2024.12.03
損害賠償請求控訴事件
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LEX/DB25621082/札幌高等裁判所 令和 6年 9月13日 判決(控訴審)/令和6年(ネ)第8号
ホテルの運営を行う被控訴人(被告)会社において宿泊部部長として勤務していた控訴人(原告)が、アメリカ合衆国ハワイ州で挙行される控訴人の娘の結婚式に出席するため年次有給休暇の時季を指定したが、渡航予定日の前日に被控訴人から新型コロナウイルス感染症に関する状況等を理由に時季変更権の行使を受け、渡航及び結婚式への出席ができなかったことについて、当該時季変更権の行使は、時季変更事由である被控訴人の「事業の正常な運営を妨げる場合」(労働基準法39条5項ただし書)に当たらないから違法であり、違法な時季変更権の行使により精神的苦痛を被ったなどと主張して、被控訴人に対し、労働契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金等の支払を求め、原審が控訴人の請求を棄却したことから、控訴人が控訴した事案で、不可避に伴う海外渡航によって控訴人自身が新型コロナウイルスに感染する危険性が高まることなどは、被控訴人の事業運営を妨げる客観的事情であると認められるから、本件期間に有給休暇を与えることは被控訴人の「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するといわざるを得ない一方、休暇開始日の前日に至って本件時季変更権を行使したことは、合理的期間を経過した後にされたものであって権利の濫用というほかなく、違法とすべきであるところ、結婚式に参加することができなかったことによる精神的苦痛を上記不法行為と相当因果関係のある損害ということはできず、控訴人の請求は、本件期間開始の前日に本件時季変更権が行使されたことによって休暇取得に対する期待を侵害されたことによる精神的苦痛の限度で相当因果関係が認められ、本件控訴は前記の限度で理由があるとして、原判決を変更した事例。
2024.11.26
地位確認等請求事件
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LEX/DB25573841/最高裁判所第一小法廷 令和 6年10月31日 判決(上告審)/令和5年(受)第906号
上告人(被控訴人・被告)との間で期間の定めのある労働契約を締結し、上告人の設置する大学の教員として勤務していた被上告人(控訴人・原告)が、労働契約法18条1項の規定により、上告人との間で期間の定めのない労働契約が締結されたなどと主張して、上告人に対し、労働契約上の地位の確認及び賃金等の支払を求め、第一審が被上告人の請求を棄却したため、被上告人が控訴し、控訴審(原審)が、本件労働契約は大学の教員等の任期に関する法律7条1項所定の労働契約には当たらないとしたうえで、労働契約法18条1項の規定により、被上告人と上告人との間で無期労働契約が締結されたとして、被上告人の地位確認請求を認容し、賃金等の支払請求の一部を認容したことから、上告人が上告した事案で、任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職の意義について、殊更厳格に解するのは相当でないというべきであり、本件事実関係によれば、上記の授業等を担当する教員が就く本件講師職は、多様な知識又は経験を有する人材を確保することが特に求められる教育研究組織の職であるというべきであるから、本件講師職は、任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職に当たると解するのが相当であって、以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れないとして、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、前項の部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻した事例。
2024.09.24
地位確認等請求事件(AGCグリーンテック事件)
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LEX/DB25620058/東京地方裁判所 令和 6年 5月13日 判決 (第一審)/令和2年(ワ)第20432号
