2019年7月号Vol.115
【特集2】変わり続ける、税務手続きデジタル化で、行政も納税者ももっと便利に
デジタル化による納税者の利便性向上と、行政の課税事務の効率化へ――今、税務手続きの変化が止まらない。その牽引役として変化の先頭に立つのが、「地方税共同機構」だ。行政も納税者ももっと便利になるために、市区町村が何を考え、どう行動するか、地方税共同機構の加藤隆理事長に聞く。
地方税共同機構 理事長 加藤 隆氏
インタビュアー 本誌編集委員 飛鷹 聡
加藤 隆(かとう・たかし)
1981(昭和56)年、東京都入庁。主税局税制部長、総務部長、交通局理事などを経て、18年4月一般社団法人地方税電子化協議会理事長、19年4月から現職。
──今年4月、地方税共同機構(LTA:Local Tax Agency)が発足しました。その目的や、役割を教えてください。
加藤 地方税共同機構は、地方団体が共同で運営する地方共同法人です。eLTAXや自動車保有関係手続きのワンストップサービス(自動車OSS)の管理運営のほか、地方税に関する教育・研修や調査研究、広報活動などを手掛けています。
──eLTAXも普及してきました。
加藤 ご承知の通り、地方税の電子申告サービスは2005年1月に6府県からスタートしました。その後、09年に個人住民税の年金事業者からの特別徴収が始まり、翌年に全ての地方公共団体がeLTAXに接続しました。また、11年には国税連携システムが稼働し、さらに15年には全団体が償却資産にかかる固定資産税の電子申告に対応を完了──など、eLTAXはこれまでにいくつもの大きな節目を越えてきたといえます。
──そして機構の設立につながるわけですね。
加藤 今年10月からは、いよいよ共通納税システムが稼働します。
eLTAXの開発・運営に関する事業は、これまで一般社団法人地方税電子化協議会が担ってきました。しかし、共通納税システムが稼働すると、公金収納を扱うようになります。このように“社会インフラ”としてeLTAXの重要度が増す中で、事業を運営するのが一般社団法人という組織形態では法的裏付けも不十分という観点から、地方税共同機構が設立されました。
──税務手続きのデジタル化を推進する“牽引役”としての役割が期待されているわけですね。
社会インフラとして
重要度が増す「eLTAX」
──共通納税システムが稼働すると、税務手続きのデジタル化も大きく進展します。
加藤 そうですね。いまや世の中の流れは“紙”をなくし、できるだけ“デジタル”で仕事や取引などを完結させる方向に動いています。地方税の世界も同じで、これからは申告から賦課徴収までデジタル化が基本となっていくでしょう。
この点、これまでの地方税の“電子化”は、どちらかというと申告が中心だったといえます。各団体の努力もあり、電子申告はサービス開始から右肩上がりに利用件数を伸ばしてきましたが、電子納税はサービス提供団体が限られほとんど普及していませんでした。要因として、実現に向けたハードルが高かったことが挙げられます。具体的には、地方団体が単独でマルチペイメントネットワーク(MPN)を導入するとともに、それに伴う基幹システムの改修が必要なこと、また納税者にとっても納付手段が「ネットバンキング」に限られる──などがありました。
──共通納税システムの登場で、そうした状況が変わりますね。
加藤 共通納税システムはeLTAXがMPNに対応するため、個々の団体が導入する必要はありません。一方、納税者にとっては、事前に登録した預貯金口座からの振替で納税できる「ダイレクト納付」が可能となります。公金を扱っている多くの金融機関が利用できるため、納税者の利便性は一段と高まるといえるでしょう。
対象税目は、法人住民税・事業税と事業所税、特別徴収の個人住民税からスタートしますが、いずれ普通徴収を含む全ての地方税へサービスを拡大したいと考えています。また、税以外の公金も対象とすれば市区町村にとってより大きなメリットとなるため、この検討も必要でしょう。
──特に、全国各地に事業所を持つ中堅大企業は「業務の効率化が図れる」と大いに期待しています。
加藤 その相乗効果として、電子申告率もさらに高まるのではないかと考えています。
また、サービス開始当初は納付手段も限られていますが、昨今のキャッシュレス化の動きを踏まえて、将来的にはクレジットや電子マネーへ対応することも視野に入れています。
──もう一つの事業の柱として自動車OSSがあります。今、軽自動車税でもワンストップサービスの検討が進んでいますが、eLTAXも関わることになるのでしょうか。
加藤 自動車を保有するには、多くの手続き(検査登録、保管場所証明申請など)と税・手数料の納付(検査登録手数料、保管場所証明申請手数料、保管場所標章交付手数料、自動車税、自動車取得税、自動車重量税など)が必要です。これらの手続きと税・手数料の納付をオンラインで一括して行えるようにしたのが自動車OSSです。
同様に軽自動車についても、国土交通省と軽自動車検査協会などがワンストップサービスの実現に向けた準備を進めています。
──軽自動車税は市区町村ですね。
