IPOトレンドを紐解く~実績データに基づく振り返り~

第3回 上場準備会社にとってのハードルとは?(後半)

更新日 2024.07.08

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税理士・公認会計士 坂口 勝啓

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

税理士・公認会計士 坂口 勝啓

2023年のIPO実績を振り返り、トレンドをご紹介します。
トレンドからIPOの現状を把握することで課題を浮き彫りにし、何をしなければいけないのか、詳しく解説します。

当コラムのポイント

  • IPOのトレンドをご紹介
  • 今、注目されている株式市場への上場メリット
  • IPOの課題(監査法人・主幹事証券会社難民の増加)への対応
目次

前回の記事 : 第2回 上場準備会社にとってのハードルとは?(前半)

1.証券会社

 IPO準備における利害関係者で、監査法人と並んで最重要なキーパーソンが証券会社です。IPOの全てを握っているといっても過言ではありません。証券会社も多数存在するのですが、その中でもIPO業務を行っている証券会社(以下、「主幹事証券会社」)はそれほど多くはありません。こちらは、主幹事証券会社の分布になります。

 証券会社は、大手6社の寡占が継続しています。2023年では大手主幹事証券会社の担当数が全96社中86社(89.6%)と約9割のシェアとなっています。IPOの主戦場である東証グロース市場に着目すると、66社中61社と92%までシェアが広がっている状況です。

 IPO実績データから紐解いたトレンドは以下のとおりです。

【結論】

証券会社は、大手主幹事証券会社の担当数が約9割のシェアを占めており、大手6社の寡占状況となっています。

2.今後のIPOにおける証券会社の動き

本内容は、2024年7月時点における執筆者の私見を含みます。

 2017年頃までは、A証券会社とB証券会社の2大証券会社をC証券会社・D証券会社・E証券会社の3社が追いかけるという構図でしたが、今はほぼ互角のシェアとなりました。特にリテールに強みを持っているC証券会社は、IPO銘柄数を数多く手掛けるという戦略をとっていたようです。D証券会社・E証券会社も数を追うなどの戦略だったと聞いています。
 しかし、近年その動きに変化が見られます。と言いますのも、2大証券会社と同等のシェアを獲得した3社が「IPO担当社数」から「時価総額」にKPIを変更したというのです。これが意味するものは何なのでしょうか?これは、主幹事証券会社として支援する会社を選別するということに他ならないのです。最近、新しい言葉が業界内で生まれました。それは「主幹事証券難民」です。今後は主幹事証券会社にも選別されるという世界が待っているのです。

 IPO実績データから紐解いたトレンドは以下のとおりです。

【結論】

2大証券会社と同等のシェアを獲得した3社が、主幹事証券会社として支援する会社の時価総額により、選別している傾向にあります。「監査法人難民」に加え、「主幹事証券難民」も上場準備会社にとってのハードルといえます。

3.上場準備会社が考えなければならないこと

 このように、IPOを取り巻く環境は数年前と比べて劇的に変化してきました。これからは、利害関係者である、監査法人、主幹事証券会社に選別されなければ、そもそもIPO準備のスタートラインに立てないのです。それでは、監査法人と主幹事証券会社はどのような視点で選別するのでしょうか?

(1) 監査法人の視点

 監査法人は、先述のとおり「採算性」と「リソースの確保」がKPIとして重要と述べました。とするならば、これらを満たす会社であるとアピールすれば良いのです。監査法人にとっての採算性とは、言い方を変えると「監査工数がかからない」ことを意味します。すなわち、「手間がかからない会社」であることが重要になります。監査工数がかからなければリソースも消費しないので、監査法人として魅力的な会社になります。
 それでは、「手間がかからない会社」とはどのような会社なのでしょうか?これは、会社が自身で管理業務を完結できる、すなわち、「内部管理体制が構築できている」という事になります。「内部管理体制」については今後のコラムで述べさせていただきたいと思いますが、「内部管理体制」が構築されている会社は、「手間がかからない」と理解をしていただければと思います。反対に、成長はしているが社内の管理が全くできていないという会社は、監査法人から敬遠されるという事です。

(2) 証券会社の視点

 証券会社のIPOに関するビジネスは、IPOを実現して手数料を得ることです。すなわち、人気の株式銘柄であれば、時価総額は高くなることから、上場時の公開価格(公募価格)が高く、多くの手数料収入が見込まれます。証券会社にとって魅力的な会社は、人気が高いこと、すなわち「認知度」と「成長性」が高い会社であることになります。例えば、過去にメルカリなどはとても高い株価が付き、担当した主幹事証券会社はビジネスとして大成功を収めました。そのため、「認知度」と「成長性」が、主幹事証券会社のKPIになるのです。

 IPO実績データから紐解いたトレンドは以下のとおりです。

【結論】

IPOを行うためには、監査法人と主幹事証券会社に選定されなければなりません。その際のポイントを整理しますと、以下のとおりです。

  • 監査法人   :「内部管理体制」の構築状況
  • 主幹事証券会社:「認知度」と「成長性」の高さ

 これらの観点から、自社を再点検して十分な準備ができているかを改めて検討してほしいと思います。

 次回は、IPO実績データから紐解いたトレンドから浮かび上がった課題への具体的な対応をご紹介します。

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プロフィール

税理士・公認会計士 坂口 勝啓

税理士・公認会計士 坂口 勝啓(さかぐち かつひろ)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

略歴
公認会計士として大手監査法人の企業成長支援本部にて株式公開(IPO)支援業務に入社以来15年間一貫して従事。その間、IPOを実現した担当会社は9社。その後、IPOコンサルタントとしてIPOコンサルティング会社に転職し、会社の側に立ったIPO支援を行う。現在、税理士事務所の所長として税理士業務を行いながら、IPOを志向される会社の税務顧問業・IPO支援も含めた幅広い支援を行っている。
ホームページURL
坂口税理士事務所

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