更新日 2023.12.25
株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹
税務調査で重加算税が課されるということになると、納税額が増えることはもとより、次の税務調査が厳しいものとなったり、報道等がされたりするなど、さまざまな不利益を被ることとなってしまいますので、税務調査を受けた場合には、重加算税を課されることのないようにするということが非常に重要となります。
税務調査で重加算税が課されるというケースには、誰が見ても重加算税が課されることに疑義はないというようなものもありますが、重加算税が課されることとなるのか否かということについて慎重に判断をしなければならないというものもあります。
本コラムにおいては、法人税の税務調査において調査官から「重加算税の対象となる」と言われたもののうち、重加算税が課されることとなるのか否かということについて慎重に判断をしなければならないというものを確認し、それらについて、納税者及び税理士がどのように対応するべきであるのかということを説明するとともに、重加算税が課される場合に非常に高い割合で作成される質問応答記録書に対して納税者及び税理士がどのように対応するべきであるのかということを説明することとしています。
なお、本コラムは、TKC税務セミナー「朝長英樹氏が語る重加算税の対象とは」(オンデマンド配信)における説明に加筆・修正等をしたものです。
話が少し脇道にそれてしまいますが、我が国の税務訴訟における判決には、大きな問題があると考えられます。
アメリカにおいては、税務訴訟における納税者の勝訴率は、5割くらいだと聞いています。
また、ある弁護士の2018年の記事によると、インドにおいては、2017年3月末時点で納税者の勝訴率は73%、インドネシアにおいては、2016年の納税者の勝訴率は58%、中国においては、同年の納税者の勝訴率は8%となっており、日本においては、2017年3月期の納税者の勝訴率は5.6%となっているとされています。日本における納税者の勝訴率は、中国よりも低いということです。
何故、日本において、このような異常な事態となっているのかというと、答は、明確であって、日本においては、裁判官が国寄りだからです。
日本において納税者の勝訴率が低いことに関して、専門家と言われる人達は、例外なく、日本では慎重に税務調査が行われているからだと説明していると言ってもよい状況にあるわけですが、筆者は、そのような説明は正しくないと考えています。
確かに、日本では、国税当局が慎重に税務調査を行っていることは間違いないと思いますが、日本の納税者は、諸外国の納税者よりもはるかに慎重であって、本来は違法な課税であると判断されるケースであっても、余程のことがない限り、訴訟をするということまではしません。
国税当局が慎重に判断をした結果、課税をしないとしたものと、納税者が慎重に判断をした結果、争わないとしたものとを比べてみて、どちらが多いのかということを考えてみると、後者の方が圧倒的に多いという結論になるはずです。
つまり、日本の納税者は、慎重過ぎるほど慎重であって、そのような状況下で、日本における納税者の勝訴率が上記のような状態となっていることについては、明らかにおかしいと言わざるを得ないわけです。
日本において、そのような明らかにおかしな状況が生じているのは何故なのかということを考えてみると、答は、一つしかなく、裁判官が国寄りだからだということしかないはずです。
仮に、日本においても、裁判官が正しく判断をすれば納税者の勝訴率はアメリカのように5割になるということであったとすれば、現在、実際には、納税者の勝訴率は1割程度ですので、10件のうち1件は裁判官が正しい判断をしているが、10件のうち4件は裁判官が正しい判断をしていないということになります。
重加算税に関しても、判例と言われているものを用いて取扱いを説明するということが可能ですが、そもそも判例と言われているものに問題があるという場合には、そのような説明をすることは、適当ではありません。
今回も、判例と言われているものを用いて取扱いを説明するということではなく、間違った判例は正すべきであるというスタンスで説明を行っています。
また、Q(質問)という形では作っていませんが、税務調査においては、売上の繰延べ等が法人の所得の金額を減少させようという意図を持って行われていたというような場合に、調査官がそのような意図があったことを「悪質」であると言い、「悪質」であることを重加算税の賦課の理由であるかのごとく主張をするというケースも少なくありません。
しかし、既に確認したとおり、「悪質」であるのか否かということが重加算税を課すのか否かの判断の基準となっているわけではありません。
このため、税務調査において、調査官が「悪質」であることを重加算税の賦課の理由であるかのごとく主張をするということがあった場合には、「悪質」であるのか否かということが重加算税を課すのか否かの判断の基準となっているわけではないことを明確に伝える必要があるということにも、留意する必要があります。
また、筆者が国税当局において調査官として税務調査を行い、その後、税理士として税務調査に立ち会ってみて感じたことを一点だけ書かせて頂こうと思います。
税務調査を受ける法人の担当者は、調査官が税法や通達などを良く知っていると、その調査官は能力があると評価して慎重な対応をし、調査官が税法や通達などをあまり知らないと、その調査官はあまり能力がないと評価して安易な対応をするという傾向が見受けられます。
しかし、重加算税の賦課の要否が問題となるものに関しては、税法や通達などを良く知っている調査官よりも税法や通達などをあまり知らない調査官の方が深度のある調査をするということが良くあります。
このため、重加算税の賦課の要否が問題となっているケースにおいては、調査官が税法や通達などをあまり知らないからといって、調査官を甘く見て安易な対応をするなどということがないように、十分、注意をする必要があります。
以上
この連載の記事
-
2023.12.25
はじめに
-
2023.12.25
第1回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(1)
-
2023.12.25
第2回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(2)
-
2023.12.25
第3回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(3)
-
2023.12.25
第4回 重加算税の賦課の根拠条文と事務運営指針(4)
-
2023.12.25
第5回 付記
-
2023.12.25
第6回 質問応答記録書への対応
プロフィール
免責事項
- 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
- 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
- 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。