電子インボイスとデジタルインボイス、そしてペポルインボイス その違いとは?

第6回(最終回) ペポルインボイス採用の手順

更新日 2024.01.22

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株式会社TKC 執行役員 企業情報営業本部 本部長 富永 倫教

株式会社TKC 執行役員 企業情報営業本部 本部長

富永 倫教

当コラムでは、電子インボイスとデジタルインボイスとの違い、そしてペポルインボイスの全体像やメリットなどをできる限り平易に解説します。

当コラムのポイント

  • 電子インボイスとデジタルインボイスの違いとは?
  • ペポルインボイスとは?
  • ペポルインボイスのメリットと導入の手順について
目次

前回の記事 : 第5回 ペポルインボイス利用のメリット

 最終回となる第6回では、ペポルインボイス採用の手順を説明します。

 デジタルインボイス、ペポルインボイスの内容や利用のメリットが分かり、いざペポルインボイスを導入しよう、と決意、もしくは検討を開始したときに、まだペポルネットワークでインボイスを送信している事例はそう多くないので、何から着手すればよいのか分からない、との声を耳にします。実は私が所属する株式会社TKC(以下「TKC」)では、令和5年10月から開始されたインボイス制度にあわせて、今まで書面で発行していた請求書を原則ペポルインボイスで発行することとしました。今回は、このTKCでの実際の取り組みをご紹介することで、採用の手順の一つの例をお示ししたいと考えています。そのため、あくまでTKCのシステムを利用した場合の一般的な利用開始手順と留意点を説明することにご容赦ください。また、あわせて今回の説明はペポルインボイスを発行する側のプロセスとなり、受領する側のプロセスではないことにも留意してください。
 なお、この後の内容については、昨年9月に中央経済社様から発刊された「税務弘報」2023年10月号の「デジタルインボイス導入の手順と留意点」にも同様の内容を寄稿していますので、ご興味のある方は合わせてご確認ください。

はじめに 自社が発行する請求書をペポルインボイスに対応するステップ

 TKCでは、顧客であるTKC会員事務所(税理士・公認会計士)及び中堅・大企業に発行する請求書を、令和5年10月以降原則ペポルインボイスで発行することを決定しました。令和4年12月にペポルインボイス対応システム「インボイス・マネジャー」が提供開始されたことに伴い、令和5年1月に、発行する請求書をペポルインボイスに対応するステップを次のとおり定義しました。

1.要件定義フェーズ

  • (1) ペポルインボイスで送信する請求書などの範囲決定
  • (2) 顧客のID情報(ペポルID)の収集・保存方法決定
  • (3) 受発注・請求管理システムの改修内容決定
  • (4) 価格体系の見直し要否、ペポルインボイスへの出力内容の検討

2.システム設計・改修フェーズ

  • (1) 顧客マスターへの項目追加(ペポルID)
  • (2) 顧客マスターのメンテナンス機能の改修
  • (3)「インボイス・マネジャー」へのデータ出力と各機能の運用テスト

3.顧客への案内・周知フェーズ

  • (1)顧客への請求書の送付方法を変更する旨とスケジュールの案内
  • (2)顧客でのペポルインボイス受領時の経理、支払処理フローの確認
  • (3)顧客のID情報(ペポルID・電子メールアドレス)の収集
  • (4)顧客のペポルインボイスの利用開始手続き(ペポルIDの登録)支援
  • (5)ペポルインボイスの受信・仕訳連携機能の説明と導入支援

4.本稼働

 これ以降、このステップごとに具体的に内容を確認します。

1.要件定義フェーズ

(1) ペポルインボイスで送信する請求書などの範囲決定

 現在自社で発行している請求書などの中で、どの範囲をペポルインボイスで送信するかを決定します。ペポルインボイスを採用したからといって、すべてのインボイスをデジタル化する必要はないことから段階的にデジタル化を進めることをお勧めします。なお、インボイスの発行について、ペポルインボイスとそれ以外の方法(書面など)とが混在する場合、実務上、顧客などの請求書などの発行単位ごとに、ペポルインボイスで発行するのか、書面で発行するのかといった区分が請求管理システムなどで必要となることが想定されます。

