更新日 2014.06.16
今回は、「生産性向上設備投資促進税制」の概要と先端設備(A類型)の適用について解説します。
1.生産性向上設備投資促進税制の創設
「民間投資活性化等のための税制改正大綱」において、国内での設備投資をリーマンショック前の水準に回復させる目的で、「生産性向上設備投資促進税制」が創設されました。この「生産性向上設備投資促進税制」については、「日本再興戦略(平成25年6月14日閣議決定)」においても、「1.緊急構造改革プログラム(産業の新陳代謝の促進)」の冒頭に位置付けられており非常に重要な政策課題であることがわかります。
また、その中においても「①民間投資の活性化」として「経済対策において措置した生産等設備投資促進税制、研究開発税制の拡充、先端設備投資促進のための補助金などの波及効果や立地環境の改善により、今年度2兆円を超える民間設備投資の底上げが見込まれる。さらに、今後3年間を「集中投資促進期間」と位置付け、国内投資を促進するため、税制・予算・金融・規制改革・制度整備といったあらゆる施策を総動員することで、今年度以降も民間投資を喚起し、今後3年間で設備投資を2012年度の約63兆円から10%増加させ、リーマンショック前の民間投資の水準(年間約70兆円(2007年度までの5年間平均))に回復させることを目指す。」とされ、そのための具体的な施策「先端設備の投資促進」として「生産設備の新陳代謝(老朽化した生産設備から生産性・エネルギー効率の高い最先端設備への入替え等)を促進する取組を強力に推進し、これに応じて生産設備の新陳代謝を進める企業への税制を含めた支援策を検討し、必要な措置を講ずる。」とされています。
2.制度の概要
生産性の向上のための国内設備投資を増加させた法人については、新たに国内で取得等した一定の生産等設備を構成する設備について、即時償却、特別償却又は税額控除が可能となります。なお、平成25年度税制改正で成立した「生産等設備投資促進税制」とは別の制度になりますのでご注意ください。
(1) 対象法人
青色申告法人
(2) 対象設備(特定生産性向上設備等)
国内にある法人の事業の用に供する生産等設備(※1)を構成する機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物及びソフトウエアで次の要件を満たすものが対象となります。
- 産業競争力強化法に規定する生産性向上設備等に該当するもの
- 一定の規模以上のもの(※2)
(※1)生産等設備とは
その法人の製造業その他の事業の用に直接供される減価償却資産(無形固定資産及び生物を除く)で構成されているものをいいます。本店、寄宿舎等の建物、事務用器具備品、乗用自動車、福利厚生施設等は該当しません(製造業以外(小売業等)も対象となります!)。
(※2)一定の規模以上のものとは
- ①機械装置
- 1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの
- ②工具及び器具備品
- それぞれ1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの(それぞれ1台又は1基の取得価額が30万円以上で、かつ、一事業年度におけるその取得価額の合計額が120万円以上のものを含みます。)
- ③建物、建物附属設備及び構築物
- それぞれ一の取得価額が120万円以上のもの(建物附属設備については、一の取得価額が60万円以上で、かつ、一事業年度におけるその取得価額の合計額が120万円以上のものを含みます。)
- ④ソフトウエア
- 一の取得価額が70万円以上のもの(一の取得価額が30万円以上で、かつ、一事業年度におけるその取得価額の合計額が70万円以上のものを含みます。)
類型ごとの要件、確認者、税制措置
類型 | A:先端設備 | B:生産ラインやオペレーションの 改善に資する設備 |
---|---|---|
対象設備 (要件) |
「機械装置」及び一定の「工具」「器具備品」「建物」「建物附属設備」「ソフトウエア」のうち、下記要件を全て満たすもの(サーバー及びソフトウエアについては中小企業者等が取得するものに限る。)
|
「機械装置」「工具」「器具備品」「建物」「建物附属設備」「構築物」「ソフトウエア」のうち、下記要件を全て満たすもの
|
確認者 | 工業会等 | 経済産業局 |
確認者 |
○ 産業競争力強化法施行日(平成26年1月20日)から平成28年3月31日まで
:即時償却と税額控除(5%。ただし、建物・構築物は3%)の選択制
○平成28年4月1日から平成29年3月31日まで
:特別償却(50%。ただし、建物・構築物は25%)と税額控除(4%。ただし、建物・構築物は2%)の選択制 ※ただし、税額控除における税額控除額は、当期の法人税額の20%が上限 |
(出典:経済産業省「生産性向上設備投資促進税制について」)
(3) 生産性向上設備等とは
「先端設備」及び「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」として産業競争力強化法に規定するものをいいます。
- ①先端設備(A類型)
- 先端性に係る設備要件を満たす次の機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備及びソフトウエアをいいます。
減価償却資産の種類 | 対象となるものの用途・細目 |
---|---|
機械装置 | (限定なし) |
工具 | ロール |
器具備品(ホについては、中小企業者等が取得等をするものに限る。) |
|
建物 | 断熱材及び断熱窓 |
建物付属設備 |
|
ソフトウェア(中小企業者等が取得等をするものに限る。) | 設備の稼働状況等に係る情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの |
※サーバー用の電子計算機については、中小企業者等(情報通信業のうち自己の電子計算機の情報処理機能の全部または一部の提供を行う法人を除く)が取得又は製作するものに限る。
(出典:経済産業省「生産性向上設備投資促進税制について」)
なお、先端性に係る設備要件は、次の1)及び2)のいずれにも該当することとされます。
1) 最新モデルであること
機械装置:10年以内、工具:4年以内、器具備品:6年以内、建物及び建物附属設備:14年以内、ソフトウエア:5年以内に販売開始されたもので最も新しいモデル(取得年度または前年度に発売開始されたモデルを含みます。)
2) 旧モデル比で生産性(単位時間当たりの生産量、精度、エネルギー効率等)が年平均1%以上(※)向上するもの
※メーカーから申請を受けて工業会等が確認します。
注:機械装置のうち中小企業者等が取得等をするソフトウエア組込型機械装置の場合には、10年以内に販売が開始されたもので最新モデル及びその最新モデルの1つ前のモデルも含み、ソフトウエアには上掲2)の要件は付されません
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プロフィール
税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員
- 略歴
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ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。 - 著書等
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- 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
- 『令和6年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
- 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
- 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
- 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
- システム・コンサルティング事例
- ホームページURL
- ビジネス・ブレイン税理士事務所
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