加藤 特に軽自動車税の課税徴収業務では、多くの市区町村で担当職員が登録情報や異動情報などを“紙”を見ながらシステムに手入力しているのが実状です。入力の手間がかかるだけでなく、誤入力や異動情報の把握漏れが発生するリスクもあります。
この点、登録情報などを市区町村へデジタルデータで提供する仕組みが整備され、庁内の軽自動車税システムと情報連携できるようになれば、業務の効率化につながります。そうした仕組みのインフラとして、eLTAXが活用される可能性はありますね。
また、自動車税で利用されている納付確認システムのようなものが整備されれば、軽自動車の継続検査の際に提出する納税証明書の発行を不要とすることができます。こうした取り組みが進むことで、市区町村にも納税者などにも大きなメリットがあるでしょう。
デジタル化のゴール達成へ
未来を見据えて考え、行動を
本誌編集委員 飛鷹 聡
──税務手続きのデジタル化ということでは、地方公共団体も電子申告の義務化対象となります。
加藤 平成30年度税制改正で、資本金1億円を超える大法人等に対して電子申告が義務化されました。地方公共団体(一部事務組合、広域連合を含む)も対象となります。
地方団体も業務の効率化だけではなく、電子申告を普及推進する立場から、しっかり対応することが求められるでしょう。
一方、給与支払報告書等の提出基準の引き下げがあり、大部分の地方団体が電子的提出の対象になります。
eLTAXにおいては、これまでインターネット回線でしか提出できなかったわけですが、この秋のeLTAX更改でLGWAN回線を経由して提出することもできるようになります。地方団体が職員等の特別徴収にかかる個人住民税を納入する場合も、自団体分は科目振替がよいでしょうが、他団体分については共通納税システムの利用を進めていただきたいと思います。
──おっしゃる通りですね。今後、税務手続きのデジタル化はさらなる拡大が見込まれます。その中で地方公共団体は何を考え、どう行動すべきとお考えでしょうか。
加藤 共通納税システムの準備作業はほぼ終盤となっています。まずは10月の本稼働に向け、最終テストの実施をお願いします。また、ネット回線の寸断など業務上の新たなリスクも起こりうることから、さまざまなトラブルを想定した対応手順の検討も必要でしょう。さらに、企業など納税者に対して、利用メリットを理解してもらう広報活動にもぜひ取り組んでいただきたいですね。
──われわれも、しっかりサポートしてまいります。
加藤 これまでの行政の情報化を振り返ると、多くが〈紙ベースのオペレーションのコンピュータ化〉であったと感じています。また、業務の見直しも後回しになっていたのではないでしょうか。従来通りの“やり方”に合わせてシステムをカスタマイズし、その結果、運用管理にかかるコストも高止まりしていました。
しかし、もはやそのような時代ではありません。できるだけパッケージシステムに業務を合わせ、コスト削減や業務の効率化・標準化を図っていくべきでしょう。そのためには、並行して様式やシステム間連携の仕様の標準化を推し進めていくことも重要です。また、将来的には納税者と団体の間、国や他団体の間で行われている紙のやりとりを極力なくすこと。これにより社会全体の時間や労力、コストのムダを解消していかなければなりませんね。
そして、最も大事なのは目先のことにとらわれることなく、明確な目的を持って未来を見据え、何をなすべきか考え、準備し、行動することです。
例えば、共通納税システムも〈将来どうなっていくのか〉を見据え、最初から全ての地方税や税以外の公金も扱うことを前提に構想を進めました。地方団体でも、同じように先を考えていくことが大切でしょう。
──基幹システムを提供するベンダーとしても、常に先を見ることに努めたいと考えます。eLTAXは市区町村の税務業務に欠かせない存在であり、それだけに多くの要望が寄せられていると伺いました。
加藤 地方団体のほか日本税理士会連合会など各方面から、機能改善などについてさまざまな意見・要望をいただいています。
そのほとんどは、お金と時間をかければ実現可能なものです。とはいえ、eLTAXの運用経費はすべての地方団体の負担金で賄われており、賦課徴収の現場に改善効果があるものでなければ簡単には手掛けられません。基幹システムなどの改修が伴うような場合はなおさらのことです。
また、eLTAXの改善だけが唯一の解決策ではないこともあります。その一例がサービス時間の延長です。特に繁忙期の時間延長を望む声が多いですね。確かに時間が延長されることで便利になるでしょう。その反面、見方を変えれば超過勤務につながる恐れもあります。そのため、課題の解決には、分散化や効率化など業務を見直すことも大切ですよね。
──まさに、〈何のためのデジタル化なのか〉ということですね。
加藤 デジタル化は目的ではなく手段です。税務手続きのデジタル化のゴールは、できるだけ人手をかけずに処理が完結できる仕組みを実現し、コスト削減を図り、地方団体にも納税者にも便利な世の中を実現することです。機構としても地方団体をはじめ関係者の皆さんと協力しながら、税務業務の効率化と納税者サービス・利便性の一層の向上へ貢献できるよう努めてまいります。
掲載:『新風』2019年7月号