移転価格税制と寄附金課税の論点解説~両制度の線引基準と適合事例~

第1回 移転価格税制の概要

更新日 2026.07.22

TKC税務研究所 特別研究員 御園生 渉

TKC税務研究所 特別研究員

御園生 渉

本コラムは、移転価格税制と寄附金課税について、制度の仕組みと相違点を整理し、実務上の適用区分(線引き基準)を検討します。両制度は課税構造が類似しますが、適用の違いにより企業グループとしての税負担や国際的二重課税リスクに差異が生じる点が重要です。本稿では「贈与の意図」と「対価性の有無」を軸に整理するとともに、証拠に基づく事実認定や税務調査上の留意点を具体例により解説します。

当コラムのポイント

  • 「移転価格税制」と「寄附金課税」の共通点および相違点
  • 両制度の線引きが税負担や二重課税リスクに影響する重要な実務上の論点であること
  • 「贈与の意図」と「対価性の有無」に基づく線引きの判断基準
目次

1.はじめに

 移転価格税制は、法人と国外関連者との間で国境をまたいで行われる国外関連取引について、その対価が独立企業間価格(Arm’s length price、以下「ALP」という。)と異なる場合に、当該取引がALPで行われたものとみなして、その差額に課税する制度です。
 一方、寄附金課税の制度は、法人が時価と異なる対価で行う低廉譲渡や高価買入取引について、取引が時価で行われたものとして、その差額を寄附金と認定した上で、一定の限度額を超える部分の損金算入を否認する制度です。
 また、国外関連者に対する寄附金は全額が損金不算入とされ、いずれの制度においても社外流出として処理されることから、税務調査による課税処分の結果は、類似したものとなります。
 本稿では、このように類似した制度である移転価格税制と寄附金課税について、それぞれの制度概要を整理したうえで、両制度の課税による影響等を踏まえつつ、両制度のあるべき線引き基準(実務上の適用区分)を整理します。あわせて、その整理を踏まえた税務調査における留意点等についても解説します。

2.移転価格税制の概要

(1) 移転価格税制とは

 企業が海外の関連企業との取引価格(=移転価格(Transfer Price:TP))を通常の価格と異なる水準に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となります。

移転価格税制とは

 例えば、この例で日本の親会社が国内で単価100円で仕入れた製品について、X国の販売子会社に対しては110円で輸出する一方、同国に所在する第三者の代理店(独立系代理店)に対しては130円で輸出し、いずれも150円でX国の顧客に販売しているケースを考えます。この場合、日本の親会社の利益は、子会社との取引では10円であるのに対し、代理店との取引では30円となります。
 ここで、子会社と代理店が果たす機能や取引状況等が同様である場合、利害の対立する第三者間取引で交渉により成立した130円が適正な価格と評価されることになります。
 これに対し、子会社との取引に付された110円は、親子会社間で任意に設定された歪んだ(安すぎる)価格と評価され、その差額である20円は、本来、日本の親会社に帰属すべき利益が海外子会社に移転していることとなります。
 移転価格税制は、このような海外の関連企業(国外関連者)との取引を通じた所得の海外移転を防止するため、国外関連者との取引が、通常の取引価格(ALP)で行われたものとみなして課税所得の計算等を行う制度です(措法66の4)。
 この例では、子会社との取引が130円で行われたものとみなされ、差額の20円が日本の親会社の所得に加算されることとなります。各期の課税額は、単価20円に年間取引数量を乗じた金額となり、最長7年遡及して課税される可能性があります。
 このように、移転価格課税の調査は、通常の法人税調査のように個別取引ごとの計上や課税処理の適否を検証するものではなく、親子会社間等で継続的に行われるクロスボーダー取引における価格そのものを是正対象とする点に特徴があります。そのため、課税ベースは、日々、行われる対象取引全部に及ぶとともに、課税期間は最長で7年にも及ぶことから、通常の法人税調査に比べて課税額が多額となる傾向があります。
 この「移転価格課税が問題となるケース」は、支払いを受ける対価がALPに満たない場合又は支払う対価がALPを超える場合、すなわち、日本から海外に所得が流出している場合であり、このいずれかに該当する場合には、移転価格税制が適用されて、国外関連取引がALPという適正価格で行われたものとみなして所得が再計算されることとなります。
 したがって、逆に、国外関連取引を通じて日本に過大に所得が帰属している場合には、日本側の所得を減額するような形で移転価格税制が適用されることはありません(ただし、その場合には、国外関連者の所在地国において移転価格課税が適用されるリスクがあります。)。
 なお、移転価格税制が適用された場合の国外関連取引の対価とALPとの差額(国外移転所得金額)は、損金の額に算入しないものとされています(措法66の4④)。これは、当該差額は純粋に税務上の加算項目となり、その借方処分は、国外関連者から返還を受けるか否かにかかわらず、利益の社外流出として取り扱われることを規定したものです(措通66の4(11)-1)。

