法人税の所得計算の基本構造

第2回 損金の額

更新日 2014.11.04

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹

法人税法22条は、所得の金額の計算の通則を定める規定であり、法人税において最も重要な条文です。法人税に携わるに当たっては、この条文を正しく解釈し、所得の金額の計算の基本を理解しておく必要があります。
当コラムでは、この法人税法22条の条文を確認しながら、法人税の所得計算の基本的な構造をわかりやすく解説しています。

1.法人税法22条3項の「損金の額」

 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算。以下「22条」といいます。)3項において、「損金の額」は、次のように定められています。

3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

  • 一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
  • 二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
  • 三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

 要するに、「損金の額」とは、原価の額、費用の額及び損失の額の三つとされているわけです。

(1)「原価の額」とは

 法人税法には、「原価」の定義は設けられていませんので、「原価」に当たるか否かは、個別に判断する他ありません。
 22条3項1号においては、「収益に係る」という文言を付けて原価を規定していますので、同号の原価は、「収益」と対応関係にあるもののみとなります。22条2項の「収益」と3項の「原価」等が全体として対応する関係にあることは改めて言うまでもありませんので、そのような中で3項1号において「原価」に「収益に係る」という文言を付しているということは、同号の「原価」が「収益」と個別に対応するものに限られる、ということを意味しています。昭和40年の22条の立法者の方々も、1号の「原価」は「収益」に個別対応するものであるという解説を残されています。

 法人税基本通達2-2-1(売上原価等が確定していない場合の見積り)等においては、事後的費用か否かで22条3項1号の「原価」であるのか2号の「費用」であるのかということを区分するという解釈が示されていますが、同項の規定上は、収益と個別対応関係があるのか否かでこれらを区分することとされていると言わざるを得ません。
 この法人税基本通達が採用している事後的費用か否かによる基準は、明確性という点で優れており、実務の処理の基準とすることにも妥当性があると考えますが、仮に、事前の費用ではあるが個別対応関係がないという理由で2号の「費用」とする余地があるものがあった場合には、税務当局が通達による取扱いを主張し、納税者が法令の正しい解釈による取扱いを主張する、ということがあり得ると考えられます。

 また、原価に関しては、「売上原価」「完成工事原価」「その他これらに準ずる原価」とされていますが、「その他これらに準ずる」という文言を用いると、「その他の」という文言を用いる場合とは異なり、前に存在するものと後に存在するものとが並列の関係となりますので、「売上原価」「完成工事原価」とこれらに準ずる原価のみが該当することになります。
 「これらに準ずる」ものの範囲をどのように捉えるのかということにもよりますが、「売上原価、完成工事原価その他の原価の額」と規定して「売上原価」「完成工事原価」を「原価」の例示とすることとされていないことからすると、22条3項1号の「原価」は、規定上、あまり広く捉えられてはいない、と言ってよいように思われます。

 なお、「原価」と捉えられるものの典型例は「製造原価」と言っても良いはずですから、22条3項1号には、「製造原価」も規定しておく方が良かったものと考えます。

(2)「費用の額」とは

 「費用」に関しても、法人税法には、特に定義が設けられてはいません。

 22条3項2号においては、「前号に掲げるもののほか」とされていますので、同号の「費用」は、同項1号の「原価」を含む広い概念で捉えられており、2号の「費用」に含まれる1号の「原価」は優先的に同号の「原価」とされる、ということになります。

 また、「販売費」「一般管理費」を例示として掲げて「その他の費用」と規定している点からしても、1号の「原価」とは異なり、2号の「費用」の範囲は広い、と解されます。
 2号においては、括弧書きで「債務の確定しないものを除く」とされていますので、債務の確定したものだけが同号の「費用」ということになります。この「債務の確定」に関し、法人税基本通達2-2-12(債務の確定の判定)において解釈が示されていることは、周知のとおりです。
 企業会計のように、「収益」と対応させて「費用」を捉えているわけではないという点に注意する必要があります。

 なお、「販売費」「一般管理費」には、支払利息などの営業外費用は含まれませんので、規定上、営業外費用等が2号の「費用」と3号の「損失」のいずれとなるのかということに関しては疑問なしとしない状態になっていることは、否定できません。

(3)「損失の額」とは

 「損失」に関しても、法人税法には、特に定義が設けられているわけではありません。

 従来から、寄附金は22条3項と37条(寄附金の損金不算入)のいずれによって損金となるのかという議論がありますが、寄附金が22条3項3号の「損失」又は2号の「費用」とならないと解釈する理由はありませんので、3号の「損失」又は2号の「費用」となると解するのが適当と考えます。
 ただし、寄附金として損金となるのは「支出」をした金額であるため、「支出」が伴わない無償又は低廉の資産の譲渡などにおいては、本来は、2項の規定のように、損金とすることを規定して時価との差額を損金とした上で、37条の損金不算入の規定を適用する、ということにしなければなりません。

2.「別段の定め」による修正・「資本等取引」の除外

(1)「別段の定め」による修正

 22条3項においては、2項の益金の額と同様に、損金の額に関する「別段の定め」があるものは、その定めに拠ることとされています。

(2)「資本等取引」の除外

 22条3項3号においては、「資本等取引」に係る損失は同号の「損失」とはならない、とされています。
 これに関しても、2項と同様に、そもそも「資本等取引に係る損失の額」というものが存在するのかという疑問がありますが、このような規定の仕方となっていることは、法人税の所得の金額の認識が「入ってくるものは全て益金、出て行くものは全て損金」という考え方を採っていることの論拠ともなり得るものです。

 なお、資本等取引以外の取引においてのみ損失を認識するとしている点は、前回の2項の説明で述べたとおり、法人税法が「法人税」をどのようなものとして捉えているのかということを理解する上で重要となるわけですが、この「資本等取引」に関しては、第4回で説明します。

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税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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