IPOトレンドを紐解く~実績データに基づく振り返り~

第4回 課題への対応策(監査法人編)

更新日 2024.09.17

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税理士・公認会計士 坂口 勝啓

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

税理士・公認会計士 坂口 勝啓

2023年のIPO実績を振り返り、トレンドをご紹介します。
トレンドからIPOの現状を把握することで課題を浮き彫りにし、何をしなければいけないのか、詳しく解説します。

当コラムのポイント

  • IPOのトレンドをご紹介
  • 今、注目されている株式市場への上場メリット
  • IPOの課題(監査法人・主幹事証券会社難民の増加)への対応
目次

前回の記事 : 第3回 上場準備会社にとってのハードルとは?(後半)

1.監査法人対応(概要)

 前回までの内容で、

  • ①IPO実績から読み解くトレンド
  • ②監査法人の状況
  • ③証券会社の状況

を理解して頂けたかと思います。第4回目、第5回目においては、IPOにおける主要な関係者である監査法人と証券会社への対応について考察していきたいと思います。第2回では、監査法人との契約において「監査法人難民」という言葉ができたほど、監査法人との契約が難しくなっている昨今であることを述べました。そして第3回では、その監査法人と契約するために監査法人の視点について述べました。そこでのポイントは、
 手間がかからない会社=「内部管理体制」が構築できている
会社である必要があることを述べました。そこで第4回では、この「内部管理体制」が構築できていると言えるためには、会社がどのような状況になっている必要があるのかという、課題への具体的な対応について述べていきたいと思います。

2.内部管理体制構築とは?

 内部管理体制とは、どういうものなのでしょうか?学問的には、「組織の業務の適正性を確保するための社内体制」を言います。もう少しかみ砕いてみます。「組織」とは、「会社」と読み替えることができます。「業務の適正性」とは、行った行動や意思決定が認められたものであることを意味します。すなわち、会社として行った行動や意思決定が、まさしく会社として認められたことである状態であることを言います。皆さん、これだけを聞きますと当たり前ではないかと思われるかもしれません。しかし、皆さんが普段会社で行っている行動や意思決定は、会社として認められたものであることを前提としているのです。言い方を変えますと、皆さんが行う行動や意思決定が会社として認めるというルールがあるから認められるのです。また、ルールがあればどのような行動や意思決定を行っても良いか?と言いますと、そうではありません。その行動や意思決定がルールに照らして正しいかどうかを常にチェックする必要があるのです。この「ルール」と「チェック」がある状態が、「内部体制が構築されている」状況なのです。この「ルール」を「規程」を言い、「チェック」を「統制」と言います。

3.規程の制定(ルール作成)

 前章でも述べましたように、会社として行動や意思決定が認められるためには、あらかじめルールを設けておく必要があります。すなわち「規程」を制定する必要があります。このルールである「規程」がないと、そもそも会社内の全ての人の行動や意思決定が、会社として認められたものかどうかの判断ができないからです。また、会社法において重要な意思決定については、意思決定機関が定められています。具体的には、

  • 株主総会決議事項
  • 取締役会決議事項
  • 代表取締役決議事項

になります。この会社法に定められている意思決定事項は定められた機関において意思決定を行わなければ、その意思決定は瑕疵を帯び、無効となる可能性があるのです。
 IPO準備において規程を設けるかどうか検討をしなければならない規程類の一例は以下になります。もちろん、全ての規程を一時に制定する必要はなく、必要に応じて段階的に制定していくこととなります。また、規程の制改定は取締役決議事項となるため、柔軟な制改定を確保するため、概要については規程で制定し、詳細な手続等は取締役決議によらない、細則や要領によることの検討も必要となります。

項目 規程 細則 要領
1 基本規程 定款 取締役会規程付議細則 諸規程作成要領
取締役会規程 取締役服務細則  
監査役会規程 監査役監査細則  
顧問規程 規程管理細則  
会議体規程    
株式取扱規程    
2 組織規程 組織規程 職務権限基準細則  
組織分掌規程
業務分掌規程
議案書事項及び決裁基準一覧表  
職務権限規程    
議案書規程    
3 総務規程 機密管理規程    
印章取扱規程    
文書取扱規程    
社有車取扱規程    
4 倫理等規程 コンプライアンス規程 企業倫理ホットライン  
反社会勢力対応規程 関連当事者取引管理細則  
内部者取引管理規程 J-SOXガイドライン  
個人情報保護規程    
内部統制基本方針書    
内部監査規程    
リスク管理規程    
5 業務規程 経理規程 研究開発細則 勘定科目取扱要領
棚卸資産管理規程 アクセス管理細則 勘定科目一覧
予算管理規程 物理アクセス管理細則 システム利用者要領
与信管理規程 ネットワーク管理細則 ユーザー管理要領
債権管理規程 システム運用管理細則 リカバリ要領
外注管理規程 システム開発管理細則  
外部委託規程    
販売規程    
購買規程    
固定資産規程    
情報システム管理規程    
情報セキュリティポリシー    
6 人事関連規程 就業規程   慶弔見舞金要領
給与規程   役員慶弔見舞金要領
退職金規程   出張旅費要領
人事評価規程    
役員出張旅費規程    
役員慶弔見舞金規程    

