法人税の所得計算の基本構造

第4回(最終回) 資本等取引

更新日 2014.12.01

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹

法人税法22条は、所得の金額の計算の通則を定める規定であり、法人税において最も重要な条文です。法人税に携わるに当たっては、この条文を正しく解釈し、所得の金額の計算の基本を理解しておく必要があります。
当コラムでは、この法人税法22条の条文を確認しながら、法人税の所得計算の基本的な構造をわかりやすく解説しています。

1.法人税法22条5項の確認

 法人税法22条(以下、「22条」といいます。)の5項においては、「資本等取引」について、次のように定義しています。

5 第2項又は第3項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第115条第1項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。

 第1回及び第2回で述べたとおり、資本等取引からは収益も損失も生じないものとされています。
 法人税法において、何故、資本等取引から収益も損失も生じないものとされているのかというと、法人税法においては、「法人」とは、株主から元手を預かって事業を行い、それによって得た利益を株主に分配するもの、と捉えられているためです。法人税法において、「法人」をそのように捉えると、株主と「法人」との間の取引は、事業の元手の遣り取りとその事業で得た利益の内の課税済み留保金額の遣り取りということになり、株主と「法人」との間の取引から所得が発生すると考える余地が無くなります。
 「法人」が金銭を取得するという同じ取引であっても、その取引をどのようなものと位置付けるのかによって、所得が発生すると認識することになったり、所得が発生しないと認識することになったりするわけです。

2.5項の内容

(1)「資本金等の額」とは

 5項の「資本金等の額」とは、法人税法2条16号において「法人(中略)が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額」とされています。
 このように、法人税法において、「資本金等の額」を「法人が株主等から出資を受けた金額」とすることは、「法人」を上記1において述べたように捉えるとすれば、適切な整理ということになります。
 この「資本金等の額」は、法人税法施行令8条(資本金等の額)において、「資本金の額」又は「出資金の額」に、増加項目の金額と減少項目の金額を加減算して求めることとされています。
 なお、平成22年度税制改正により、この法人税法施行令8条の資本金等の額の増加減少項目の中には「法人が株主等から出資を受けた金額」ではないものが複数含まれることとなっており、「資本金等の額」の内容には大きな疑問が存する状態となってしまっていますが、本稿においては、紙幅の都合上、説明を省略します。

(2)「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」とは

 上記(1)の「資本金等の額」を含む「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」とは、株主等から出資を受けた金額である「資本金等の額」を有する法人のその「資本金等の額」を増加させたり減少させたりする取引ということになります。

(3)「法人が行う利益又は剰余金の分配」とは

 5項の「法人が行う利益又は剰余金の分配」には、法人税基本通達1-5-4(資本等取引に該当する利益等の分配)において「法人が剰余金又は利益の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含む」ものとされています。
 この「法人が行う利益又は剰余金の分配」には、株主等に対する会社法上の「剰余金の配当」やみなし配当とされるものも含まれます。

 なお、利益積立金額に関しても、資本金等の額と同様に、平成22年度税制改正により、法人税法施行令9条(利益積立金額)に定められている増加減少項目の中に、法人税法2条18号に定められている「法人(中略)の所得の金額(中略)で留保している金額」ではないものが複数含まれることとなっており、大きな疑問が残る状態となってしまっていますが、本稿においては、説明を省略します。

(4)「残余財産の分配又は引渡し」とは

 5項の「残余財産の分配又は引渡し」は、平成22年度税制改正において追加されたものです。
 「残余財産の分配又は引渡し」がどのようなものかということを確認するために、その仕訳を示してみると、次のとおりとなります。

(借方) 資本金等の額 ×××   (貸方) 資  産 ×××
  利益積立金額 ×××        

 この仕訳から分かるとおり、「残余財産の分配又は引渡し」は、「資本金等の額」の減少及び「利益積立金額」の減少と「資産」の移転ということになります。
 このうち、「資本金等の額」の減少と「利益積立金額」の減少は、上記の「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」と「法人が行う利益又は剰余金の分配」の取引に該当することとなります。
 このように、上記の仕訳の「資本金等の額」の減少と「利益積立金額」の減少が平成22年度税制改正前に既に5項の規定中の「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」と「法人が行う利益又は剰余金の分配」の取引に含まれていたということであれば、同改正で新たに加えられた「残余財産の分配又は引渡し」は、上記の仕訳の中で唯一残ることとなる「資産」の移転を指すということになります。
 そうすると、平成22年度税制改正における5項の改正は、「残余財産の分配又は引渡し」に該当する「資産」の移転から収益も損失も生じさせないこととする改正であった、ということにならざるを得ません。

 しかし、平成22年度税制改正においては、これとは反対に、残余財産の分配又は引渡しによって株主等に交付する資産に関して、その譲渡利益額又は譲渡損失額を益金又は損金とすることが原則となるという理解の下に、法人税法62条の5(現物分配による資産の譲渡)(以下、「62条の5」といいます。)の規定を新設し、その2項において、「残余財産の全部の分配又は引渡しにより被現物分配法人その他の者に移転をする資産の当該移転による譲渡に係る譲渡利益額(中略)又は譲渡損失額(中略)は、その残余財産の確定の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する」という改正も行われています。

 この平成22年度の22条5項の改正と62条の5の改正は、明らかに矛盾しており、二つの改正の整合性を説明することは、困難です。

 それでは、いずれが正しい改正であるのか、ということになりますが、残余財産の分配又は引渡しに際して株主等に移転する資産の譲渡利益額又は譲渡損失額は、それが株主等との間の取引によって生じたものであっても、資産の移転という部分に関しては事業活動における資産の移転と何ら変わるものではなく、益金又は損金に算入するべきものであることからすると、5項に「残余財産の分配又は引渡し」を追加する改正は不要な改正であった、ということにならざるを得ません。
 要するに、5項の「残余財産の分配又は引渡し」は考慮しなくてよい、ということです。

最後に

 資本等取引税制は、法人税制の根幹となる最も重要な制度です。
 しかし、上記(1)から(4)までの説明からも分かるとおり、平成22年度税制改正により、資本等取引税制は、大きく歪んで理論的に説明できない制度になってしまいました。
 筆者としては、このように重要な資本等取引税制をかつてのように理路整然と語ることができる日が一刻も早く訪れることを願っています。

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