する役務提供や経済的利益等の便益を受けている場合には、その支払対価が提供された役務等の内容に比べて不釣合いに高額と見えるものであったとしても、前述の贈与を意図した対価設定が行われている場合を除き、基本的には移転価格税制により評価されるべきものと考えられます。すなわち、当該役務提供取引等が国外関連取引に該当する以上、その対価の妥当性についてALPとの比較検証を行い、過大と認められる部分については国外移転所得金額として否認されるにとどまります。
企業にとって大きなダメージとなる不正計算による否認を避けるためには、税務当局に対して、具体的な役務提供等の便益を享受している事実(契約締結の目的や必要性、役務等の具体的内容と提供の事績等)とその対価の算定根拠等について明確に説明・立証できるよう、関連する証拠資料を整備・保存しておくことが重要となります。
なお、令和8年度税制改正では、「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が創設されました。内国法人が関連者との間で、販管費等の費用に計上される一定の「関連者間取引(注)」を行った場合において、その取引の契約書や見積書等の取引関係書類等に、その取引に関する資産や役務提供の明細・内容、取引対価の明細や計算方法等の特定事項の記載又は記録がないときは、それらの事項を明らかにする書類(特定事項等記載書類)を確定申告期限までに取得又は作成して、7年間保存しなければならないこととされました(法規59の2、67の2)。これらの書類の保存が法令の定めに従って行われていないことは、青色申告の承認の取消事由等となります(法法127①一)。 - (注) 「関連者間取引」とは、工業所有権等の無形資産の譲渡・貸付け、関連者の知識経験等を活用した研究開発・広告宣伝等やシステムの維持管理等のシェアードコスト取引、関連者の知識経験に基づく経営の管理指導や情報提供その他の役務提供取引及びこれらの役務提供に類するもの、とされています。
- この特例の適用対象となる「関連者」とは、移転価格税制における国外関連者と同様の基準により判定され、規定上、対象は単に「法人で」とされていますので、内国法人・外国法人を問わず、当該内国法人との間で50%以上の資本関係や実質支配関係等のある全ての関連法人が対象となります。したがって、移転価格税制の対象となる国外関連者も含まれるものと思われます。
この特例を設けた趣旨は、企業グループ間で行われる関連者間取引に該当する経費等のチャージ取引について、調査に当たり、その取引内容や支払額の計算根拠等の資料が十分に示されない場合には、当該支払額の適正性を検証することが困難となることから、それらの資料の保存等を義務付けることとしたものであり、課税の公平の観点からは、当然の規定とも思われます。
一般に、このような課税上の問題は、執行管轄権の制約により当局による反面調査が制限されるクロスボーダー取引において、とりわけ顕在化しやすいと考えられます。特に、海外親会社等から日本の子会社に対して様々な費用がチャージされるケースにおいては、事実関係の把握が一層困難となる傾向があります。
したがって、今後は、国外関連者との間でこの特例の対象となる「関連者間取引」に該当する国外関連取引が行われる場合には、青色申告の承認取消しという厳しいペナルティーが課される可能性も視野に入れ、企業グループとして、チャージされた各経費等の計上根拠となる書類の作成・保管に関するルール等を整備しておく必要があるものと思われます。 - (参考) 移転価格税制では、国外関連取引を行うすべての法人は、ローカルファイルを作成等して調査官の求めに応じ一定の期限内に提示・提出することとされ、一定規模以上の国外関連取引を行う法人には、確定申告期限までに作成等する同時文書化義務が課されています(措置66の4⑥⑦⑫⑭⑰⑱)。
ローカルファイルとは、国外関連取引の内容(取引の詳細、当事者の機能・リスク・事業方針、市場分析等)及びALPの算定方法や比較対象取引の詳細等を記載した情報です(措置22の10⑥⑫)。
今回、上記の特例で作成等が義務付けられた書類に記載が求められる特定事項の記載内容の程度については、令和8年6月30日発遣の事務運営指針(課法2-11他)の「3」では、「関連者間取引の内容を第三者の立場からみて客観的に把握することができる程度の記載」とされ、「通常求められる範囲を超える詳細な資料の一律の保存等を求める趣旨のものではない」と説明されていますので、ローカルファイルに記載されるような値決めの根拠等の詳細情報までは求められないものと思われます。
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プロフィール
御園生 渉(みそのう わたる)
TKC税務研究所 特別研究員
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