更新日 2023.12.25
株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹
税務調査で重加算税が課されるということになると、納税額が増えることはもとより、次の税務調査が厳しいものとなったり、報道等がされたりするなど、さまざまな不利益を被ることとなってしまいますので、税務調査を受けた場合には、重加算税を課されることのないようにするということが非常に重要となります。
税務調査で重加算税が課されるというケースには、誰が見ても重加算税が課されることに疑義はないというようなものもありますが、重加算税が課されることとなるのか否かということについて慎重に判断をしなければならないというものもあります。
本コラムにおいては、法人税の税務調査において調査官から「重加算税の対象となる」と言われたもののうち、重加算税が課されることとなるのか否かということについて慎重に判断をしなければならないというものを確認し、それらについて、納税者及び税理士がどのように対応するべきであるのかということを説明するとともに、重加算税が課される場合に非常に高い割合で作成される質問応答記録書に対して納税者及び税理士がどのように対応するべきであるのかということを説明することとしています。
なお、本コラムは、TKC税務セミナー「朝長英樹氏が語る重加算税の対象とは」(オンデマンド配信)における説明に加筆・修正等をしたものです。
冒頭においても述べたとおり、重加算税が課されるケースでは、その殆どにおいて質問応答記録書が作成されることとなるため、質問応答記録書の作成にどのように対応するのかということも、重要となります。
最終回の第6回は、石村耕治・益子良一著「TCフォーラム・ブックレット もっと正しく知りたい 質問応答記録書作成の手引~税務調査のときに質問応答記録書と向き合う作法(2021年8月)」に実務に参考となる記述がありますので、その一部を抜粋した上で、解説等を加えることとします。
「税理士は当然同席できます。税理士の役割は重要だと思います。ただ、税務署は、質問応答記録書は、調査官の質問に納税者であるあなたがする回答(答述/供述/申述/陳述)手続だとしています。税理士は事実関係の確認の当事者ではないというスタンスです。この点は、行政調査や刑事捜査に代理人の参加を義務付けている国と、そうでないわが国のカルチャーの違いがあるのではないか、と思います。
いずれにしろ、調査官の質問がおかしいと判断される場合、納税者であるあなたの権利利益保護の視点から、あなたの税理士が調査官に質問をただすのは当り前のことです。」(11頁)
質問応答記録書が作成される場面に税理士が同席するということは、非常に重要なことですし、筆者は、質問応答記録書が作成される場面には、できるだけ多くの関係者が同席するように指導をしています。
調査官の中には、質問の相手方(回答者)以外の者は口を出さないようにしてもらいたいという旨の発言をする者も居たりしますが、回答者以外の者が発言をしてはいけないなどと何かに定められているわけではありませんし、調査官が自らに都合の良い質問ばかりをして都合の悪い質問をしないということであったり、回答者が十分な回答をしなかったということであったりした場合に、税理士や関係者が適切に補足等をすることには、何の問題もなく、むしろその反対に、そのような場合には、税理士や関係者は、適切に補足等をする必要があります。
質問応答記録書は、事実等を正しく記録するものであって、調査官に都合の良いことだけを記録するものではありませんので、税理士や関係者はもとより、調査官も、質問応答記録書に事実等が正しく記録されるように努める必要があります。
「所轄の税務署などに自分の質問応答記録書のコピーを求める場合は、実質、個人情報保護法(行政機関個人情報保護法)に基づく情報開示の手段に限られます。」(20頁)
調査官は、質問と回答を質問応答記録書に書き終えたら、その質問応答記録書を回答者と同席者に見せて内容の確認を求めます。そして、調査官は、回答の内容について、追加や修正がないかを尋ね、追加や修正があるという場合には、追加事項や修正事項を追記します。
納税者としては、質問応答記録書の写しを取っておきたいところですが、国税当局は、質問応答記録書は公文書であることを理由に、写しを取ることを認めません。
調査官は、最後に、回答者に対し、質問応答記録書への署名を求めます。
回答者は、署名を求められると、殆どの場合、署名をしてよいのか否かということがその場では判断できず、迷うことになります。
このように、回答者が署名をした方が良いのか否か迷うという場合には、回答者は、その場では署名をせず、税務署に、個人情報保護法に基づく情報開示請求の仕方を確認し、質問応答記録書の情報開示請求を行い、その写しを入手して、内容を良く確認し、税理士や関係者の意見を聞いてから、署名をするのか否かを判断するということも、可能です。勿論、署名をしないということであっても、何ら不利益が生ずるなどということはありません。税務署に、個人情報保護法に基づく情報開示請求をすると、1月前後で、質問応答記録書の写しを入手することができます。
重加算税を課されることに納得がいかないという場合、重加算税を課されたら争うという場合、社内で上司等に詳しい報告をする必要があるという場合などは、質問応答記録書の情報開示請求を行っておいた方が良いと思われます。
「税務調査で、納税者は調査官の承諾が得られれば、録音するのは問題がありません。しかし、現実には、調査官が承諾することはないと思います。承諾なしに録音しようとすると、調査官は調査を打ち切り、帰署してしまいます。そして、ケースによっては、推計で課税してきます。
それでは、「秘密録音」をしたらどうでしょうか。調査官に何も告げないでスマホで録音した場合は、「証拠能力」は認められるのでしょうか。
東京高等裁判所は、録音が「著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人権侵害を伴う手法によって収集されたものであるときには、その証拠能力を否定してもやむを得ない」とし、そうでない場合には、証拠能力はあると判断しました(昭和52年7月15日判決・判例時報867号60頁)。つまり、秘密録音が証拠として認められるかどうかは著しく反社会的と認められるか否かを基準に判断すべきであるとしたわけです。
相手の同意を得ることなしに行われた秘密録音の証拠能力に関しては、「たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、違法ではなく、その録音テープの証拠能力は否定されない」とする最高裁判例があります(最高裁判所平成12年7月12日決定・刑集54巻6号513頁)。
