更新日 2016.05.30
1.企業版ふるさと納税制度の創設
(1) 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税制度)の概要
青色申告法人が地方自治体に対し地域再生法の認定地域再生計画(※)に記載された「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に関連する寄附金を支出した場合には、通常の損金算入のほか法人事業税、法人住民税、法人税から税額控除を受けることができます。ただし個人版ふるさと納税と異なり全国ほとんどが対象となるわけではないこと、控除後でも法人の自己負担額が発生すること、地方交付税の不交付団体や本店等の所在自治体への寄附が対象外となる点などいくつかの留意点があります。
※地方自治体が地域再生法の地方創生のための地域再生計画を策定し、国の認定を受けたもの。
(2) 法人地方税の税額控除額
上記それぞれの税額の20%が税額控除限度額となります。
※平成29年度以後に開始する事業年度の法人事業税については15%が税額控除限度額となります。
(3) 法人税の税額控除額
(2)の法人地方税から控除しきれなかった金額は法人税からの控除が可能です。下記①または②のいずれか少ない方で法人税額の5%が上限とされます。
- ①「寄附金の額の合計額×20%-法人住民税からの控除額」
- ②寄附金の額の合計額×10%
(4) 対象となる寄附金
地方版総合戦略に位置付けられた事業であって、しごと創生や結婚・出産・子育て等の観点から効果の高い地方創生事業(重要業績評価指標(KPI)の設定、(PDCAの整備等)について、地域再生計画を策定し、国の認定を受けたものが対象となります。ただし、企業が本社の立地する地方公共団体に寄附を行う場合は、優遇措置の対象から除外されます。
(5) 寄附企業に対する地方公共団体の行為の制限
地方公共団体は、寄附の代償として経済的利益を与えてはいけないとされています。
(禁止される行為の例)
- 寄附額の一部を補助金として供与すること
- 入札や許認可で便宜を図ること
- 有利な利率で融資すること 等
2.その他の法人税関係の改正
(1) 組織再編税制の見直し
- ①株式交換等(株式交換又は株式移転)について見直されます。
- イ 共同事業を行うための株式交換等に係る適格要件のうち役員継続要件について、株式交換等前の特定役員の全てがその株式交換等に伴って退任をする株式交換等でないこととされます。
- ロ 適格株式交換等により親法人が取得する子法人株式の取得価額について、株主が50人以上である子法人の場合には、その子法人の直前の申告における簿価純資産価額にその後の資本金等の額等の増減を調整したものとされます。
- ハ その他適格要件について、所要の措置が講じられます。
- ②株式継続保有要件の判定について明確化されます。
(2) 役員給与にかかる税制の整備
- ①一定の譲渡制限付株式による給与についての事前確定の届出不要
法人の支給する役員給与について、役員から受ける将来の役務の提供の対価として交付する一定の譲渡制限付株式による給与についての事前確定の届出が不要とされます。 - ②利益連動給与の算定指標の範囲の明確化
利益連動給与の算定指標の範囲にROE(自己資本利益率)その他の利益に関連する一定の指標が含まれることが明確化されます。 - ③役員に付与した株式報酬の損金算入
法人が、個人から受ける将来の役務の提供の対価として一定の譲渡制限付株式を交付した場合には、その役務の提供に係る費用の額は、原則として、その譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日の属する事業年度の損金の額に算入されます。
(注)平成28年4月1日以後に交付の決議がされる譲渡制限付株式について適用されます。
3.移転価格税制に係る文書化
これまで主に法人課税関連の改正を中心に解説してきましたが、国際課税制度のうち法人に関する改正で影響が大きいと思われる移転価格税制に係る文書化や加算税制度の見直しについても解説します。
(1) 移転価格税制に係る文書化制度の概要
BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトを踏まえた移転価格税制に係る文書化制度が整備され、多国籍企業グループは、文書を税務当局に提供(または作成・保存)することが義務づけられます。
連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループは提出を義務付けられることから広範な企業に影響が出ることが考えられます。
文書は以下の3つに大別されます。
- ①国別報告書
- ②マスターファイル
- ③ローカルファイル
各文書の記載項目一覧
①国別報告事項
多国籍企業グループにかかる国別報告事項の提供義務者である法人は、その多国籍企業グループにかかる国別報告事項を税務署長に提出しなければなりません。
②マスターファイル<事業概況報告事項>
③ローカルファイル<独立企業間価格の算定に必要と認められる書類>
4.加算税制度の見直し
(1) 過少申告加算税・無申告加算税の見直し
当初申告のタックスコンプライアンスを高める観点から、調査の「事前通知」から「更正予知(調査があることにより更正又は決定があるべきことを予知)」までの期間が、新たに加算税の対象となります。
(2) 短期間に繰り返して無申告等を行った場合の加算税の加重措置
悪質な行為を防止する観点から、期限後申告等があった場合において、その期限後申告等があった日の前日から起算して5年前の日までの間に、その期限後申告等に係る税目について無申告加算税(更正予知によるものに限る)又は重加算税を課されたことがあるときは、加算税の割合が10%加算されます。
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プロフィール
税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員
- 略歴
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ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。 - 著書等
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- 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
- 『令和6年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
- 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
- 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
- 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
- システム・コンサルティング事例
- ホームページURL
- ビジネス・ブレイン税理士事務所
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