被告の女性従業員である原告が、被告に対して、(1)被告が総合職に対してのみ社宅制度の利用を認めているのが、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律6条2号、同法7条及び民法90条に違反すると主張して、〔1〕原告が社宅管理規程に基づき月額負担を求める権利を有する地位にあることの確認、〔2〕社宅制度の男女差別に係る不法行為に基づく損害賠償、〔3〕社宅制度に基づく賃料負担義務の不履行を理由とする損害賠償を求め、(2)男性の一般職と原告との間にある賃金格差が労働基準法4条に違反すると主張して、〔4〕原告が基本給月額の支給を受ける権利を有する地位にあることの確認、〔5〕労働契約による賃金請求権に基づき、各賃金の差額の支払〔6〕上記〔5〕に対応する弁護士費用等の支払を求め、(3)社宅制度の男女差別及び男女賃金差別が違法であると主張して、〔7〕不法行為ないし債務不履行に基づく慰謝料等の支払を求め、(4)被告による違法な業務外しをされたと主張して、〔8〕不法行為に基づく損害賠償を求め、(5)被告による違法な査定により低い人事考課をされたと主張して、〔9〕不法行為に基づく損害賠償を求め、(6)上記(1)〔3〕が認容されない場合に備え、〔10〕社宅制度の男女差別による不法行為に基づく損害賠償を、上記(2)〔5〕及び〔6〕が認容されない場合に、〔11〕男性一般職との男女賃金差別による不法行為に基づく損害賠償を予備的に求めた事案で、社宅制度という福利厚生の措置の適用を受ける男性及び女性の比率という観点からは、男性の割合が圧倒的に高く、女性の割合が極めて低いこと、措置の具体的な内容として、社宅制度を利用し得る従業員と利用し得ない従業員との間で、享受する経済的恩恵の格差はかなり大きいことが認められる。他方で、転勤の事実やその現実的可能性の有無を問わず社宅制度の適用を認めている運用等に照らすと、営業職のキャリアシステム上の必要性や有用性、営業職の採用競争における優位性の確保という観点から、社宅制度の利用を総合職に限定する必要性や合理性を根拠づけることは困難であることからすると、被告が社宅管理規程に基づき、社宅制度の利用を、住居の移転を伴う配置転換に応じることができる従業員、すなわち総合職に限って認め、一般職に対して認めていないことにより、事実上男性従業員のみに適用される福利厚生の措置として社宅制度の運用を続け、女性従業員に相当程度の不利益を与えていることについて、合理的理由は認められず、被告が上記のような社宅制度の運用を続けていることは、雇用分野における男女の均等な待遇を確保するという均等法の趣旨に照らし、間接差別に該当するというべきであるなどとして、原告の請求を一部認容した事例。
2024.09.17
首都圏建設アスベスト損害賠償神奈川訴訟(第2陣)請求控訴事件
LEX/DB25620211/東京高等裁判所 令和 6年 5月29日 判決 (差戻控訴審)/令和4年(ネ)第3245号
原告ら(控訴人ら)は、築炉工としての作業等(炉の設置等)に従事し、石綿粉じんにばく露したことにより石綿肺にり患して死亡したと主張する故人(承継前の原告)の承継人として、石綿含有建材の製造販売をしていた建材メーカーである被告ら(被控訴人ら)に対し、被告らが石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺を含む石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示すべき義務(警告義務)を負っていたにもかかわらず、これを履行しなかったことにより、築炉工として石綿含有建材を使用する建設作業に従事した故人が石綿肺にり患して死亡したと主張し、民法719条1項後段の類推適用に基づく損害賠償として、損害金等の連帯支払を求めた事案で、差戻前の訴訟経過において原告の請求が認容されたが、上告審では、石綿含有建材を製造販売するに当たり、当該建材が使用される建物の解体作業従事者に対し警告義務を負っていたということはできないとして、差戻し前の控訴審判決中の被告ら敗訴部分を破棄し、故人が石綿含有建材を使用する建設作業に従事していた時期があることから、損害の額等について更に審理を尽くさせる必要があるとして、本件を東京高等裁判所に差戻し、当審での審理判断の対象は、民法719条1項後段の類推適用に基づく各損害賠償請求権の存否及びその額(差戻し前の控訴審が認容した範囲に限る)であり、主として、故人が築炉工としての作業(炉の設置等)に従事した際、被告らが製造販売した石綿含有建材の石綿粉じんにばく露したと認められるか、これにより故人が石綿肺にり患して死亡したとされる場合の被告らの損害賠償責任の範囲等が争点であったところ、故人が築炉工としての作業に従事した現場に被告らの製造販売に係る保温材が相当回数にわたり到達した事実を認めることはできないから、原告らの被告らに対する民法719条1項後段の類推適用に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がないとして、請求を棄却した事例。
2024.08.20
退職慰労金等請求事件
LEX/DB25573635/最高裁判所第一小法廷 令和 6年 7月 8日 判決 (上告審)/令和4年(受)第1780号
