更新日 2024.01.15
株式会社TKC 執行役員 企業情報営業本部 本部長
富永 倫教
当コラムでは、電子インボイスとデジタルインボイスとの違い、そしてペポルインボイスの全体像やメリットなどをできる限り平易に解説します。
当コラムのポイント
- 電子インボイスとデジタルインボイスの違いとは?
- ペポルインボイスとは?
- ペポルインボイスのメリットと導入の手順について
- 目次
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前回の記事 : 第4回 ペポルでの送受信の仕組みとペポルインボイスについて
第5回では、ペポルインボイス利用のメリットを説明します。
第4回まででご案内のとおり、ペポルインボイスはデジタルインボイスの一部であり、デジタルインボイスのうち、
- (1)ペポルネットワークを通して授受を行うデジタルインボイス
- (2) 送信時に検証(Validation)が行われるデジタルインボイス
であると弊社では定義しています。
このペポルインボイスを利用することによるメリットを、インボイスの発行会社と受領会社の立場で確認してみます。
なお、これからメリットについて記載していきますが、ペポルインボイスの利用は本稿執筆時にも徐々に進んでいる状態であり、現時点で実務として浸透していません。そのため、これから記載するメリットについても執筆時点で把握している内容であり、今後本稿にはない新たなメリットを享受できる可能性があることをご承知おきください。
1.インボイス発行会社のメリット
(1) インボイス発行にかかるコストと手間の削減
紙によりインボイスを発行する場合に発生する、封入、投函、郵送にかかるコストや手間を削減することができます。ただし、このメリットは電子インボイス全般にあてはまることであり、ペポルインボイスに限定したメリットではない点に留意が必要です。電子取引かつインボイスである電子インボイスの世界では紙での授受を行わないため、例えば電子メールによりPDFのインボイスを発行する場合でも、これらのメリットを享受できるものと考えられます。
(2)「控え」のデータ保存容量の削減
スキャン文書やPDFなどの電子取引データと比較して、圧倒的に少ない容量でデータを保存できます。このメリットは、ペポルインボイスのデータが構造化されたデジタルデータ(XML形式)であり、PDFやJPEG等のイメージデータ(アナログデータ)と異なり、コンピュータ処理に特化した形式によるものです。
(3) 送信先情報(ID)の管理が容易
前回のコラムでご案内のとおり、ペポルインボイスではペポルネットワークで相手先を特定するためのID(ペポルID)として、公的な番号である法人番号または適格請求書発行事業者の登録番号等を指定します。紙でインボイスを発行する際の住所情報や電子メールでインボイスを発行する際のメールアドレスと異なり変更されることがなく、かつ相手先担当者が変更になった際のメンテナンスも不要なため、送信先情報の管理が容易であるといえます。
2.インボイス受領会社のメリット
(1) 受領したインボイスには、記載事項が完全に網羅
ペポルネットワークでの送信時に統一的な整合性チェックが実施され、インボイスの記載事項が網羅されているデータのみが届くため、安心して受領することができます。このメリットは、紙や、PDFなどのデジタルインボイスでない電子インボイスとの決定的な違いと考えています。本コラムが掲載されるのは、インボイス制度が開始されて概ね3か月が経過した頃になるでしょうが、おそらく経理部門で追加の業務として発生しているのが、受領した紙のインボイスに記載事項が網羅されているかチェックする業務では、と推察しています。紙のインボイスに「適格請求書発行事業者の登録番号」や「適用税率、消費税額等」が記載されているかなどの形式チェックの第一関門が、新たな業務として降りかかっているのではないでしょうか。
この点、第4回のコラムで少し触れましたが、ペポルインボイスは「送信時に検証(Validation)が行われるデジタルインボイス」であり、その送信時に整合性チェックが実施され、このチェック要件を充足したデータしか送信できない仕組みとなっています。要件を充足していないデータはエラーとなり、送信できません。
これを受領会社から見ると、常に整合性チェックの要件を満たしたインボイスしか受領できないこととなり、先ほどの紙で発生した記載事項のチェックの多くが不要になることが想定されます。
以下に、整合性チェックの一部を記載しますので、現在、書面上でチェックしている内容がないか確認していただけると、ペポルインボイスのメリットが具体的にイメージできるのではと判断しています。
【整合性チェック内容(一部)】
- 「売り手の名称」がセットされていること(ibr-006)
- 「買い手の名称」がセットされていること(ibr-007)
- 「売り手の事業者登録番号」がセットされていること(aligned-ibr-jp-04)
- 「課税資産の譲渡等を行った年月日」がセットされていること(aligned-ibrp-052、ibr-co-19、ibr-co-20)
- 「税抜金額計」、「税込金額計」、「請求金額」がセットされていること(ibr-013 、ibr-014 、ibr-015)
- 「取引明細」に、「数量」がセットされていること(ibr-022)
- 「取引明細」に、「取引金額」がセットされていること(ibr-024)
- 「取引明細」に、「品名」がセットされていること(ibr-025)
- 「単価」が正の値であること(ibr-027)
- 「税率内訳」に、 「消費税額等」がセットされていること(aligned-ibrp-046)
- 「税率内訳」に、 「税率」がセットされていること(非課税・不課税の場合を除く) (aligned-ibrp-048)
