減価償却の論点解説と実務

第5回(最終回) 敷金等の取扱いについて

更新日 2024.12.02

  • X
  • Facebook

税理士・公認会計士 足立 直之

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

税理士・公認会計士 足立 直之

減価償却について、会計上と税務上の基本的な考え方から応用論点まで網羅的にわかりやすく解説します。

当コラムのポイント

  • 減価償却の基本的な考え方と各種減価償却方法を解説します。
  • 減価償却の例外的な取扱いについて解説します。
  • 資本的支出の税法改正に基づく解説と中古資産の取扱いについて解説します。
目次

前回の記事 : 第4回 減価償却方法の変更、法定耐用年数および中古資産の耐用年数

 今回、「敷金等の取扱い」について、以下5つの論点を解説していきます。

  • 1.敷金
  • 2.礼金
  • 3.「敷引き」について
  • 4.消費税の取扱い
  • 5.原状回復

1.敷金

 オフィスや店舗等の不動産の賃貸借契約時に発生するのが「敷金」です。この「敷金」は性質上「預け金」であり、将来返金されるものです。民法上『敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう(改正民法622条の2)』と規定されています。このことから、借主が過失等により賃借している部屋や設備を破損した場合、原状回復のための資金が敷金から充当されることや、借主が家賃を滞納した場合に敷金が滞納した家賃に充当されることもあります。
 勘定科目は、「投資その他の資産」の「敷金」もしくは「差入保証金」となります。

2.礼金

 「礼金」とは、不動産の賃貸借契約時に賃借人が賃貸人に対してお礼として支払う金銭であり、「敷金」とは異なり、将来返金されないものです。
 また、「礼金」は「敷金」とは異なり、費用として計上できます。この費用計上にあたっては、20万円を境に以下のように会計処理が異なります。

(1) 「礼金」が20万円未満の場合

 支出年度に全額費用処理することになります。その際の勘定科目ですが、「地代家賃」もしくは「支払手数料」となります。

《仕訳例》
 事務所の賃貸に当たり、敷金600千円・礼金100千円で契約した。

(2) 「礼金」が20万円以上の場合

 「税務上の繰延資産」となり、勘定科目は「長期前払費用」として計上します。契約期間が5年未満の場合は契約期間で均等償却し、5年以上の場合、5年間で均等償却します。
 償却時の勘定科目は「長期前払費用償却」もしくは「支払手数料」を使用します。

《仕訳例》
 事務所の賃貸に当たり、敷金1,500千円・礼金300千円で契約した。

  • 1)契約時

  • 2)期末時(契約期間:3年の場合)・・・償却期間:3年

  • 3)期末時(契約期間:10年の場合)・・・償却期間:5年

3.「敷引き」について

 契約によっては、「敷引き」といわれる敷金のうち返還されない部分が存在することがあります。
 契約書において、「敷金50万円のうち、退去解約時に敷引き10万円を差し引いて返金します」と記載されている場合の10万円部分が該当します。
 この「敷引き」される金額は、上記「礼金」と同様の処理となり、費用化されます。

4.消費税の取扱い

 不動産の賃貸に関する「敷金」・「礼金」の消費税については、次のようになります。

(1) 敷金の消費税

 消費税は、資産の譲受け、借受け、役務の提供(給与等を除く)を受けた場合に支払う必要があります(消費税法第2条第1項第12号)。
 この規定に対して、「敷金」は担保として預けられる「預け金」としての性質を持ち、賃貸借契約終了後に返還されるため、消費税は不要となります。

(2) 礼金の消費税

 礼金は不動産の賃貸借契約、すなわち「資産の借受け」に伴い発生するため、消費税の課税対象となります。ただし、住宅の賃貸は非課税取引であるため、礼金についても非課税となります。なお、「敷引き」についても同様です。

  • 事業用不動産(オフィス等)の礼金 → 消費税は課税
  • 住宅の礼金 → 消費税は非課税

5.原状回復

 賃借している不動産を契約に基づいて退去する場合、賃借前の状態に原状回復する必要があります。その原状回復費用の会計処理には「資産除去債務」と「修繕費」の2つの方法があります。
 以下、それぞれについて解説します。

(1) 資産除去債務

 「資産除去債務」とは、固定資産が使用不能となった際に生ずる除去費用を見積もって計上しておく負債であり、敷金に関しても「資産除去債務」に関する取扱いがあります。
 具体的には、「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」の9項において、『建物等の賃借契約において、当該賃借建物等に係る有形固定資産(内部造作等)の除去などの原状回復が契約で要求されていることから、当該有形固定資産に関連する資産除去債務を計上しなければならない場合がある。』と規定されています。
 資産除去債務は、将来発生する負債を現在価値に割り戻したもので、原則として資産・負債の両建てが求められます。しかし、敷金の場合、当該資産除去債務の負債計上及びこれに対応する除去費用の資産計上に代えて、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用として計上することが容認されています。この方法は、資産除去債務の計上と同額の資産を計上する「原則法」と比して、「簡便法」と呼ばれます。

 敷金に係るこの資産除去債務ですが、次のように計算します。

  • 1)敷金を支出時に、資産として敷金(または差入保証金)で計上する。
  • 2)退去時の原状回復費用を見積もる。
  • 3)平均的な入居期間(年)を見積もる。
  • 4)決算時に「原状回復費用÷入居期間(年)」により、毎期敷金(または差入保証金)から償却を行う。
  • 5)契約期間の途中で退去する。

 数値と仕訳で例示すると(簡便法)

  • 1)敷金1,500千円を計上する。

  • 2)退去時の原状回復費用を400千円と見積もる。
  • 3)入居期間を10年見積もる。
  • 4)400千円÷10年=40千円を毎年償却する(敷金を減らします)。

  • 5)契約期間の途中(7年目)で退去した
    退去時は、敷金から原状回復費用を差し引いた金額で返還されますが、6年間は敷金償却(240千円)され、未償却部分は履行差額(費用)として費用処理し、仕訳は下記のようになります。

 なお、敷金償却は財務会計上の費用であり、法人税法上は損金不算入となり、別表での調整が必要です。

(2) 修繕費

 原状回復等で敷金の一部が充当されて返還された場合、原状回復に使用された部分は「修繕費」として計上されます。

《仕訳例》
 敷金500千円のうち、200千円は原状回復に使用され、300千円が返還された場合、返還されなかった金額は下記のように「修繕費」として処理します。

  • X
  • Facebook

この連載の記事

プロフィール

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 足立 直之

税理士・公認会計士 足立 直之(あだち なおゆき)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

略歴
Big4系の監査法人で財務諸表監査、内部統制監査に携わり、IT統制を含めた内部統体制の構築支援、連結会計システムの導入コンサルティングを実施。その後、グローバル企業に出向し、公認会計士監査の監査対象の重要性から外れる国内外の子会社の会計監査を実施。現在は、税務業務、法定監査、会計コンサルティングに携わる。
ホームページURL
デルソーレ税理士法人 三鷹支店

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。