(2) 顧客のID情報(ペポルID)の収集・保存方法決定
 すでに本コラムでご案内のとおりペポルインボイスを送信するためにはペポルIDが必要となり、顧客のペポルIDの収集と保存方法を決定する必要があります。なお、TKCではペポルIDを登録済みの顧客にはペポルネットワークで送信する一方、ペポルID未登録の顧客には電子メール経由でTKCの閲覧サイトにアクセスしてインボイスを閲覧してもらう方式で送信しています。そのため、TKCではペポルIDと閲覧サイトを通知する顧客担当者の電子メールアドレスも宛先情報として収集・保存しています。具体的な閲覧サイトのイメージなどは、TKCのHPに掲載されている次の図で確認してください。

TKCグループホームページ「インボイス・マネジャー」製品紹介サイトより引用

(3) 受発注・請求管理システムの改修内容決定

 上記(1)と(2)から、受発注・請求管理システムで改修が必要となる内容を決定します。既存の受発注・請求管理システムの機能範囲により改修内容は各社ごとに異なることが想定されますが、参考までTKCで改修した主な点は次のとおりです。

①受発注システムでの入力項目の追加(マスター・注文情報)

  • 1) 顧客ごとの請求書の受取方法(ペポルID・閲覧サイト・書面)
    なお、書面での受取は、暫定的措置として令和6年9月までとしています。
  • 2) 注文者のペポルID・電子メールアドレス
  • 3) 請求書送付先のペポルID・電子メールアドレス

②請求書送付先変更申請フォームの作成

 一度収集したペポルID・電子メールアドレスの情報に変更があった場合に、顧客から変更を申請する仕組みの構築

③請求書のレイアウト変更

 ペポルID・電子メールアドレスの表示や「注釈」にセットする内容(詳細は後述します)への対応

(4) 価格体系の見直し要否、ペポルインボイスへの出力内容の検討

①すでにご案内のとおり、ペポルインボイスでは、取引明細ごとに税抜金額(純額)をセットすることから、税抜表示のみに対応しています。そのため、税込価格の場合は税抜価格に変更する必要があるので、価格体系の見直しが必要か確認します。

②現在、請求書によくある項目のうち、日本におけるデジタルインボイスの標準仕様であるJP PINTにあてはまる項目が存在しないものがあることも想定されます。そのため項目として設けられていない内容も含めて、ペポルインボイスで出力する内容について検討する必要があります。
一例として、次の項目については、JP PINT では定義されていないため、デジタルインボイス推進協議会加盟企業ではインボイスの注釈欄にセットすることで対応を進めています。

  • 1) 日本独自の商習慣による月締め請求書でよくある、請求書の鑑部に記載する「前回請求額」「入金額」「繰越金額」などの項目
  • 2) 日本独自の文化により請求書に記載することのある源泉徴収税額

このように、注釈欄に記載する項目も含めて対応を検討します。

2.システム設計・改修フェーズ

 システム設計・改修フェーズでは、「1.要件定義フェーズ」で決定した受発注・請求管理システムで改修が必要となる内容について、システムの改修を進めます。また、改修後には各機能が仕様どおりに正しく処理されるのか運用テストを実施します。

(1) 顧客マスターへの項目追加(ペポルID)

 前述のとおり、ペポルインボイスで送信するためには受信者のペポルIDが必要となることから、これを受発注・請求管理システムのマスターに追加します。
 あわせて法人番号又は適格請求書発行事業者の登録番号いずれの番号も保持していない、免税事業者の個人事業者は、現在のところペポルインボイスの送受信機能を利用できないため、これらの顧客については継続して書面などでの対応が必要となります。顧客の状況に応じて、書面発行を継続するような制御もあると良いと判断しています。

(2) 顧客マスターのメンテナンス機能のUI改修

 上記「1.(3) 受発注・請求管理システムの改修内容決定」の「②請求書送付先変更申請フォームの作成」に記載の、一度収集したペポルID・電子メールアドレスの情報に変更があった場合に、顧客から変更を申請する仕組みの構築がこれに該当します。ペポルIDについては、最新の情報を保持したうえで送信する必要があることから、顧客自らがマスター情報を入力(変更)・送信できる仕組みがあることが望ましいと考えています。そのため、TKCでは請求書送付先変更申請フォームを作成し、顧客が①注文者情報、②請求書の受取方法、③請求書送付先情報(所在地、ペポルID、電子メールアドレス)、④テスト送信の要否などを登録、変更する仕組みと、これらのフォームに顧客が入力したデータを受発注・請求管理システムに反映する仕組みを構築しました。

