事業再生とは?

第2回 経営者の責任~現実社会にあるドラマの世界~

更新日 2024.10.21

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公認会計士・税理士 城 知宏

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

公認会計士・税理士 城 知宏

「事業再生」の概要と、中堅・大企業によるスポンサー支援の方法等について記載します。

当コラムのポイント

  • 事業再生とはどういったものか
  • 事業再生におけるスポンサーの役割と支援の方法
  • 事業再生の手続きの概略と情報収集
目次

前回の記事 : 第1回 事業再生~事業再生という言葉のイメージと実際~

 「事業再生」の局面で、経営者はどのような責任を果たさなければならないのでしょうか。ドラマや小説などでも、事業再生や倒産に関する多くの作品がありますが、これらは全てフィクションの世界なのでしょうか?

1.経営者の責任

 経営者の責任(経営責任)という概念は非常に幅広いですが、事業再生の局面における経営責任は、会社を倒産の危機に追い込んでしまったことに対する法律的な責任と道義的な責任に分けて考えることができます。(本コラムは法律的な検討を主とするものではないので、これ以上の深掘りはしないこととします。)
 そして、その経営責任の一つの形として、経営者が事業資金の借入について連帯保証人になっていることが多く、会社が借入金を返済できなくなった場合、経営者が個人で保証債務の履行(肩代わり)をしなければならなくなります。これは日本では当たり前のこととなっていますが、一方でこの経営者保証という仕組みが、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生を阻害する要因となっているのも事実です。政府の「成長戦略実行計画(2021年6月18日閣議決定)」でも、そのような指摘がなされています。
 また、経営者保証GL(第1回コラム参照)では、1.目的において、「(前略)主たる債務の整理局面における保証債務の整理を公正かつ迅速に行うための準則を定めることにより、(中略)ひいては中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力が一層引き出され、日本経済の活性化に資することを目的とする。」と述べられています。つまり、いわゆる死屍(しし)に鞭打つことを求めているのではなく、開業・廃業を繰り返しながらも経済が活性化することを目指しており、そのためには経営者の保証債務を迅速に処理することが求められます。
 このように、経営者保証GLが普及・浸透することで、保証履行に伴う経営者個人の破産が回避され、従来は破産しか選択がなかった状況からすれば画期的な仕組みと言えます。しかし一方で、「経営者の保証債務の整理」についてのガイドラインであり、個人事業主の場合には、会社の保証債務ではなく経営者自身の債務(経営者が主債務者)であるため、法人と個人事業で実質的には異なることはないものの、個人事業主に対しては経営者保証GLをそのまま利用することができず、ごく一部の例外を除き、破産せざるを得ないといった問題も残っています。

2.経営者の責任の果たし方

 自力再建が困難な再生企業であっても、スポンサーの支援を受けて事業を残すことで、従業員の雇用の維持や取引先との関係を保つことが可能です。もちろん、窮境にある企業が自力で再建し、健全な財務体質を取り戻すこと(借入金を返済できること)が最も望ましいです。そのために経営改善計画を策定し、利益を出せる体質に変わり、きちんと返済ができるよう努力している事業者は数多くいます。私もそのような会社や個人事業の経営改善に向けた支援を数多く行っています。
 しかし、独力での経営改善には限界があり、借入金の全額返済の目途が立たない企業も存在します。その場合、債権者から債権放棄を受けなければ、いずれ資金繰りが破綻し、事業が継続できなくなります。そうなる前に、経営者の責任を果たすべく、座して死を待つのではなく、また、やみくもに事業を継続するのでもなく、事業再生に精通した専門家の助言を得て、遅きに失することなく適切なタイミングで判断を下す必要があります。そうすることで、事業を存続させ、雇用や取引先が守られることに繋がっていく可能性が高まります。

3.ドラマの世界の出来事は現実で起こり得るのか(事業再生には様々なドラマがある)

 本コラムでは、特定のドラマの解説をするわけではありませんが、事業再生という言葉を聞いて、社会現象となった某ドラマ(もしくは原作小説)を連想される方も多いと思います。某ドラマには、主人公の実家(家業)で経営者が自らその命を絶ったエピソードがありますが、このようなことは本当に起こり得るのでしょうか。
 結論から申しますと、起こり得ます。非常に悲しい、あってはならないことではありますが。
 では、なぜこのようにあってはならないことが起こるのでしょうか。それはおそらく、経営者の悩みに対して、親身になって適切なアドバイスをしてくれる専門家が周りにいなかったため、判断すべきタイミングで適切な判断ができなかったことが一因ではないかと思います。
 私がいつもお世話になっている、事業再生に携わる専門家の方々は、こうした悲劇ができるだけ起こらないよう、日々、経営者の声に耳を傾け、研鑽を積んでおられます。さらに、事業再生に精通した専門家は、事業再生を通じて、様々な分野の知見を持っていることが多いです。例えば、弁護士は法律の専門家であり、交渉のプロでもありますが、事業再生を通じてビジネスや資金調達に非常に詳しい方が多くいらっしゃいます。また、公認会計士は監査及び会計の専門家ですが、事業再生に関連する法律(民事再生法などの倒産法分野、債権や担保関連の法律、税法等)について弁護士並みに詳しい方もいらっしゃいます。判断すべきタイミングで適切な判断ができるよう、事業再生に精通した専門家に相談できる関係を築いておくことは安心でしょうし、窮境状況にない平時でも、ビジネスにおいてより良い選択肢が見つかるかもしれません。このような事業再生に精通した専門家との関係づくりについては、字数の関係で第4回のコラムで触れることとします。

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プロフィール

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 公認会計士・税理士 城 知宏

公認会計士・税理士 城 知宏(しろ ともひろ)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

略歴
上場会社の経理課長として内部統制・連結決算、予算や有価証券報告書作成等、すべての経理業務を取り仕切ると共に、民事再生手続の申立てから、会社分割、清算までの全過程を自ら体験。独立開業後、事業再生を中心に業務を行っている。実務経験からのアドバイスが得意。
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城公認会計士事務所

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