更新日 2020.03.30

連結納税制度の見直し

第8回(最終回) グループ通算制度の税効果会計(当面の取扱い)

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 足立好幸

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 足立 好幸

令和2年度税制改正大綱では、連結納税制度の見直しと新たな制度(グループ通算制度)の創設が明記されました。当コラムでは、連結納税制度の見直しと新しいグループ通算制度について、大綱と執筆時点で公表された法案をもとに解説します。

 第8回(最終回)は、グループ通算制度の移行に伴う税効果会計の当面の取扱いについて解説したい。
 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。

1.公開草案の公表について

 グループ通算制度の適用は2022 年4月1日以後開始する事業年度からであるが、「所得税法等の一部を改正する法律」(以下「改正法人税法」という)が成立した場合、企業会計基準適用指針第28 号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という)第44 項に従うと、2022 年4 月1 日以後、グループ通算制度の適用を行う企業については、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む)において、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用(特に、繰延税金資産の回収可能性の判断)を行う必要がある。
 つまり、本来、予定どおり、2020年3月に改正法人税法が成立した場合、2020年3月期の決算(四半期決算を含む)から、グループ通算制度の適用を前提とした繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。
 しかし、政省令も公表されていない状況で時間的にも厳しく、現実的に考えて実務上の対応が困難であることから、企業会計基準委員会(ASBJ)では、2020年3月期の決算からどのような対応をすべきかを示すために『実務対応報告公開草案第58号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」』(以下「公開草案」という)を作成し、2020年2月13日に公表、3月9日まで広く意見を募集することになった。

2.公開草案のポイント

 公開草案のポイントは次のとおりとなる。

(1) 特例的な取扱い
実務対応報告第5号及び第7 号(以下「実務対応報告第5号等」という)の改廃をASBJが行うまでの間は、グループ通算制度への移行及びグループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度の見直しが行われた項目について、その旨を注記することを前提に、税効果適用指針第44 項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができる。

 つまり、グループ通算制度の詳細がわかり、以下の実務対応報告の見直しが行われるまで、「今までのままでよい、ただし、その旨を注記する」という特例的な取扱いが示されている。

  • ●実務対応報告第5 号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」
  • ●実務対応報告第7 号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」
(2) 適用対象
特例的な取扱いは、改正法人税法の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業及び改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業を適用対象とする。

 このうち、「改正法人税法の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業」は既に連結納税制度を採用している企業であり、「改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業」とは、来期から連結納税制度を採用する企業を意味している。後者については、来期から連結納税制度を採用する企業も今期の本決算(あるいは第3四半期)から連結納税制度又はグループ通算制度の適用を前提とした繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要があるため適用対象に含まれている。
 なお、今回の改正は、グループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直し(受取配当等の益金不算入制度の見直しなど)も行われるため、この見直しも特例的な取扱いの対象に含めることにしているが、適用対象はあくまで既に連結納税制度を採用している企業と来期から連結納税制度を採用する企業であり、単体納税制度を採用している企業(来期から連結納税制度を採用する企業を除く)は適用対象外としていることに注意を要する。
 また、例えば、繰越欠損金に重要性のない企業では、特例的な取扱いを適用する必要のない場合が生じることも考えられるため、特例的な取扱いについては、企業の選択適用にすることにしている。

(3) 適用時期

 適用時期は、公開草案が実現した実務対応報告の公表日以後とされているが、あくまで、実務対応報告第5号等の改廃をASBJが行うまでの間となる。

(4) 実務対応報告第5号等の見直しのポイント

 公開草案では、2020年4月以降に予定される実務対応報告第5号等の改廃について、以下の論点を挙げている。

  • ①個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断は、実務対応報告第5 号等では、連結納税制度において算定される連結法人税の個別帰属額等について、将来の支出又は収入を減少又は増加させる効果を有するかどうかであるとされている。また、個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性を判断するための企業の分類について、連結納税制度の下では、個別企業の分類のみではなく連結納税主体の分類も考慮して繰延税金資産の回収可能性を判断するとされている。このような既存の定めに関して、グループ通算制度においてはどのように取り扱うべきかという点について、検討を行う必要があるものと考えられる。
  • ②連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断は、実務対応報告第5 号等では、単一主体概念に基づく処理を行うことが適当であるとされ、個別財務諸表における繰延税金資産の計上額を単に合計するのではなく、連結納税主体として回収可能性を見直すこととされている。また、連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性を判断するための企業の分類については、連結納税制度の下では、連結納税主体としての企業の分類を行い、繰延税金資産の回収可能性を判断することとされている。このような既存の定めに関して、グループ通算制度においてはどのように取り扱うべきかという点について、検討を行う必要があるものと考えられる。

 公開草案の内容とポイントは以上であるが、これから2020年3月期に決算を迎える企業にとっては(当然の取扱いであるが)、ひと安心できる内容だろう。

おわりに

 以上、第1回から第8回まで、グループ通算制度について、大綱と改正法案に基づいて連結納税制度と比較しながら解説してきた。
 今後は、3月に改正法案が成立し、4月以降に政省令や国税庁のQ&Aが公表されることになるだろう。
 そして、これらの情報を踏まえて、既に連結納税制度を採用している企業は、グループ通算制度に移行するか、単体納税制度に戻るかの判断をし、これから連結納税制度の採用を検討する企業は、現行制度で開始するか、新制度で開始するかを検討する必要がある。
 今後も継続してグループ通算制度の情報を追っていく必要があろう。

※「所得税法等の一部を改正する法律案」等は令和2年3月27日に成立していますが、当コラムは、執筆時点で公表された法案をもとに解説しています。

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