法人税の所得計算の基本構造

第3回 公正妥当な会計処理の基準

更新日 2014.11.17

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

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税理士 朝長 英樹

法人税法22条は、所得の金額の計算の通則を定める規定であり、法人税において最も重要な条文です。法人税に携わるに当たっては、この条文を正しく解釈し、所得の金額の計算の基本を理解しておく必要があります。
当コラムでは、この法人税法22条の条文を確認しながら、法人税の所得計算の基本的な構造をわかりやすく解説しています。

1.法人税法22条4項の確認

 法人税法22条(以下、「22条」といいます。)の4項においては、次のとおり、2項の「益金の額」と3項の「損金の額」は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるものとする、と規定しています。

4 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

 この4項は、22条が設けられた昭和40年には存在しておらず、昭和42年に同条に追加されたものです。
 このような追加の改正が行われている場合には、その追加の趣旨・目的と追加されたものの内容を良く確認することが必要となります。

2.4項の追加の趣旨・目的

 昭和42年の4項を追加する改正に関しては、次のように解説されています。

「この課税所得の計算は、税法において完結的に規制するよりも、適切に運用されている企業の会計慣行にゆだねることの方がより適切であると思われる部分が相当多いことも事実であります。事実、法人税においては、このような現実を前提として従来課税所得の計算を行ってきたところであります。
 しかし、最近、ややもすればこのような基本的な考え方がゆがめられる事実が散見されましたので、今回の改正を機に当該事業年度の益金の額に算入すべき収益の額および当該事業年度の損金の額に算入すべき売上原価、費用および損失の額は、企業が継続して適用する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるものである旨を規定することにより、課税所得と企業利益とは、税法上の別段の定めがあるものを除き、原則として一致すべきことを明確にすることとしたのであります。」(『昭和42年度 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)76・77頁)

 この解説によれば、4項は、法人が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って処理をしていたにもかかわらず、その処理が法人税法における益金の額と損金の額の取扱いに抵触するということで、国税当局がその処理を否認するというようなケースが散見されたため、そのような否認を行わせないようにするべく追加された、ということになります。
 このようなケースが具体的にどのようなものであったのかということは明確ではありませんが、上記の解説からすれば、4項の追加は、法人が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って処理をしていた場合には否認が行われないようにするための改正であったことが明確です。

3.4項の内容

 法人が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って処理をしていた場合に、出来るだけ、国税当局がその処理を否認しないようにする、という観点は、実務の安定性等に資するものであって、4項の追加の改正は、大きな意義があった、と考えられます。
 しかし、4項には、次のような大きな疑問点が存在することも、また、事実です。

(1)全ての益金の額及び損金の額に関して定めを設けることについて

 4項の「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額」が益金の額と損金の額の全てを指していることは、文言上、明らかですが、全ての益金の額と損金の額に関して「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算をしなければならないということになると、所得の金額は、常に、企業会計上の利益の額と同額になることとなります。
 しかし、周知のとおり、現実には、そのようなことにはなっていません。
 つまり、4項に規定されていることとその解釈に明らかな不一致が生じているわけです。

 また、上記の解説では、「税法上の別段の定めがあるものを除き、原則として一致すべき」と説明していますが、4項並びに同項を適用した後の2項及び3項の規定は、益金の額及び損金の額のいずれに関しても「別段の定めがあるものを除いて一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算をしなければならない」とは解されません。2項及び3項の「別段の定め」が企業会計上の利益の額又は損失の額を所得の金額に修正するためのものでないことは、第1回において確認したとおりです。
 要するに、明らかに解説と規定とが合っていないわけです。

(2)益金の額及び損金の額の計算に関して定めを設けることについて

 4項は、全ての益金の額と損金の額の「計算」に関する定めともなっていますが、同項に規定されていることは、企業会計と法人税法の「計算」を合わせるべきであるということであって、収益となるのか否か、あるいは、原価等となるのか否かという「判断」を合わせるべきであるということではありません。
 4項はこの「判断」に関しても合わせるべきであるとしたものであるという見解や判決も存在しますが、4項の規定が「計算」のみについて規定していることは、文言上、明らかです。
 換言すれば、国側と納税者側のいずれもこの「判断」を合わせるべきという主張は行い得ない、ということになります。

 また、4項の「計算」に関しては、2項の無償による資産の譲渡において収益を計上させる取扱いとの整合性に関する疑問も存在します。
 周知のとおり、企業会計においては、無償による資産の譲渡の処理は、時価に引き直して処理を行うわけではなく、当事者が行った取引どおり、無償による処理を行うことになります。
 2項において無償による資産の譲渡から収益が生ずると規定した理由は、そのように規定しなければ、企業会計の取扱いに従って無償による処理が行われたままとなり、税制の観点からすると、弊害がある、ということになってしまうためです。
 それにもかかわらず、4項において、2項の収益の額の計算を企業会計の取扱いによると定めたのでは、同項で収益を計上させ、4項でその収益を無かったものにし、結果的には、無償による資産の譲渡は無償による処理を行う、ということにならざるを得ません。
 現実の実務においては、そのような解釈はされていないわけですが、4項の規定は、明らかにそのような解釈をするべき状態となっています。

 また、4項は、「計算されるものとする」という他の法令には無い言い回しが用いられており、この点にもやや疑問が存するところです。
 法令作成の常識からすると、この部分は、「計算するものとする」又は「計算された金額とする」のいずれかとなります。
 この4項の立法者は、「計算するものとする」としたり「計算された金額とする」としたりすると、法人税法における所得の金額の計算が企業会計の基準を用いて行われるかのごとき印象が強く出過ぎる、と感じたのかもしれません。

4.4項のあるべき解釈

 上記のとおり、4項には、大きな意義がある一方で、多くの大きな疑問点があることも、否定できません。
 このような4項の規定をどのように解釈するのかということは、22条の解釈における最も大きな難題です。
 筆者は、結論を述べると、この4項は、他の条項のような一言一句を文理解釈するべき効力規定ではなく、法人が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って処理を行っている場合には、国税当局はその処理をできるだけ尊重してむやみに否認するべきではない、ということを定めた訓示規定である、と考えています。

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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日本税制研究所 代表理事

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