(3) 「インボイス・マネジャー」へのデータ出力と各機能の運用テスト

 「インボイス・マネジャー」とはTKCのペポルインボイス発行、受領システムであり、インボイスの発行側では販売管理システムなどから売上データを読み込むことから処理が始まります。「インボイス・マネジャー」で定義されたフォーマットにあわせて、販売管理システムなどからデータを出力し、さらに出力されたデータのどの項目が「インボイス・マネジャー」で定義されたどの項目にセットされるかを関連づけする必要があります。例えば、相手先の法人名は売上データでは4列目にあり、その項目を「インボイス・マネジャー」の法人名の領域に関連づけするという手続きになります。読み込みの都度関連づけを実施すると実務上かなりの工数が必要となることから、事前に売上データの項目を「インボイス・マネジャー」のフォーマットに関連づけするルールを決定しテストします。上記「1.(1) ペポルインボイスで送信する請求書などの範囲決定」で決定した送信する請求書などの範囲を網羅した売上データを洗い出し、売上データの様式ごとに関連づけのルールを実施することに注意が必要です。

3.顧客への案内・周知フェーズ

 これまでのフェーズで顧客にペポルインボイスを送信する準備が整ったので、具体的に顧客へ請求書をペポルインボイスで送信する旨、案内する段階へと進みます。

(1) 顧客への請求書の送付方法を変更する旨とスケジュールの案内

 ペポルインボイスを送信する顧客に対して請求書をペポルインボイスで送信する旨と具体的な送信開始時期、必要な準備事項などを案内します。TKCでは令和5年6月に顧客であるTKC会員事務所(税理士・公認会計士)及び中堅・大企業に対して、これまで書面で送付していた請求書を令和5年10月から原則、ペポルインボイスでの送付に切り替えることを案内しました。
 TKC会員事務所(税理士・公認会計士)にはTKC全国会のイントラネットとメールにより案内を発信し、中堅・大企業にはメールによる案内発信に加えて7月以降書面で発行する請求書に案内文を同封しました。そのうえで、顧客を担当している社員から個別に連絡を取り、周知活動を展開しました。特に大企業ではシステムを利用する担当部署、担当者と、請求書を受領する担当部署、担当者が異なるケースもあり、確実に案内が届くような工夫が必要と判断しています。ご参考までに、TKCが案内した中堅・大企業向けの主な内容を次に記載します。

表題:TKCが発行する請求書の電子化(ペポルインボイスの採用)について

項目:1.ペポルインボイス採用の背景
   2.令和5年10月以降の請求書の受領方法
   3.請求書の受領方法の選択
   4.当件に関する問合せ先

 2.の請求書の受領方法では、上述の「ペポルインボイスによる請求書の受領」、「閲覧サイト経由での請求書の受領」について説明し、3.の受領方法の選択ではこの2つの選択肢に「書面で請求書を受領(令和6年9月まで)」を加えた3つの方法のどれを選択するのかを回答するフォームを案内しました。

(2) 顧客でのペポルインボイス受領時の経理、支払処理フローの確認

 (1)の案内で「ペポルインボイスによる請求書の受領」を選択した顧客には、必要に応じてペポルインボイス受領時の経理、支払処理フローを確認しました。

(3) 顧客のID情報(ペポルID・電子メールアドレス)の収集

 今までのフェーズで構築した仕組みを利用して、顧客のID情報を収集します。

(4) 顧客のペポルインボイスの利用開始手続き(ペポルIDの登録)支援

 ペポルインボイスの送信側、受信側ともに、ペポルインボイスの利用開始手続きが必要となります。自社がペポルインボイスを送信する際には利用開始手続きが必要となるのはもちろんのこと、ペポルインボイスの送信先である顧客(受信側)でも利用開始手続きが必要となります。利用申請手続きを行うことにより、ペポルIDを取得でき、アクセスポイントを通して、ペポルネットワークに参加する他のユーザーと電子文書の送受信を行えるようになります。
 そのため「ペポルインボイスによる請求書の受領」を選択した顧客には、ペポルインボイスの利用開始手続きを実施していただく必要があり、具体的な手順などを案内することで手続きを支援しています。
 TKCでは令和5年3月から、「インボイス・マネジャー」利用企業に対して、ペポルインボイスを受信するための手順書を提供し、担当社員のサポートのもと、顧客にてペポルインボイスの利用開始手続きを実施しています。当手順書での具体的な手順の項目は次のとおりです。

