更新日 2025.03.24
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
公認会計士・税理士 浅井 健吾
新規上場の際には、従来考慮していなかった会計基準にも準拠する必要があります。本コラムでは、上場企業において求められる財務会計のルールの概要を解説いたします。
当コラムのポイント
- 上場企業において求められる財務会計
- 会計基準の概要
- 決算早期化、開示への対応
- 目次
前回の記事 : 第3回 上場企業に求められる会計(税効果会計)
1.決算対応
(1) 連結会計
- ① 概要
- 投資家の意思決定の判断材料としては、子会社・関連会社を含めた連結グループ全体としての業績把握が極めて重要であり、連結グループ全体の財政状態や経営成績を適切に反映した連結財務諸表を作成することが必要となります。
また、例えば親会社の損失を子会社へ移転して不正な利益操作を行う等、連結グループ内での取引を利用した不正を防止する観点でも重要となります。 - ② 必要となる処理
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- 1) 各社の個別財務諸表を作成
- 連結グループ各社の個別財務諸表を作成します。各社で会計処理が整合するように、連結グループ内の統一会計方針を策定する必要があります。また、本コラムでも紹介した固定資産の減損等の会計上対応するべき処理は、親会社のみならず各社の個別財務諸表においても適切に反映させる必要があります。
- 2) 個別財務諸表を合算
- 親会社は連結子会社の個別財務諸表を入手し、合算を行います。その際、外貨の円換算、決算期相違の調整等が必要となります。子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合には、子会社の決算を基礎として連結決算を行うことができますが(ただし、連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致がある場合は必要な調整を実施)、3か月を超える場合には連結決算日に仮決算を実施します。
- 3) 主な連結修正仕訳
- a.連結会社間の取引高消去・債権債務消去
各社の個別財務諸表を合算しただけでは、連結グループ内の取引が含まれてしまいますが、連結グループの財政状態・経営成績を適切に反映するためには、連結グループ内の取引を除く必要があります。
そのため、連結会社間の売上高・仕入高等の取引高及び連結会社相互間の売掛金・買掛金等の債権債務を相殺する必要があります。 - b.資本連結
資本連結は、親会社における投資(子会社株式)と子会社における株主資本(注)を相殺する仕訳です。相殺により生じた差額はのれん(20年以内で効果が及ぶ期間にわたって、定額法等の合理的な方法により償却)又は負ののれん(特別利益に計上)として処理します。
(注)子会社の資産及び負債は支配獲得日の時価により評価します。
(2) 決算早期化
一般的な非上場の会社においては、原則的な税務申告期限(決算日後2か月以内)を目安にした決算スケジュールを想定していることが多いですが、上場会社においてはよりスピーディな決算対応が求められます。上場企業において対応が必要となる主な決算関係書類として、決算短信(四半期ごと)、半期報告書(半期ごと)、有価証券報告書(年度ごと)等が挙げられます。決算短信は、決算日後45日以内の開示が必要となるため、まずは決算短信を意識した決算スケジュールを策定・実行していくことが必須条件となります。
なお、親会社の決算のみならず、連結決算対応を含めたうえでスケジュールを策定する必要があり、従来の決算対応を抜本的に見直す必要がある会社も少なくありません。決算早期化のために、主に以下の様な点を留意する必要があります。
- 月次決算段階での締めを適時に行い、会計帳簿の誤り等を早期に是正する。
- 経理業務において、ボトルネックとなっている作業を割り出し、必要に応じて作業内容や人員配置の見直しを行う。
- 現状の業績に照らして論点となりうる「固定資産の減損」や「繰延税金資産の回収可能性」等、複雑な会計上の論点については、決算日を待たずに早めに検討を開始しておく。
- 作業工程ごとの決算スケジュールを策定、社内で周知し、作業の遅れや漏れがないかをモニタリングする体制を構築する。
(3) まとめ(特に留意するべき事項)
- ① 連結グループ内の統一会計方針(会計方針を策定し、連結子会社に対して周知されているか)
- ② 連結会社間との取引高や債権債務の把握(例えば会計帳簿の補助簿を利用した取引先別の管理等、適切に把握する仕組みが整備されているか)
- ③ 決算スケジュール(ボトルネックとなっている作業について適切な手当がなされているか、当期の会社の状況に照らして論点となりうる会計処理について早期に対応できているか)
了
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第4回(最終回) 上場企業に求められる会計(決算対応)
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第3回 上場企業に求められる会計(税効果会計)
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プロフィール
公認会計士・税理士 浅井 健吾(あさい けんご)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- 公認会計士試験合格後、現PwC Japan有限責任監査法人に入所し、会計監査業務や財務報告体制・内部統制の構築に係るアドバイザリー業務等に従事。
現在は、アスパイア税理士法人の代表として税理士業務を行いながら、上場企業やIPO準備企業の決算支援・内部統制の構築支援等の業務を行っている。 - ホームページURL
- アスパイア税理士法人
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