更新日 2017.05.29
過去数年間、実務家や経済界からあげられていた、企業の組織再編を阻害していた税制上のボトルネックが大きく改善しました。社内ベンチャー等の独立に使われるスピンオフ税制については適格再編となり、課税を繰延べることができます。また、スクイーズアウトの場合に現金交付をしても適格要件を満たすことが可能になります。さらに、連結納税制度における時価評価対象から、自己創設のれんが除外されることが明確化されました。
これらにより、組織再編が活発化し、連結納税制度の採用企業の増加も見込まれます。企業戦略における組織再編・連結納税の活用が、タックスプランニング上さらに重要性を増すことになると思われます。
1.スピンオフ税制の創設(スピンオフが適格再編に)
近年、様々な企業が企業グループの垣根を超えた事業構造変革のための再編を進めています。その中でも特定の事業を切り出して独立したり、業界再編を行うといった動きが活発化しており、その一手法であるスピンオフが重要な再編手段となっています。一方で税制についてはスピンオフが改正前では非適格再編になり、その結果、株主に対しては配当課税がなされ、法人に対しては資産譲渡損益課税がなされるなど、多額の税負担が発生することにより、再編が阻害されていました。そこで、平成29年度税制改正ではスピンオフも適格要件を満たした場合には、株主課税・資産譲渡損益課税ともに繰り延べることとされました。平成29年10月1日以後の組織再編から適用されます。
(1) 改正前の制度の問題点
改正前の制度では、スピンオフは複数回の組織再編が連続することになり結果として非適格再編になってしまいます。そのため、株主に対しては配当課税がなされ、法人に対しては資産譲渡損益課税がなされるなど、多額の税負担が発生するという問題点がありました。
(2) 改正の概要
- ①適格分割型分割の範囲の拡充
- 適格分割の範囲に、分割法人が行っていた事業の一部を新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割が加えられることになり、適格要件として「分割法人が分割前に他の者による支配関係がないものであり、分割承継法人が分割後に継続して他の者による支配関係がないことが見込まれていること」が加わります。
- ②適格現物分配の範囲の拡充
- 1) 100%子法人株式の現物分配
適格現物分配の範囲に、一般株主に対する100%子法人株式の現物分配に「現物分配法人が現物分配前に他の者による支配関係がないものであり、子法人が現物分配後に継続して他の者による支配関係がないことが見込まれていること。」の要件が加えられ、現物分配法人における子法人株式の譲渡損益を計上しないこととするとともに、源泉徴収等を行わないこととされます。
2) 単独新設分社型分割又は適格現物出資の後に現物分配が行われる見込みがある場合
単独新設分社型分割又は適格現物出資の後に現物分配が行われる見込みがある場合には適格要件のうち関係継続要件について、その現物分配の直前の時までの関係により判定することとされます。
2.スクイーズアウト税制の見直し
平成29年10月1日以後スクイーズアウトによる100%子会社化の手法である、全部取得条項付種類株式の端数処理、株式併合の端数処理、及び株式売渡請求による完全子法人化について、株式交換と同様に組織再編税制の一環として位置づけられます。その結果、スクイーズアウトについては課税関係が統一され、適格要件を満たした場合には課税繰り延べとなります。
(1) 組織再編税制等への組み込み
- ①企業グループ内の株式交換と同様の適格要件を満たさない場合における、その完全子法人となった法人を、非適格株式交換等に係る完全子法人等の有する資産の時価評価制度等の対象に加えます。
- ②企業グループ内の株式交換と同様の適格要件を満たす場合におけるその完全子法人となった法人を連結納税の開始または加入に伴う資産の時価評価制度の対象から除外するとともに、その完全子法人となった法人の連結納税の開始等の前に生じた欠損金額を特定連結欠損金とします。
(2) 適格要件のうち対価に関する要件の見直し
吸収合併及び株式交換に係る適格要件のうち対価に関する要件について、合併法人または株式交換完全親法人が被合併法人または株式交換完全子法人の発行済株式の3分の2以上を有する場合におけるその他の株主に対して交付する対価を除外して判定することとされます。
これにより、持株比率3分の2以上の会社については、少数株主について金銭を交付しても、適格要件のうち対価に関する要件を満たすことが可能となります(下表参照)。
3.その他の主な見直し
(1) 連結納税の開始又は加入時の時価評価対象資産の見直し
時価評価の対象となる資産から、帳簿価額が1,000万円未満の資産(※)を除外することとされます(平成29年10月1日以後に行われる組織再編成について適用)。
※(改正前)含み損益が子法人の資本金等の額の1/2と1,000万円のいずれか小さい金額未満)
(2) 営業権等の償却方法の見直し
営業権の取得年度の償却限度額の計算上、月割計算(現行:年割計算)を行うこととされます(資産調整勘定及び負債調整勘定についても同様とされます)。
(3) スクイーズアウトに伴うみなし配当の除外
みなし配当の額が生ずる事由となる自己の株式の取得について、その範囲から全部取得条項付種類株式設定に係る定款変更に反対する株主からの買取請求に基づく取得が除外されます(所得税についても同様の改正がされます)。
(注)買取請求は、株主がその全部取得条項付種類株式の取得決議に係る取得対価に関する事項を知った後に行った場合で、買取請求をしないとすれば端数となる株式のみの交付を受けることとなる場合に行ったものに限られます。
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プロフィール
税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員
- 略歴
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ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。 - 著書等
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- 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
- 『令和6年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
- 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
- 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
- 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
- システム・コンサルティング事例
- ホームページURL
- ビジネス・ブレイン税理士事務所
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