もちろん、「秘密録音」自体は合法とされていても、録音すること自体が法的に禁止された場所で秘密録音を行うことは違法になることもあります。たとえば法廷内での録音には刑事訴訟規則第215条や民事訴訟規則第77条に基づいて裁判所の許可が必要です。
通例、裁判になると、被告となる課税庁は、おおむね次のように主張します。
「税務職員は、税務調査において知り得た秘密について守秘義務を負い、このような守秘義務は調査対象者の営業上の秘密のみならず、その取引先等の第三者の営業上の秘密に対しても及ぶところ、税務調査時にレコーダー等による会話の録音を認めれば、このような秘密や調査の内容が別の機会に守秘義務を負わない第三者にも知れ渡る可能性があるから、レコーダーが作動した状況下において調査担当者は秘密事項の保持に懸念無く必要かつ十分な税務調査を実施することが極めて困難な状況となる」。
そして、裁判所は、課税庁の主張を認めて一件落着とします[たとえば、福岡地裁2014(平成26)年11月4日判決・税務訴訟資料 第264号-181(順号12562)]。
国家権力を3つに分割する三権分立の原則のもとでは、「司法(裁判所)」も、その本質は国家権力、といってしまえば、それまでです。しかし、国民・納税者の期待に応えて、司法には独立してもう少し創造的な発想ができないのか、と思ってしまいます。
質問応答記録書手続については、国税庁のHPをみても、法律をみても、何も書いてないわけです。まさに、密室税務行政です。それでいて、調査を受ける納税者に「録音はダメ」では、「秘密録音」をするしか自分を護るしか(原文ママ)手立てはないと思います。」(30・31頁)
筆者の顧問先の税務調査においては、これまで税務調査を録画したり録音したりしたというケースはありません。
しかし、筆者がスポットで相談を受けるケースでは、国税当局と納税者との間で主張が激しく対立しているのが通例であるという事情もあり、納税者が税務調査を録画したり録音したりしているものが結構な割合で存在します。上記の記述は、調査官が絶対に録音を認めないという前提で書かれているように見受けられますが、調査官の中には、録音をしても問題ないという対応をする者も現に居ますし、税務調査を録画したり録音したりすることが違法であるわけでもありませんので、税務調査を録画したり録音したりすることが重大事であるかの如く考える必要はありません。
筆者も、かつては税務署や国税局で調査官として税務調査に従事していましたが、当時、「社長のあの発言を録音することができていれば・・・」と思った記憶や「あの時の倉庫の中の写真を取ってさえいれば・・・」と思った記憶などがあります。しかし、納税者に税務調査を録画されたり録音されたりしたら困るなどと思った記憶は、全くありません。そもそも、調査官が税務調査で録画されたり録音されたりしたら困るということをすること自体がおかしいわけです。
ところで、筆者は、質問応答記録書に関しては、ネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに捉えることが重要であると考えていますので、その点について、一言、述べておきたいと思います。
質問応答記録書に関して記述した書籍や記事等は、質問応答記録書が作成されるということになると、納税者としては、十分、慎重に対応しないと、大変なことになる、という論調のものばかりで、上記において引用した論考も同様であるように思われますが、筆者は、質問応答記録書をそのように捉えなければならないケースは、非常に稀であって、調査官が質問応答記録書を作ると言い始めた場合には、重加算税が課される事由はないということを文書に明確に書き残してもらうチャンスであると捉えた方がよいケースが殆どであると感じています。
調査官が質問応答記録書を作ると言い始めた場合に、「大変だ」と捉えるのか、「チャンスだ」と捉えるのかということによって、質問応答記録書に書かれる内容は、大きく変わってきます。質問応答記録書が作成されることを「大変だ」と捉えて遣り取りに臨むと、回答者の回答は、必然的に、守りの姿勢で言い訳ばかりを言うということになってしまい、説得力の乏しいものとなってしまう可能性が高くなります。
筆者は、スポットで相談を受けたものについて、調査官に質問応答記録書を再度作るように求めたことがありますが、質問応答記録書に関しては、納税者の側から作成を求めてもよいものというくらいに考えておいた方が良い結果が得られるように思われます。
特に、税理士の方々は、質問応答記録書が作成されることを「大変だ」とか「何とか避けなければならない」とかと捉えてしまうと、その波動が回答者にも伝わり、回答者が落ち着いて適切な回答をするということができなくなってしまうという事態になりかねませんので、質問応答記録書が作成されることを過度にネガティブに捉えることのないように、十分、注意する必要があります。
以上
この連載の記事
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2023.12.25
はじめに
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2023.12.25
第1回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(1)
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2023.12.25
第2回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(2)
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2023.12.25
第3回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(3)
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2023.12.25
第4回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(4)
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2023.12.25
第5回 付記
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2023.12.25
第6回 質問応答記録書への対応
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