  • ①「インボイス・マネジャー」でペポルインボイスを受信するために必要なステップの説明
  • ②「インボイス・マネジャー」によるペポルIDの申請
  • ③「インボイス・マネジャー」でのペポルインボイスの受信設定
  • ④本人確認書類の提出(必要な場合)
(5) ペポルインボイスの受信・仕訳連携機能の説明と導入支援

 できれば本稼働の前に、顧客にペポルインボイスによる請求書をテスト送信し、実際に顧客側で問題なく受信できているかを確認します。あわせてシステムでペポルインボイスのデータをもとに会計システムへの仕訳連携機能を有している場合には、仕訳連携機能を説明したうえで、テストデータにもとづきどのような仕訳連携の設定が必要になるのかなどを説明します。

4.本稼働

 以上の1から3のステップを経て、TKCでは令和5年10月以降の請求からペポルインボイスにて送信しています。

 「本稼働します」、で説明が終わりでは少し物足りないので、具体的なペポルインボイスの利用実績や採用の効果などについて、少しここでご紹介させていただきます。

 TKCでは毎月1回、TKC会員事務所(税理士・公認会計士)に請求書を発行しており、ペポルインボイス採用以前(令和5年10月まで)は、統合情報センターと呼ばれる全国8か所の拠点で請求書を書面で作成し、発送業者に引き渡していました。具体的には、①請求データの受領から、②受領データにもとづく請求書の印刷、③帳表のカット、④請求書の封入、⑤発送業者への引き渡し、の工程を実施しており、全国8か所での当該請求書発行にかかる業務時間は、所要人数114人で合計43.5時間を要しており、掛け算した工数は4,959人時間でした。
 10月以降の請求からペポルインボイスと閲覧サイトにて送信し、本稿執筆時点で3回(10月分、11月分、12月分)の送信処理を無事に実施しています。直近で実施した12月分請求書発行(1月11日送信)では、20,276件を送信しており、その送信に要した時間は3人で90分(うち送信時間は60分)となっています。3人で1.5時間の4.5人時間の工数ですので、4,959人時間と比較すると工数が1,000分の1以下に削減できたことになり、社内ではデジタル化による圧倒的な業務効率を実感しているところです。これに加え、現在送信を担当している3人の業務のうち、送信結果の確認を除くオペレーションを排除する自動化の仕組みを構築している最中で、4月送信分からこの自動化が実現できる予定で、さらに工数が削減できる見込みとなっています。

 今までのコラムでも何回か説明しましたとおり、当たり前ですが、上記の工数削減に加えて、印刷コスト、郵送コストといった費用も削減されました。また、ペポルの標準仕様に合わせることで、請求内容のエラーは減少しますし、封入や発送にかかる人的ミスも起こりません。最近、改めて注目されているヒューマンエラー削減の観点からも、大きな効果が実現できていると判断しています。

 いかがでしょうか、上記の内容はあくまで一例で、すべての会社でこの削減効果が実現できることをここで約束するものではありませんが、TKCの事例に興味のある方は、気軽にお問い合わせください。

 お問い合わせは、こちらから。

 以上がペポルインボイス導入の手順と留意点となります。文章で示すと大変なボリュームがあるように感じるかもしれませんが、「1.要件定義フェーズ」が固まれば、あとはおのずから必要な業務が見えてきますので、手戻りのないような要件定義が重要です。
 本コラムを参考にして、1社でも多くの会社がペポルインボイスを活用することを祈念して、本コラムの終わりとします。最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

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プロフィール

株式会社TKC 執行役員 企業情報営業本部 本部長 富永 倫教

富永 倫教(とみなが とものり)

株式会社TKC 執行役員 企業情報営業本部 本部長

略歴
平成14年度の連結納税制度創設当初から、TKC連結納税システム(eConsoliTax)のコンサルティング業務に従事し、以来一貫して20年超にわたり中堅・大企業の税務部門に対する税務システムのマーケティングやコンサルティング業務を行っている。現在、消費税のインボイス制度への対応をきっかけにデジタル化を通じた事業者のバックオフィス業務の効率化を実現することを目的に誕生したデジタルインボイス推進協議会(EIPA)幹事法人のメンバーとして活動している。

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
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