4.統制体制の構築(チェック体制)

 前章では「ルール」である「規程」を作成する必要性について述べました。それでは、「規程」があればそれでよいのでしょうか?「規程」が作成されたとしても、その「規程」が適切に運用されていなければ意味がありません。そのため、規程が適切に運用されているか、統制が取れているかを確認する体制を構築する必要があります。具体的には、

  • ①機関決定
  • ②稟議制度
  • ③相互牽制

があります。

①機関決定
 こちらは先ほども述べました、株主総会、取締役会という複数人で構成される機関で検討、意思決定がされる状況を言います。機関決定とすることで、代表取締役の専横を防止する効果があります。
②稟議制度
 上記機関決定を必要としない意思決定を行う際に、同様に複数人の承認をもって意思決定とする制度になります。稟議書を回覧することで、単独での意思決定を防止し、複数人の相互牽制を図ることにより、意思決定の適正性を確保します。
③相互牽制
 具体的な機関決定や、稟議制度による決定を必要としない意思決定においても、担当者レベルで最低2人での相互牽制の仕組みを言います。いわゆる「ダブルチェック」と言われる手続きです。どのような業務においてもダブルチェックを設けることにより、軽微な誤謬を防止することが図られます。

 皆さんがよく耳にされる「コンプライアンス」。和訳すると「法令遵守」になります。会社(組織)における「法令遵守」とは、法律、社内規範、倫理を含みます。まさしく、上述した機関決定、稟議制度、相互牽制なのです。統制体制の構築とは、正にコンプライアンス遵守なのです。
 以上から、内部管理体制の構築とは「規程の作成」と「統制体制の構築」なのです。ちなみに、監査法人が行う監査には、大きく①会計監査と②内部統制監査があります。このうち内部統制監査は、

  • 規程が作成されているか?統制体制が作られているか?⇒「整備状況」の把握
  • 規程や統制体制が機能しているか?⇒「運用状況」の把握

という2点を確認することにより評価することで実施されます。

5.決算体制の構築

 さて、これまで、ルールや体制が整備・運用されているかという視点で述べてきました。最後にもう一つの視点、業務区分の視点を考えたいと思います。ルールや体制が整備・運用されていることは、当然会社(組織)の全ての業務において具備されていることが求められます。その中でも監査法人から特に重要視されるのが、決算業務に対してです。IPOを達成しますと上場企業となり、適時適切な決算財務情報の提供が求められます。決算財務情報は、企業の活動の全てを金額で表現したものですので、社内での決算体制がどのように整備・運用されているかは最重要項目になるのです。その際に重要になる視点が、決算体制に係る「規程」の整備と、「統制」の運用状況なのです。特に代表取締役をはじめとした経営陣による意図的な決算操作は、決算情報に大きな影響を与えるため、そのような意図的な決算操作ができないような状況になっていることは重要視されます。

6.まとめ

 内部管理体制の構築とはどのような事を言うのかを述べ、なぜ内部管理体制の構築が監査法人対応において重要なのかを考察しました。内部管理体制が十分に機能している会社は、当然ながら自社内で完結するため、監査法人による監査業務が効率的に実施することが可能となります。すなわち「手間がかからない」会社と評価されるのです。よって、成長さえしていれば良いという考えではなく、成長と管理の両輪をバランスよく達成していくことが求められるのです。

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プロフィール

税理士・公認会計士 坂口 勝啓

税理士・公認会計士 坂口 勝啓(さかぐち かつひろ)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

略歴
公認会計士として大手監査法人の企業成長支援本部にて株式公開(IPO)支援業務に入社以来15年間一貫して従事。その間、IPOを実現した担当会社は9社。その後、IPOコンサルタントとしてIPOコンサルティング会社に転職し、会社の側に立ったIPO支援を行う。現在、税理士事務所の所長として税理士業務を行いながら、IPOを志向される会社の税務顧問業・IPO支援も含めた幅広い支援を行っている。
ホームページURL
坂口税理士事務所

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