上告人(第一審被告、控訴審控訴人)会社の代表取締役社長を退任した被上告人(第一審原告、控訴審被控訴人)が、上告人会社の株主総会において上告人会社の取締役退任慰労金内規に基づいて取締役会が決議した退任慰労金を被上告人に支払うことを委任する旨決議されたのに、上告人会社の代表取締役である上告人Bが故意又は過失によってこの委任の範囲又は本件内規の解釈・適用を誤ったため、上告人会社の取締役会においてこの委任の範囲を超える減額を行う旨の決議がされ、弁護士に委任して訴訟を提起することを余儀なくされたと主張して、上告人らに対し、〔1〕会社法361条1項に基づく退任慰労金請求等及び〔2〕会社法350条又は不法行為に基づく損害賠償請求等の支払を求め、第一審が請求を一部認容したところ、上告人らが控訴し、控訴審が、本件取締役会決議は、本件株主総会決議の委任の範囲を誤り、与えられた裁量を逸脱ないし濫用したものであるとして、控訴を棄却したことから、上告人らが上告した事案で、本件行為1及び本件行為2を上告人会社に多大な損害を及ぼす性質のものと評価することは相応の合理的根拠に基づくものといえ、本件行為3が上告人会社に損害を与えるものであったか否かにかかわらず、被上告人が本件減額規定にいう「在任中特に重大な損害を与えたもの」に当たるとして減額をし、その結果として被上告人の退職慰労金の額を5700万円とした取締役会の判断が株主総会の委任の趣旨に照らして不合理であるということはできず、本件取締役会決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできないとして、原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、被上告人の請求をいずれも棄却した事例。
2024.07.30
懲戒処分等取消請求事件
LEX/DB25573610/最高裁判所第一小法廷 令和 6年 6月27日 判決 (上告審)/令和4年(行ヒ)第319号
上告人(第一審被告、控訴審控訴人)・大津市の職員であった被上告人(第一審原告、控訴審被控訴人)が、在職中、自動車の飲酒運転をし、物損事故を起こしたことを理由として懲戒免職処分及び退職手当の不支給を内容とする退職手当支給制限処分を受けたところ、本件各処分は、裁量権を逸脱ないし濫用してされた違法なものであるとして、上告人に対し、本件各処分の取消しを求め、第一審が、本件不支給処分は、本件退職手当条例の考慮要素の適切な考慮がされないままされたものとして、上告人の判断には、裁量権の逸脱ないし濫用があったと認めるのが相当であるとして、上告人市長の被上告人に対する退職手当支給制限処分を取り消し、被上告人のその余の請求を棄却した事案の上告審において、本件非違行為は、職務上行われたものではないとしても、上告人の公務の遂行に相応の支障を及ぼすとともに、上告人の公務に対する住民の信頼を大きく損なうものであることが明らかであるとしたうえで、本件各事故につき被害弁償が行われていることや、被上告人が27年余りにわたり懲戒処分歴なく勤続し、上告人の施策に貢献してきたこと等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る市長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできないから、本件全部支給制限処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、退職手当支給制限処分に係る退職手当管理機関の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであるとして、原判決中、上告人敗訴部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消すとともに、当該部分に関する被上告人の請求を棄却した事例(反対意見あり)。
2024.05.21
損害賠償等請求事件
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LEX/DB25573488/最高裁判所第二小法廷 令和 6年 4月26日 判決 (上告審)/令和5年(受)第604号
被上告人に雇用されていた上告人が、被上告人から、職種及び業務内容の変更を伴う配置転換命令を受けたため、同命令は上告人と被上告人との間でされた上告人の職種等を限定する旨の合意に反するなどとして、被上告人に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求等をしたところ、原審は本件損害賠償請求を棄却したため、上告人が上告した事案において、上告人と被上告人との間には、上告人の職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、被上告人は、上告人に対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったとし、被上告人が上告人に対してその同意を得ることなくした本件配転命令につき、被上告人が本件配転命令をする権限を有していたことを前提として、その濫用に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決中、不服申立ての範囲である本判決主文第1項記載の部分(本件損害賠償請求に係る部分)を破棄し、本件配転命令について不法行為を構成すると認めるに足りる事情の有無や、被上告人が上告人の配置転換に関し上告人に対して負う雇用契約上の債務の内容及びその不履行の有無等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した事例。
2024.05.07
損害賠償等請求本訴、損害賠償請求反訴事件
