更新日 2024.11.05
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
公認会計士・税理士 城 知宏
「事業再生」の概要と、中堅・大企業によるスポンサー支援の方法等について記載します。
当コラムのポイント
- 事業再生とはどういったものか
- 事業再生におけるスポンサーの役割と支援の方法
- 事業再生の手続きの概略と情報収集
- 目次
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前回の記事 : 第3回 企業の事業展開と再生企業へのスポンサー支援~新規事業を生み出すのは簡単ではない。だからこそ再生M&Aの手法を~
一言に事業再生と言っても、様々な手続きがあります。第3回コラムでは、再生企業へのスポンサー支援の道筋と、その際に留意すべき事柄について述べましたが、そもそも再生企業に対するスポンサー支援への道、つまり再生企業の情報をどのように収集するか、再生企業に対する支援にはどのような手続きがあるのかについて、掘り下げていきます。
1.私的整理と法的整理(両者の違い)
窮境にある企業が事業再生を果たすためには、一定の手続きを経る必要があります。しかし、事業再生と言っても、当該企業の状況に応じて多種多様な手続きがあります。ここでは、その手続きの違いを見てみましょう。
まず、事業再生の手続きを大きく分けると、裁判所の関与の有無によって分類することができます。裁判所が関与しない手続きを「私的整理」、裁判所の関与がある手続きを「法的整理」と呼びます。私的整理における一般的な手続きと法的整理における手続きを比較すると、以下のとおりです。
民事再生や会社更生などの手続きは一般的にも耳にすることが多い手続ですが、それ以外にも様々な手続きがあることがわかります。
次に、私的整理と法的整理の比較をみてみましょう。
出典:中小企業の事業再生等ガイドラインの実務(福岡真之介、片井慎一、松田隆志共著、清文社)P.10より
このように、手続の軽重や対象となる債権者の範囲等が異なるため、再生企業側からすれば、いずれの手続きが最適なのかを見極める必要があります。反対に、スポンサー支援を行う際も、単に債務が圧縮されればいいというわけではなく、その影響も考慮しなければなりません。
具体的には、例えば民事再生をした会社の場合、仕入先が有する債権が棚上げ(回収不能)となるため、支払サイトが短くなったり、これまで適用されていた仕入割引が受けられなくなったりと、取引条件が悪化することがあります。最悪の場合、取引を打ち切られることもあります。その結果、その会社(事業)は資金繰りがタイトになり、スポンサー支援後も資金繰りを安定させることに力を割かざるを得ません。取引が打ち切られている場合は、仕入・外注の代替先を探す必要があることもあります。一方、私的整理の場合、取引先に迷惑をかけていないことが多いため、従来通り継続されることが多く、そういった心配が減ります。
一方、私的整理では偶発債務など、顕在化していない債務が見落とされる可能性が法的整理に比べて比較的高いことが特徴です。法的整理では、基本的に全債権者から債権届出をしてもらうため、再生企業にとって債務の存在が把握しやすく、債権届出がなければ失権することから、潜在的な債務も含めて把握・整理がしやすいと言えます。しかし、私的整理の場合は、そもそも全債権者にそのような届出を要請することがない(対象となる債権者はほとんどが金融機関のみ)ため、偶発債務などは、きちんとデューデリジェンス(財務・法務・事業等の調査)を実施して、洗い出す必要があります。
2.情報の収集窓口
事業再生に精通した専門家とのネットワークを構築しておくことで、日々のアドバイスや自社が窮境に陥ったときに頼りになるということは第2回のコラムでも述べましたが、それだけでなく、スポンサー支援対象となる情報が舞い込んでくる可能性もあります。私の経験でも、実際に税務顧問先の社長にスポンサー支援をしていただいたことがあります。
「事業再生に精通した専門家=事業再生のプレイヤー」には、弁護士、コンサル、公認会計士、税理士、DIPレンダー(注1)である金融機関など、役割に応じてさまざまなプレイヤーが存在します。この中でも、弁護士、公認会計士、税理士で事業再生に精通した方との関係構築は比較的容易かもしれません。すでに関わりがある士業の方が、事業再生に精通していなかったとしても、その方を通じて紹介を受けることもできるでしょうし、大手の弁護士事務所であればメールマガジンなども配信していますので、読者登録しておくのも一つの手かと思います。
また、公的な窓口としては、「事業承継・事業引継ぎ支援センター」という国が設置する公的相談窓口も各都道府県に設置されています。各都道府県の「事業承継・事業引継ぎ支援センター」では、譲受希望企業(買い手)の相談窓口も設けられています。また、「事業承継・事業引継ぎポータルサイト(注2)」の事業承継事例や、金融庁HP(注3)の中小企業の事業再生等に関するガイドラインの活用実積に基づき、多数の事例が公表されています。こういった公的窓口の活用も検討されてはいかがでしょうか。
3.最後に
全4回のコラムを通じて、事業再生とは何か、再生企業を支援するプレイヤーの視点だけではなく、スポンサー側の視点(第3回コラム参照)についてもご紹介しました。本コラムの読者の皆様が所属されている企業が、再生企業に対するスポンサー支援を検討するきっかけになればという願いから、少しでも事業再生に興味を持っていただけるようにコラムを執筆いたしました。スポンサー支援を検討する企業が増えることで、再生企業の中でも多くの事業が生き残り、そこに携わる人々の生活が激変することなく、より安心して生活できる未来が実現することを願ってやみません。また、日本経済の新陳代謝がより円滑に進み、安心して仕事をし、生活できる未来を目指して、微力ながら邁進していきたいと思っています。
ありがとうございました。
注1 DIPレンダー・・・事業再生ファイナンスを行っている金融機関等。
注3 金融庁HP
了
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プロフィール
公認会計士・税理士 城 知宏(しろ ともひろ)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- 上場会社の経理課長として内部統制・連結決算、予算や有価証券報告書作成等、すべての経理業務を取り仕切ると共に、民事再生手続の申立てから、会社分割、清算までの全過程を自ら体験。独立開業後、事業再生を中心に業務を行っている。実務経験からのアドバイスが得意。
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