更新日 2026.08.17

TKC税務研究所 特別研究員
御園生 渉
本コラムは、移転価格税制と寄附金課税について、制度の仕組みと相違点を整理し、実務上の適用区分(線引き基準)を検討します。両制度は課税構造が類似しますが、適用の違いにより企業グループとしての税負担や国際的二重課税リスクに差異が生じる点が重要です。本稿では「贈与の意図」と「対価性の有無」を軸に整理するとともに、証拠に基づく事実認定や税務調査上の留意点を具体例により解説します。
当コラムのポイント
- 「移転価格税制」と「寄附金課税」の共通点および相違点
- 両制度の線引きが税負担や二重課税リスクに影響する重要な実務上の論点であること
- 「贈与の意図」と「対価性の有無」に基づく線引きの判断基準
- 目次
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1.両制度の線引き基準(実務上の適用区分)を整理する必要性
(1) 両制度の仕組みの類似性
法人税法上、寄附金課税の対象となる寄附金には、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(民法上の贈与)に加え、低廉譲渡等に係る対価の額と時価との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額も含まれています。
一方、移転価格税制で課税対象となる国外移転所得金額は、国外関連取引が低廉譲渡又は高価買入により行われた場合の対価の額とALPとの差額とされています。
また、寄附金課税における「時価」とは取引時に通常付される価額をいい、移転価格税制における「ALP」とは国外関連取引が独立の事業者間で通常の取引条件に従って行われるとした場合に支払われるべき対価の額をいいます。この時価とALPは、計算方法等は異なりますが、通常、近い金額となる場合が多いと考えられています。
このように、両制度はいずれも取引時の時価と対価との差額を計算して課税対象とする点で共通しており、制度の仕組みが類似しています。そのため、特に低廉譲渡等の場合に、寄附金課税と移転価格課税のいずれを適用すべきかについて、税務調査において税務当局と納税者の間で争点となるケースが少なくなく、この点については、国際課税の有識者による様々な論文も出されています。
(2) 民法上の贈与と低廉譲渡等の寄附金課税に係る過去の判例
民法では、「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」(民法549条)と規定しており、贈与契約は、当事者双方の贈与をする、贈与を受ける、という意思があって初めて成立する取引です(法人税法37条⑦項の「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」は、この民法上の贈与取引を想定しているものと思われます。)。
しかし、法人税法上は、このような典型的な贈与のほか、低廉譲渡等により「実質的に贈与したと認められる」場合についても、寄附金の範囲に含めており(法法37⑧)、その場合、国内における寄附金課税について争われた過去の判例(注)では、取引に伴う経済的な効果が贈与と同視しうるものであれば足り、必ずしも譲渡者が贈与の意思を有していたことを必要としないとされています。
(注) 例えば、昭56.2.5大阪高判(税務訴訟資料116号248頁)では、「「実質的に贈与したと認められる」ためには、取引に伴う経済的な効果が贈与と同視しうるものであれば足りるのであって、必ずしも譲渡者が贈与の意思を有していたことを必要とせず、したがって、時価との差額を認識していたことも必要としないと解することが相当である。」と判示されています。
国内取引については、関連者間の取引を通じた利益移転に対処する制度は、寄附金課税のみであり、個々の事案の事実認定と立法趣旨等に照らしてこのような判断が行われているものと思われます。
しかし、国境をまたいだ海外取引についてこの判断をそのまま適用すると、寄附金課税と移転価格課税の線引きが困難となります。このことが、(1)で述べたような実務上の混乱を生じさせる一因となっています。
(3) 調査においていずれの制度を適用するかによる影響
本来、移転価格課税により処理すべき事案に寄附金課税が適用された場合の問題点としては、課税処分の段階では、その処分を受けた側(例えば、棚卸資産の売買取引の売手側)の課税関係については、寄附金課税では、売上の過少計上額と寄附金認容が両建て計上され、国外関連者寄附金は全額損金不算入として加算、移転価格課税では、国外移転所得金額として加算され、いずれも社外流出として処理される点で課税の効果は同じですが、その後の手続等において、国外関連取引の当事者双方の企業グループとしての課税関係などに差異が生じます。
すなわち、寄附金課税が適用される場合には、贈与を受けた側(例えば、棚卸資産の売買取引の買手側)は寄附金の反対勘定として受贈益が認識されます。この場合、仕入の過少計上額と受贈益が同額で両建て計上されるため、結果として損益は相殺されます。
その結果、贈与者(売手)側に対する寄附金課税により、企業グループとしての課税関係はその時点で実質的に確定することとなり、この点は贈与者側の寄附金課税を受け、受贈者側で何ら会計処理をしなくても、同様の結果となります。
これに対し、移転価格課税においては、所得の移転を受けた側(例えば、棚卸資産の売買取引の買手側)は課税前の低い価格で仕入原価を計上しており、売手側に対して移転価格課税が行われても、この買手側の仕入価格は自動的に調整されませんので、売手の売上と買手の仕入がずれている状態となります。
その結果、課税された所得移転額に相当する金額が、売手と買手の所在国双方においてそれぞれ課税されている国際的二重課税の状態が生じます。このような二重課税を解消する手段として租税条約に基づく相互協議の手続きが設けられています。これは、「条約の規定に適合しない課税」を受けた場合において、関係国当局間の協議により課税関係を調整する手続であり、そこで合意した価格・利益水準まで取引当事者双方の所在国で課税処分や所得の減額調整が行われます。