LEX/DB25573468/最高裁判所第三小法廷 令和 6年 4月16日 判決 (上告審)/令和5年(受)第365号
本訴請求は、上告人(外国人の技能実習に係る監理団体)に雇用されていた被上告人(監理団体の指導員)が、上告人に対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金の支払を求め、上告人は、被上告人が事業場外で従事した業務の一部(本件業務)については、労働基準法38条の2第1項(本件規定)にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるため、被上告人は所定労働時間労働したものとみなされるなどと主張し、これを争っている事案の上告審において、原審は、業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して、本件業務につき本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとしたものであり、このような原審の判断には、本件規定の解釈適用を誤った違法があるとし、原判決中、本件本訴請求に関する上告人敗訴部分は破棄し、本件業務につき本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるといえるか否か等に関し更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととした事例(補足意見がある)。
2024.03.26
損害賠償請求控訴事件
LEX/DB25596756/札幌高等裁判所 令和 5年12月26日 判決 (控訴審)/令和5年(ネ)第216号
賃貸物件の管理業務等を業とする控訴人(原告)会社が、元従業員である被控訴人(被告)に対し、退職後の競業禁止を合意していたところ、退職直後に競業会社に就職し、退職前後に顧客に虚偽の事実を述べるなどして、当該顧客と控訴人の管理委託契約を解約させ、競業会社との間で同契約を締結させたとし、競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求め、原審が控訴人の請求をいずれも棄却したことから、控訴人が控訴した事案で、被控訴人は控訴人に対し、本件合意のうち、控訴人が本店を置く市内において、退職後6か月の間、競業会社に就職して控訴人在職時に担当していた顧客に対して営業活動を行わないとの範囲で競業避止義務を負っていたと認められるところ、被控訴人にはそれに違反する行為があったといえるから、控訴人の請求は、被控訴人の競業避止義務違反による債務不履行と相当因果関係のある損害賠償を求める限度で認容すべきであるとして、原判決を変更した事例。
2023.08.01
地位確認等請求事件
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LEX/DB25572945/最高裁判所第一小法廷 令和 5年 7月20日 判決 (上告審)/令和4年(受)第1293号
上告人(一審被告。自動車学校)を定年退職した後に、上告人と有期労働契約を締結して勤務していた被上告人(一審原告)らが、上告人と無期労働契約を締結している労働者との間における基本給、賞与等の相違は労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条に違反するものであったと主張して、上告人に対し、不法行為等に基づき、上記相違に係る差額について損害賠償等を求め、原判決は、被上告人らの基本給及び賞与に係る損害賠償請求を一部認容すべきものとしたため、上告人が上告した事案において、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法があるなどとして、原判決中、被上告人らの基本給及び賞与に係る損害賠償請求に関する上告人敗訴部分は破棄し、被上告人らが主張する基本給及び賞与に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととし、上告人のその余の上告については却下した事例。
2023.07.25
行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件
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LEX/DB25572932/最高裁判所第三小法廷 令和 5年 7月11日 判決 (上告審)/令和3年(行ヒ)第285号
一般職の国家公務員であり、性同一性障害である旨の医師の診断を受けている上告人(一審原告)が、国家公務員法86条の規定により、人事院に対し、職場のトイレの使用等に係る行政措置の要求をしたところ、いずれの要求も認められない旨の判定を受けたことから、被上告人(一審被告。国)を相手に、本件判定の取消し等を求め、第1審判決は、上告人の請求を一部認容したが、原判決は、本件判定部分の取消請求を棄却したため、上告人が上告した事案で、本件判定部分に係る人事院の判断は、本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、上告人の不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平並びに上告人を含む職員の能率の発揮及び増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ないとし、本件判定部分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとして、原判決中、人事院がした判定のうちトイレの使用に係る部分の取消請求に関する部分を破棄し、同部分につき被上告人の控訴を棄却した事例(補足意見がある)。
