更新日 2020.03.05
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 足立 好幸
令和2年度税制改正大綱では、連結納税制度の見直しと新たな制度(グループ通算制度)の創設が明記されました。当コラムでは、連結納税制度の見直しと新しいグループ通算制度について、大綱と執筆時点で公表された法案をもとに解説します。
第4回は、グループ通算制度の開始・加入に伴う時価評価と繰越欠損金の取扱いについて解説したい。
なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。
1.グループ通算制度の開始・加入に伴う時価評価と繰越欠損金の取扱い
グループ通算制度においても開始・加入に伴う時価評価と繰越欠損金の切り捨てが行われるが、組織再編税制との整合性を確保するため、組織再編税制と同様の要件と利用制限を課す取扱いに見直される。
具体的には次のようにまとめられる。
2.グループ通算制度と連結納税制度の相違点
グループ通算制度の開始・加入に伴う時価評価と繰越欠損金の取扱いについて、連結納税制度と次の点で取扱いが異なることになる
(1) 親法人に対してSRLYルールが適用される。
連結納税制度では、親法人の開始前の繰越欠損金にはSRLYルールは適用されない。
一方、グループ通算制度では、開始・加入前の繰越欠損金のうち開始・加入に伴い切り捨てられなかったものは、特定欠損金(その法人の所得の金額を限度として控除ができる欠損金をいう)となるため、親法人の開始前の繰越欠損金にもSRLYルールが適用されることになり、子法人の所得とは相殺できず、親法人自身で所得が生じない限り使用できないことになる。
ここで、SRLYルールとは、制度に持ち込んだ開始・加入前の繰越欠損金を自己の所得を限度にしか使用させない措置をいう。
このことは、連結納税制度の採用動機として一番多い、親法人の開始前の繰越欠損金の相殺による節税効果がグループ通算制度では実現しないことを意味する。
なお、連結納税制度における親法人の開始前の繰越欠損金(非特定連結欠損金)は、グループ通算制度に移行後は非特定欠損金(SRLYルールが適用されない欠損金)となるため、既に連結納税制度を採用している企業における親法人の開始前の繰越欠損金の節税効果はグループ通算制度に移行した後も継続することになる。その点、安心してよいだろう。
(2) 親法人も時価評価と繰越欠損金の制限対象になる。
連結納税制度では、親法人について、時価評価は不要となり、開始前の繰越欠損金は切り捨てられない。
一方、グループ通算制度では、親法人についても、子法人と同様に、一定の場合、時価評価、繰越欠損金の切り捨て、資産の含み損等の利用制限が課されることになる。
ただし、親法人の場合、いずれかの子法人との間で100%親子関係が継続することが見込まれればよいため、グループ通算制度の採用を決定したという状況から考えても、よほどのことがない限り、開始時に時価評価は不要になり、繰越欠損金は切り捨てられない。
また、親法人の場合、いずれかの子法人との間で5年前の日又は設立日からの支配関係継続要件又はみなし共同事業要件のいずれかを満たせばよいため、開始以後に含み損等の利用制限や繰越欠損金の切り捨てが生じるケースは多くはないと考えられる。
したがって、親法人について、開始に伴う不利益が生じるケースは、実務上、ほとんどないのではないかと思われる。
(3) 時価評価と繰越欠損金の切捨ての対象となる子法人が縮小する。
①開始時の時価評価の対象となる法人
連結納税制度における開始時の時価評価の対象となる法人(同時に「開始前の繰越欠損金が切り捨てられる法人」も意味している。以下、①において省略)は、『5年以内に相対取引での株式購入により100%化した子法人』となる。
一方、グループ通算制度では、子法人について、開始時に親法人との間で100%親子関係が継続することが見込まれる場合、時価評価は不要となり、開始時に繰越欠損金も切り捨てられない。
グループ通算制度において子法人の時価評価が必要になるケースとしては、親法人又は他の子法人が所有する子法人の株式の全部又は一部について、開始時に売却することが見込まれている場合などが想定される。
このように、グループ通算制度では、実務上、子法人が時価評価すべきケースはかなり限定されてくると思われる。
②加入時の時価評価の対象となる法人
連結納税制度における時価評価の対象となる法人(同時に「加入前の繰越欠損金が切り捨てられる法人」も意味している。以下、②において省略)は、『相対取引での株式購入により100%化した子法人』となる。
グループ通算制度では、連結納税制度と同様に、子法人のうち、適格株式交換等により加入した株式交換等完全子法人と通算グループ内の新設法人は時価評価が不要になるため、グループ通算制度でも「相対取引での株式購入により100%化した子法人」が時価評価の対象になるかどうか問題となる。
この点、グループ通算制度では、適格組織再編成と同様の要件で判定するため、『相対取引での株式購入により100%化した子法人』でも時価評価の対象外の法人となる場合がある。
例えば、50%超子会社を100%子法人にする場合、通常、完全支配関係の継続要件、従業者継続要件、主要事業継続要件に該当することが多いため、ほとんどのケースで時価評価が不要になると思われる。
したがって、グループ通算制度では、実務上、時価評価の対象になるのは、グループ外の会社を相対取引での株式購入により100%化した場合で、共同事業要件に該当しないケースが主たるものになると思われる。
いずれにしても、連結納税制度では、加入時にはほとんどのケースで時価評価と繰越欠損金の切り捨てが生じることになり、M&Aの障害となっていたが、グループ通算制度では、時価評価が不要となり、繰越欠損金が持ち込めるケースが多くなることが予想され、グループ通算制度移行後はM&Aを行いやすい環境になるだろう。
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