- 「課税資産の譲渡等を行った年月日」が2023/10/1以降の場合、「売り手の事業者登録番号」にはTから始まる14桁の文字がセットされていること。(aligned-ibr-jp-01)
- 「税率内訳の消費税額等」は、「税率内訳の課税金額」×「税率内訳の税率」を整数に端数処理した金額であること。端数処理結果は、切捨て又は切上げの範囲内であること。(aligned-ibrp-051-jp)
さて、いかがでしょうか。これだけのチェックを通過したデータのみが届く、というのは大きなメリットでは、と感じています。
(2) インボイスのデータ保存容量の削減
1.の発行会社のメリット(2)と同様、受領したデータについても少ない容量で保存することができます。
(3) 本社でのインボイスの集中管理
こちらも1.の発行会社のメリット(3)の裏返しとなりますが、ペポルID宛に届く仕組みのため、本社での集中管理が可能となります。
(4) インボイスのデータを後工程で活用
ペポルインボイスを受領したあとに発生する業務に、インボイスのデータを活用できるというメリットが考えられます。これについては、各社の経理実務によりどのデータをどの業務に活かせるか異なってくるでしょうが、ペポルインボイスはすでにご案内のとおり「構造化され、標準化された」データであることから、各社が提供する後工程のシステム(例えば会計システムなど)で汎用的にペポルインボイスのデータを活用する機能が追加されることが期待されています。後工程の活用として、いくつか想定されることを以下に記載します。
①会計業務の効率化と業績管理に役立つ情報の提供
受領したペポルインボイスのデータに基づいて、会計システムで自動的に仕訳を計上することが可能になると考えられます。このため、紙で受領したインボイスをもとに会計システムに手入力で仕訳を計上する業務と比較して、仕訳入力業務の効率化が図れると期待されています。また、入力の作業負担が軽減されるだけでなく、自動化により転記ミスなどの入力ミスも軽減されることから確認作業の負担も軽減されるでしょうし、仕訳計上のタイミングをリアルタイムにすれば最新の会計データを即座に確認できる、というメリットも享受できるでしょう。
さらに、ペポルインボイスでは、部門別、商品別などの明細データを保持していることが想定されるため、これらの明細データから仕訳を自動で計上することにより、会計システムで部門別、商品別などの詳細な業績管理が可能になることも期待できます。
②支払処理の効率化
受領したペポルインボイスのデータに基づいて、支払管理システムなどで支払処理を効率化することも考えられます。紙で受領したインボイスとの比較は上記①と同じになります。
そのほか、これは発行会社の立場になりますが、発行したペポルインボイスのデータに基づいて、入金消込業務の効率化が図れることも考えられ、今後各社が提供する後工程のシステムでどれだけペポルインボイスのデータを活用できる機能が追加されるか、楽しみなところです。
3.ペポルインボイスの制限事項について
さて、ここまでペポルインボイス利用のメリットについてご案内しましたが、制限事項などについても触れる必要があるでしょう。次にペポルインボイス採用検討にあたり、考慮した方が良いと考えられる事項についてご案内します。
(1) 税込金額の明細に対応していません
ペポルインボイスのフォーマットは、税抜金額がベースです。商品単価が税込金額の請求書等の場合、ペポルインボイスとして送信できません。
(2) 免税事業者の個人事業者は、現在利用できません
一般的な企業が利用できるペポルIDは、法人番号又は適格請求書発行事業者の登録番号等です。そのため、免税事業者の個人事業者はペポルIDを取得できないことから、利用できません。
(3) 部署・拠点単位での受信が行えません
ペポルインボイスでの送受信は、法人又は事業者単位です。これまで、例えばA支店とB支店で別々で請求書を受領している場合、ペポルIDは1事業者につき1つのため、各支店で受領することができなくなります。なお、この制限事項は、ペポルインボイス内の担当者情報を活用し、受信システムの処理として、該当の担当者に割り振ることで解決できます。
これらの制限事項などを確認したうえで、ペポルインボイス利用のメリットをどれだけ享受できるか検討していただければと考えています。
さて、次回最後となる第6回のコラムでは、ペポルインボイス採用の手順について、説明したいと考えています。
この連載の記事
-
2024.01.22
第6回(最終回) ペポルインボイス採用の手順
-
2024.01.15
第5回 ペポルインボイス利用のメリット
-
2024.01.15
第4回 ペポルでの送受信の仕組みとペポルインボイスについて
-
2023.12.28
第3回 電子インボイスとデジタルインボイスの違いとは(2)
-
2023.12.28
第2回 電子インボイスとデジタルインボイスの違いとは(1)
-
2023.12.18
第1回 インボイスと電子インボイスの違いとは
プロフィール
富永 倫教(とみなが とものり)
株式会社TKC 執行役員 企業情報営業本部 本部長
- 略歴
- 平成14年度の連結納税制度創設当初から、TKC連結納税システム(eConsoliTax)のコンサルティング業務に従事し、以来一貫して20年超にわたり中堅・大企業の税務部門に対する税務システムのマーケティングやコンサルティング業務を行っている。現在、消費税のインボイス制度への対応をきっかけにデジタル化を通じた事業者のバックオフィス業務の効率化を実現することを目的に誕生したデジタルインボイス推進協議会(EIPA)幹事法人のメンバーとして活動している。
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