この相互協議は、条約に規定された移転価格課税(特殊関連企業条項)やPE認定課税(事業所得条項)などについて、条約の規定に適合しない課税が行われた場合が対象となります。日本固有の租税制度である寄附金課税は、基本的に相互協議の対象にならないと解されますが、日本で寄附金課税を受けた場合でも、相手国では移転価格課税の対象となる場合には、二重課税の解消を求めて相互協議の申立てができるものと考えられています。
しかし、日本で寄附金課税が行われている場合には、日本側としては、仮に相互協議の申出を受けたとしても、日本の租税法令にしたがった正当な課税である、と主張することとなりますので、入口部分で両国の主張がかみ合わずに合意に至らない可能性があります。このような場合には、相互協議により二重課税を解消する道は閉ざされ、国内法上の争訟で課税が全額取り消されない限り、二重課税の状態は残ることとなります。
また、国外関連者との取引について寄附金課税を受けた事案が、移転価格上の問題として相互協議の俎上に載った場合でも、調査段階においてALPの検証が行われていないことから、相互協議において両国の交渉に入る前に(納税者と当局の双方において)改めて機能・リスク分析や比較対象取引の選定等の詳細な移転価格分析作業が必要となります。国税庁の公表資料によると、移転価格課税等に係る相互協議の平均的な処理期間は約30カ月とされていますが、協議に当たってこのような分析が必要となる場合には、相互協議が更に長期化する可能性もあります。
このように、国外関連取引を通じた所得の海外移転が問題となる事例においては、寄附金課税と移転価格課税のいずれを適用して課税を受けるかによって、企業グループ全体の最終的な税負担や事務負担等がかなり違ってきますので、その線引きをどのようにするか、という点が、重要な論点となっています。
そして、租税特別措置法66条の4①項に基づく移転価格課税と同条③項に基づく国外関連者寄附金課税のいずれを適用するかの判断を、贈与の意図を要件としない国内の寄附金課税に関する過去の判例の考え方に従って行った場合、国外関連取引を通じた所得の海外移転事案において、我が国固有の制度である寄附金課税の射程範囲が限りなく広がってしまう懸念があります。
(4) 国外関連者寄附金に係る移転価格事務運営要領の取扱い
上記のような問題意識のもと、国外関連者との取引に係る移転価格課税と寄附金課税の判断基準を明確にすべき、とのパブリックコメントの意見を受け、平成20年10月27日発遣の事務運営指針の改正により、移転価格事務運営要領3-20(国外関連者に対する寄附金)が新設されました。
同要領では、「調査において、次に掲げるような事実が認められた場合には、措置法第66条の4第3項(国外関連者寄附金)の規定の適用があることに留意する。」として、次の三つの事実が示されています。
- イ 法人が国外関連者に対して資産の販売、金銭の貸付け、役務の提供その他の取引(以下「資産の販売等」という。)を行い、かつ、当該資産の販売等に係る収益の計上を行っていない場合において、当該資産の販売等が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に該当するとき
- ロ 法人が国外関連者から資産の販売等に係る対価の支払を受ける場合において、当該法人が当該国外関連者から支払を受けるべき金額のうち当該国外関連者に実質的に資産の贈与又は経済的な利益の無償の供与をしたと認められる金額があるとき
- ハ 法人が国外関連者に資産の販売等に係る対価の支払を行う場合において、当該法人が当該国外関連者に支払う金額のうち当該国外関連者に金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をしたと認められる金額があるとき
- 「イ」は、日本法人が国外関連者に対して資産の販売等を行ったにも関わらず、その収益の計上を行っていない場合、つまり「無償取引」です。
- 「ロ」は、日本法人が国外関連者から支払を受けるべき資産の販売等に係る対価が過少となっている場合、つまり「低廉譲渡」です。
- 「ハ」は、日本法人が国外関連者に支払う資産の販売等に係る対価が過大となっている場合、つまり「高価買入」です。
いずれも寄附金と認定するための判断基準は、法人税法37条の文言である「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(無償による民法上の贈与に係る7項の規定)」又は「実質的に贈与又は無償の供与(低廉譲渡等の実質贈与に係る8項の規定)」という表現を用いていることから、「寄附金に該当すれば寄附金課税を適用」と述べているに過ぎない、とも解されます(「ハ」は、支払対価のうち高価買入部分について、取引の対価と切り離して金銭の贈与をしたものと判断されるケースと思われます。)。
そして、この寄附金該当性の判断を、国内寄附金の解釈を示した上記(2)の過去の判例にしたがって行うと、移転価格上の問題が認められる国外関連取引についても、贈与の意図の有無にかかわらず寄附金課税が行われる可能性がある旨を述べている指針とも受け取れ、これでは寄附金課税と移転価格課税の明確な線引きは困難となります。
このことから、国外関連者寄附金に係る調査の指針を定めたこの3-20によっても、寄附金課税と移転価格課税の線引きの問題については、依然としてすっきりとした解決が図られているとは言えない、という見解が国際課税の専門家の間では散見されます。
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プロフィール
御園生 渉(みそのう わたる)
TKC税務研究所 特別研究員
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