更新日 2024.10.28
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 足立 直之
減価償却について、会計上と税務上の基本的な考え方から応用論点まで網羅的にわかりやすく解説します。
当コラムのポイント
- 減価償却の基本的な考え方と各種減価償却方法を解説します。
- 減価償却の例外的な取扱いについて解説します。
- 資本的支出の税法改正に基づく解説と中古資産の取扱いについて解説します。
- 目次
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第2回目は減価償却の例外的取扱いについて説明します。
前回述べた通常の減価償却とは異なり、例外的な減価償却の取扱いとして下記のものがあり、それらについて解説します。
- 1.一括償却資産
- 2.少額減価償却資産
- 3.増加償却
- 4.特別償却
- 5.美術品
- 6.遊休資産の取扱い
1.一括償却資産
一括償却資産とは、取得価額が20万円未満の減価償却資産を指し、3年間にわたり均等償却することが可能です。
なお、取得価額が10万円未満の固定資産についても適用することは可能ですが、10万円未満の固定資産の場合、取得年度に全額費用として計上することが可能です。
2.少額減価償却資産
少額減価償却資産とは、取得価額30万円未満の減価償却資産を指し、これは取得年度に全額費用計上することが可能です。
この制度は、正式には「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」といい、青色申告法人である中小企業等(資本金1億円以下かつ大企業の子会社でないこと)であることが適用条件です。また、対象資産は一事業年度あたり総額300万円までとなっています。なお、この特例には期限が定められており、現状では令和8年3月31日までに取得した資産が対象となっています(現状、期限到来の前に延長処理が取られています)。
3.増加償却
増加償却とは、機械装置について、法定耐用年数を決定する際に見積もった通常の平均使用時間を上回って使用している場合に、あらかじめ定められた法定耐用年数に基づいた減価償却額を増加させて償却を行うことをいいます。
算出に当たっては、下記①の算式で増加償却率を算定し、結果が0.1以上であった場合に、②の算式を用いて通常の減価償却費に増加償却率分を付加して増加償却の限度額を算出します。
- ① 増加償却率=3.5%×1日あたりの超過使用時間≧0.1
- ② 償却限度額=帳簿価額×償却率×(1+増加償却率)
4.特別償却
特別償却とは、投資を促進する政策上の要請から中小企業投資促進税制(租税特別措置法)に規定されたもので、事業用資産の減価償却費とは別に費用を計上できる税制優遇措置のことです。
その効果としては、中小企業等にとって設備投資による資金支出について特別償却を活用することにより、課税対象所得を減らし、当面の税負担を軽減することが可能です。また、資産購入年度の課税対象所得が特別償却費を下回った場合は、所得を上回った額については1年間のみですが、繰り越すことも可能です。
この制度は、対象となる指定事業が定められ、適用対象資産も下記のように限定され、特別償却額も資産の取得価額の30%と上限が設けられています。
- 機械および装置で1台または1基の取得価額が160万円以上のもの
- 測定工具および検査工具で、1台の取得価額が120万円以上のもの、または取得価額の合計額が120万円以上であり1台の取得価額が30万円を超えるもの
- ソフトウェアで次に掲げるいずれかのもの
- 一つのソフトウェアの取得価額が70万円以上のもの
- その事業年度において事業の用に供したソフトウェアの取得価額の合計額が70万円以上のもの
- 車両運搬具のうち一定の普通自動車で、貨物の運送の用に供されるもののうち車両総重量が3.5トン以上のもの
- 内航海運業の用に供される船舶
特別償却制度には、次の2つのケースがあります。
- ① 初年度特別償却
- 普通償却額に加えて、取得価額の一部(特別償却額)を償却初年度に加算する方法です。
普通償却額+特別償却額=償却限度額
(※特別償却額=取得価額×一定率) - ② 割増償却
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普通償却額を一定期間割増しして償却する方法です。
普通償却額+特別償却額=償却限度額
(※特別償却額=普通償却額×一定率)
特別償却の計算例
取得価額:3,000千円
耐用年数:5年
償却方法:定額法
償却率 :0.200
- ① 通常の減価償却額:600千円(3,000千円×0.200)
- ② 増加償却額:900千円(3,000千円×30%)
- ③ 減価償却額:①+②=600千円+900千円=1,500千円
- ※翌年度以降は1,500千円に対して通常の減価償却費(600千円)を計上していきます。
5.美術品
会社が購入した絵画・彫刻品・工芸品等は美術品等として減価償却の対象となる場合があります。
平成27年に税法上の取扱通達が出されるまでは、下記の項目に該当するものは減価償却を行わないことになっていました。
- 美術関係の年鑑などに掲載されている作者が制作したもの
- 取得価額が1点20万円以上、絵画は号あたり2万円以上
平成27年の通達により基準が改められ、美術品の価額が1点100万円未満であれば原則として減価償却することになりました。
この通達では、取得価額が100万円以上である美術品等は原則非減価償却資産となりますが、「時の経過により価値が減少することが明らかなもの」は、減価償却資産として取り扱うことになっています。
ここでのポイントは「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」が基準となっており、100万円以上であっても「時の経過によりその価値が減少することが明らか」な場合には減価償却を行うことが可能ですが、100万円未満であるものの「時の経過によりその価値が減少しないことが明らか」な場合には減価償却は認められません。
6.遊休資産の取扱い
「遊休資産」とは特定の事業の廃止・休止等により、事業の用に供されていない資産のことを指します。
遊休資産に係る減価償却ですが、財務会計と税務会計で取扱いが異なります。
財務会計上は遊休資産であっても、経済的陳腐化等により減価が生じていることから減価償却を行うことが減損会計適用指針で定められています。
一方で、税務会計上は事業の用に供さない資産については原則として減価償却費の計上は認められません(法令13条括弧書き)。ただし、休止期間中に必要な維持補修が行われており、いつでも稼働させることが可能な場合は「遊休資産」ではなく「稼働休止資産」として、減価償却資産として取り扱われます。
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プロフィール
税理士・公認会計士 足立 直之(あだち なおゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- Big4系の監査法人で財務諸表監査、内部統制監査に携わり、IT統制を含めた内部統体制の構築支援、連結会計システムの導入コンサルティングを実施。その後、グローバル企業に出向し、公認会計士監査の監査対象の重要性から外れる国内外の子会社の会計監査を実施。現在は、税務業務、法定監査、会計コンサルティングに携わる。
- ホームページURL
- デルソーレ税理士法人 三鷹支店
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