(2) 国外関連取引

 移転価格税制の適用対象となる取引は、法人が国外関連者との間で行った資産の売買、役務の提供その他の取引(=「国外関連取引」)です。
 したがって、棚卸資産の売買取引のほか、有形資産の貸借取引、無形資産の使用許諾取引、役務提供取引、金銭の貸付取引など、独立の第三者間であれば対価が支払われるべきすべての取引が移転価格税制の対象となります。

(3) 国外関連者

 「国外関連者」とは、法人との間に次の関係(=「特殊の関係」)がある外国法人をいいます。特に、イ、ロの出資関係に加え、ハの実質支配関係により国外関連者に判定されることがある点に、留意する必要があります。

イ 親子関係  ・・
一方の法人が他方の法人の株式等の 50%以上を直接又は間接に保有する関係
ロ 兄弟関係  ・・
一の者によりそれぞれが株式等の 50%以上を直接又は間接に保有される関係
ハ 実質支配関係・・
役員の兼務や事業活動・資金の依存など、特定事実の存在により事業方針を実質的に決定できる関係
ニ 連鎖関係  ・・
親子関係や兄弟関係が、株式等の 50%以上の保有又は実質支配により連鎖している関係
(4) 独立企業間価格(ALP)

 「独立企業間価格(ALP)」とは、移転価格税制において、関連企業間の取引を通じた所得の国際的な移転により生じる関連企業の租税債務の歪みを是正するための基準となる価格を意味します。
 具体的には、法令に定める以下の算定方法のうち、国外関連取引の内容、当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、その国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引条件に従って行われるとした場合に支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額をいいます。

イ 独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method (CUP法))
・・取引の価格そのものを適正価格に置き換える手法
ロ 再販売価格基準法(Resale Price Method (RP法))
・・売上(再販売価格)から適正な粗利を差し引いて、適正な仕入価格を求める方法
ハ 原価基準法(Cost Plus Method (CP法))
・・原価に適正な粗利を加えて、適正な売上価格を求める方法
ニ 取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method (TNMM))
・・売上又は総原価に適正な営業利益等を加減算して、適正な仕入又は売上価格を求める方法
ホ 利益分割法(Profit Split Method (PS法))
・・国外関連取引全体の合算利益を、当事者の果たした機能等に応じて配分する方法
へ ディスカウント・キャッシュ・フロー法(Discount Cash Flow Method (DCF法))
・・将来の予測利益を取引時の現在価値に割引いて、無形資産等の価格を求める方法

各算定手法のイメージ

 これらの算定方法のうち、価格を直接比較するCUP法および、価格に近接する売上総利益(粗利)の水準を比較するRP法・CP法(これらを総称して「基本三法」といいます。)は、営業利益の水準に着目するTNMMやPS法(これらを総称して「取引単位利益法」といいます。)に比べ、よりALPを直接的に算定できるという長所があります。
 しかし、この基本三法は、より厳格な比較可能性が求められる手法であり、例えば、同種製品であってもグレードが異なれば価格も違ってきますので、後述の内部比較対象取引が得られる場合を除き、公開情報等から諸要素の類似性を満たすような比較対象取引を見いだすことが困難です。そのため、実務上は、後者の取引単位利益法、中でも、取引当事者のうち比較的機能が単純な方の営業利益率の比較によりALPを算定するTNMMが多用されています。

(5) 比較対象取引

 ALPの算定の基礎となる取引を「比較対象取引」といいます。その選定作業は、移転価格税制の執行に当たり必要となる特殊な分析プロセスです。
 比較対象取引は、下記のイメージ図のように、国外関連取引の当事者である法人(P社)及び国外関連者(S社)以外の第三者間で行われる外部比較対象取引(A社↔B社)と、国外関連取引の当事者である法人又は国外関連者が第三者と行う内部比較対象取引(P社↔B社、A社↔S社)があります。
 このうち、内部比較対象取引は、国外関連取引の当事者のどちらかが第三者と行う取引であるため、取引内容や機能等に関する情報の入手が容易であり、比較対象取引に該当するかどうかの判断は比較的容易な場合が多く、基本三法などの適用が可能となる場合もあります。
 しかし、このような内部比較対象取引が把握できるケースはまれであるため、実務上は、有料の企業情報データベースを使用して、所在地、規模、事業内容等が類似する外部比較対象取引を選定し、企業単位の営業利益率等を基にTNMMを適用して、ALPを算定するケースが多くみられます。

比較対象取引

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プロフィール

TKC税務研究所 特別研究員 御園生 渉

御園生 渉(みそのう わたる)

TKC税務研究所 特別研究員

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