更新日 2016.05.16
平成28年度税制改正大綱は、消費税軽減税率制度の導入の関係で発表がずれ込みましたが、3月28日に「所得税法等の一部を改正する法律」が成立、31日に公布されました。本年度の税制改正では議論の主眼が「消費税の軽減税率制度」となったため法人税制の改正は例年に比べ少なく、また抜本的な制度改革は先送りされています。一方で平成26.27年度に引き続きアベノミクス税制における法人の成長支援税制として、法人実効税率の引下げを一年前倒しし、28年度に20%台への引下げが実現することとなりました。それ以外にも企業版ふるさと納税の創設、移転価格税制の文書化などが行われており、実務的には税効果会計を含め重要な改正となります。
会計税務実務面では、重要なポイントとして、現行のマイナンバー制度に加え、消費税軽減税率制度におけるインボイス制度が平成33年から導入されますが、その中での「電子インボイス」が注目ポイントとなります。スキャナ保存制度は昨年に引き続き「スマホ・デジカメでの撮影」も解禁になるなど電子化の流れはますます強まり、様々な面で次世代的を見据えた対応が求められることになります。
社員の皆様への研修教育のポイントとしては昨年度改正での「ふるさと納税の拡充」を今一度周知することとともに、「空き家にかかる譲渡所得の特別控除制度」「三世代同居改修工事等に係る特例」「スイッチOTC薬控除」なども知っておくべきでしょう。
1.平成28年度税制改正の概要
(1) 法人税関連の主な改正内容
- 法人実効税率の引下げ
- 欠損金の利用制限と繰越期間の延長
- 外形標準課税の改正
- 中堅企業への事業税軽減経過措置
- 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設
- 組織再編税制の見直し
- 役員給与等の税制整備
(2) 国際課税関連の主な改正内容
- 移転価格税制の文書化制度
- 国際課税原則の帰属主義への変更に伴う規定の整備
(3) 所得税・資産税関連の主な改正内容
- 空き家にかかる譲渡所得の特別控除特例の創設
- 三世代同居改修工事等の特例の創設
- スイッチOTC薬控除の創設
- 国外転出時の譲渡所得・贈与税の改正
(4) その他の主な改正内容
- 消費税軽減税率制度の導入
- 高額資産を取得した場合の消費税課税制度の見直し
- 外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充
- スキャナ保存制度の拡充
- 加算税制度の見直し
(5) 今後の検討事項
そのほかに税制改正大綱に記載されている今後の検討事項は下記のとおりです。
- 外形標準課税の適用対象法人の拡大
- 地方税分割基準・資本割の課税標準の検討
- 租税特別措置については廃止を含めてゼロベースで見直し
- 中小法人課税の全般にわたり幅広い観点から検討
- 中小法人特例の適用にあたっては資本金以外の基準も検討
- 公益法人等については、課税のあり方について引き続き検討
- 協同組合等については、特に軽減税率のあり方について引き続き検討
2.法人実効税率の引下げ
(1) 税率引下げの概要
日本の実効税率はここ数年で37%→34.62%→32.11%と約5%段階的に引き下げられてきましたが、各国の税率引下げが続いていることもあり依然として諸外国と比べても高い水準にあります。
アベノミクスの成長戦略として、法人税についても成長志向に舵を切り、デフレ脱却、経済再生を確実にするため平成29年度に20%台まで引下げを目指すこととされていましたが、それを一年前倒しし平成28年度に29.97%、平成30年度に29.74%に引き下げられることとなりました。
実効税率の引下げになりますので、税効果会計にも影響を与えることになります。また、従来のような税率の変更が1回にとどまらず複数年度にわたっての税率変更になりますので、税効果計算ロジックがさらに複雑化することになります。
(2) 法人実効税率の段階的引下げ
改正前の法定実効税率(標準税率)32.11%が順次引き下げられます。法人税率の引下げ及び法人事業税所得割を段階的に引き下げることにより実効税率は平成28年度、平成30年度で順次引き下げられ平成28年度の実効税率は29.97%に引き下げられて実効税率は20%台となります。
年度 | H26年度 | H27年度 | H28.29年度 | H30年度以降 |
---|---|---|---|---|
実効税率 | 34.62% | 32.11% | 29.97%※ | 29.74% |
注)実効税率は標準税率を使用した場合の実効税率。
※平成27年度税制改正の段階では31.33%とされていました。
(3) 法人税率の改正
法人税率は23.9%→23.4%(平成28年度)→23.2%(平成30年度)に変更されます。
※地方法人税(基準法人税額の4.4%)について変更はありません。
(4) 中小軽減税率の見直しの見送り
中小法人(資本金1億円以下)や公益法人等・協同組合等の軽減税率の見直しについては引き続き今後の検討課題とされています。
(5) 法人事業税・地方法人特別税率の改正
外形標準課税対象法人への法人事業税の税率が以下の通り改正されます。
法人税及び全都道府県の事業税・地方特別法人税が複数年度にわたり変更されることから大きな事務負担となるのでご留意ください。
(6) 中堅企業に対する経過(軽減)措置
資本金1億円超の普通法人のうち、改正後事業年度の付加価値額が40億円未満の法人については、事業税額が27年度末(注)の計算額を超える場合に超えた部分について3/4(平成28年度)→1/2(平成29年度)→1/4(平成30年度)の割合を乗じた額が控除されます。
(注)平成27年度改正では前年度末とされていました。
3.欠損金の利用制限と繰越期間の延長の見直し
昨年度の税制改正で欠損金の利用制限と繰越期間の延長の見直しが決まっていましたが、平成28年度税制改正では繰越欠損金の控除限度額の段階幅が変更となるとともに、繰越欠損金の控除期限の見直しの適用年度が変更されます。なお、中小法人等については現行の全額控除に変更はありません。
欠損金の控除限度額の減少については、減少段階がさらに細分化されたことから税効果会計への影響について留意すべきでしょう。
(1) 欠損金の利用制限の概要
繰越欠損金の控除限度額が下記の通り段階的に縮小されることとなります。
(2) 欠損金の繰越期間の延長
欠損金の繰越期間は現行の9年から10年に延長されます。
(改正前)平成29年4月1日施行→(改正後)平成30年4月1日施行
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プロフィール
税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員
- 略歴
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ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。 - 著書等
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- 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
- 『令和6年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
- 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
- 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
- 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
- システム・コンサルティング事例
- ホームページURL
- ビジネス・ブレイン税理士事務所
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