連結納税制度の見直し

第1回 連結納税制度の見直しのポイント

更新日 2020.02.10

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 足立好幸

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 足立 好幸

令和2年度税制改正大綱では、連結納税制度の見直しと新たな制度(グループ通算制度)の創設が明記されました。当コラムでは、連結納税制度の見直しと新しいグループ通算制度について、大綱と執筆時点で公表された法案をもとに解説します。

はじめに

 連結納税制度の見直しについては、政府税制調査会で設置された「連結納税制度に関する専門家会合」(以下、「専門家会合」という)において平成30年11月7日から議論されてきた。
 そして、今回、令和2年度税制改正大綱(以下、「大綱」という)で、連結納税制度の見直しと新たな制度(グループ通算制度)の創設が明記された。
 今回の見直しは、各法人で申告を行う個別申告方式、自社の修正・更正を他社に反映させない遮断方式、開始・加入時の取扱いのリニューアル、など現行制度と大きく変わる、というより、名称自体も変わるため、「連結納税制度の廃止」と「グループ通算制度の誕生」といった方が表現的には的を得ているのか?と思う反面、当然のように、損益通算・欠損金の通算は存在し、本来、個別申告方式により理論的には個別計算にすべき外国税額控除や研究開発税制についてもグループ経営の実態に合わせて政策的にグループ調整計算が存続することとなったため、全体的に見ると、グループ通算制度も連結納税制度の延長にある制度であることがわかる。
 そういう意味で、連結納税制度の創設時から個別申告方式にしていたら、グループ通算制度も今回のような制度にはならなかったのではないか、という先生もいらっしゃるが、まさにその通りではないだろうか。
 いずれにせよ、既に連結納税制度を採用している企業やこれから連結納税制度を採用する企業はもちろんのこと、現在は連結納税制度に興味がない企業を含めて、グループ経営をしている企業のすべてに関係する改正であることは間違いない。
 そこで、当コラムでは数回に分けて、連結納税制度の見直しと新しいグループ通算制度の内容について、大綱と執筆期間中に公表されるだろう法案をもとに解説していきたい。
 まず、第1回では、連結納税制度の見直しのポイントについて解説していきたい。
 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。

1.見直しの背景

 なぜ連結納税制度を見直しすることになったのか?
 この点、大綱では、連結納税制度は、企業と税務当局の事務負担が半端ではなく重いため、いまだ未採用企業が多いことから、連結納税制度を抜本的に見直し、グループ通算制度へ移行することで、企業の機動的な組織再編を促し、企業グループの一体的で効率的な経営を後押し、企業の国際的な競争力の維持・強化を図ることを目的とする、という内容のものが記載されている。
 しかし、実際のところは、今回の見直しの最大の契機は、税務当局が、連結法人の税務調査(修正・更正手続を含む)における事務負担の重さに耐えられなくなったことにあると思われる。
 我が国の連結納税制度は、連結グループを一つの納税単位として、連結法人すべての共同作業で申告書が作成されるという制度設計であるため、理論的な制度であるといえるが、研究開発税制や受取配当金の益金不算入制度などのグループ調整計算にすべての連結法人が巻き込まれ、1社でも遅れると申告書の作成が滞り、さらに、1社でも計算に誤りがあるとすべての連結法人の申告書及び税額にその影響が生じることになるため、連結納税制度の実務において、企業と税務当局の事務負担が半端ではなく重いものになっている。
 そして、連結納税制度に係る事務負担の重さは、特に、税務当局において顕著であり、第2回専門家会合において、連結法人の税務調査が単体法人の税務調査に比較して、事務量が著しく多くなり、調査期間も長期間にわたることが報告されている(この点、連結法人の税務調査に関与したことがあれば、同じことを感じたことがあるだろう)。
 その結果、昨今の連結法人数の増加や人員不足が相まって、税務当局の事務負担が限界に達したというのが大きな要因であろう。

2.見直しのポイント

 今回の見直しは、企業グループが連結納税制度を採用しない最大の理由、具体的には、①事務負担の重さ(税額計算が煩雑であること及び税務調査後の修正・更正等に時間がかかり過ぎること)と②開始・加入時の不利な取扱い(開始・加入時に時価評価が必要となり、繰越欠損金が切り捨てられること)の2点を大きく軽減・緩和することを狙いとしている。
 その一方で、現在、連結納税制度を採用する一番のきっかけとなっている親法人の開始前の繰越欠損金の活用(親法人にSRLYルールを適用しないこと)ができなくなる点も大きな改正点であるといえる。
 ただし、損益通算と欠損金の通算は存続し(これがないと単体納税制度との違いがないので当然だろうが)、現在の連結納税制度を採用している企業の節税効果となっている外国税額控除と研究開発税制についてもグループ調整計算が存続することになった。
 具体的には、連結納税制度の見直しのポイントは次のとおりである。

  1. 個別申告方式への移行
  2. 損益通算及び欠損金の通算のプロラタ方式への変更
  3. 修正・更正の遮断方式の採用
  4. 開始・加入時の時価評価及び繰越欠損金の取扱いの見直し
  5. 親法人に対するSRLYルールの適用
  6. 研究開発税制及び外国税額控除のグループ調整計算の存続
  7. グループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直し

 そして、今回の見直し出発点となるが、個別申告方式への移行である。
 つまり、連結納税制度は「一体申告方式」※1 を採用しているが、グループ通算制度では「個別申告方式」※2 に変更されるため、納税主体についても、連結納税制度のように、親法人が代表して法人税の申告を行うのではなく、グループ通算制度では、各法人が法人税の申告を行うことになる。
 また、これによって、税額計算及び申告方法が簡素化され、各法人ごとに税務調査を行うことが可能となり、計算誤りがあった企業のみ修正・更正を行うことが可能となる。
 そして、他の項目の見直しも、この個別申告方式への移行に伴って生じているものが多く、その意味でも今回の最も基本となる改正となる。

  • ※1.「一体申告方式」とは、企業グループ全体を一つの納税単位として一つの所得金額及び法人税額を計算して申告する方法をいう。
  • ※2.「個別申告方式」とは、企業グループ内の各法人を納税単位として各法人が個別に所得金額及び法人税額を計算して申告する方法をいう。
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