2023.07.11
懲戒免職処分取消、退職手当支給制限処分取消請求事件
LEX/DB25572914/最高裁判所第三小法廷 令和 5年 6月27日 判決 (上告審)/令和4年(行ヒ)第274号
上告人(一審被告。宮城県)の公立学校教員であった被上告人(一審原告)が、酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、職員の退職手当に関する条例12条1項1号の規定により、退職手当管理機関である宮城県教育委員会から、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分を受けたため、上告人を相手に、上記各処分の取消しを求め、原審は、本件懲戒免職処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとした上で、本件全部支給制限処分の取消請求を一部認容したため、上告人が上告した事案において、本件全部支給制限処分に係る県教委の判断は、被上告人が管理職ではなく、本件懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間にわたって誠実に勤務してきており、反省の情を示していること等を勘案しても、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえないとし、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、本件全部支給制限処分にその他の違法事由も見当たらず、その取消請求は理由がなく、上告人の控訴に基づき、第1審判決中、上告人敗訴部分を取消し、同部分につき被上告人の請求を棄却する内容で、原判決を変更した事例(反対意見がある)。
2023.05.02
各威力業務妨害、強要未遂被告事件
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LEX/DB25594774/大阪高等裁判所 令和 5年 3月 6日 判決 (控訴審)/令和4年(う)第469号
被告人P1はA支部の書記次長、被告人P2及び被告人P4はいずれも執行委員、P5は組合員であるが、被告人3名及びP5は、他のA支部組合員らと共謀の上、大阪市α区所在のA支部事務所周辺に和歌山県内から元暴力団員らが来ていたことから、B協の実質的運営者であるP6を脅迫するなどして、P6が元暴力団員らを差し向けたなどと認めさせて謝罪させようと考え、B協の業務を妨害することをいとわず、和歌山県海南市所在のB協事務所前において、P6らに対し、本件各発言を言うとともに、他の組合員らが、B協事務所周辺に集結し、P6を誹謗中傷する演説を大音量で繰り返し、元暴力団員をA支部事務所に差し向けた旨認めて謝罪するよう要求して、P6らにその対応を余儀なくさせて約4時間30分間にわたりB協の業務の遂行を不能にするとともに(威力業務妨害)、前記要求に応じなければP6の身体、自由、名誉等に対し危害を加える旨告知してP6を脅迫し、P6に義務のないことを行わせようとしたが、P6がこれに応じなかったためその目的を遂げなかった(強要未遂)として起訴され、原判決は、被告人らに威力業務妨害罪及び強要未遂罪が成立するとして、被告人P1を懲役1年4月・執行猶予3年に、被告人P2を懲役10月・執行猶予3年に、被告人P4を懲役1年・執行猶予3年にそれぞれ処したため、これに不服の被告人3名が控訴した事案で、被告人らの行為の強要未遂罪及び威力業務妨害罪の各構成要件該当性の判断、さらには、正当行為に当たるか否かという判断において、原判決は、事実の認定やその評価を誤ったものであり、各構成要件の該当性に疑問が残るとともに、被告人らの行為が労働組合法1条2項、刑法35条の正当行為となることも否定できない以上、上記事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるとして、原判決を破棄し、被告人らの行為は、正当行為として罪とならないから、刑事訴訟法336条により被告人らに対し無罪の言渡しをした事例。
2023.04.04
未払賃金等請求事件
LEX/DB25572682/最高裁判所第二小法廷 令和 5年 3月10日 判決 (上告審)/令和4年(受)第1019号
被上告人に雇用され、トラック運転手として勤務していた上告人が、被上告人に対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金並びに付加金等の支払を求めたところ、原審は、上告人の各請求を棄却したため、上告人が上告した事案で、被上告人の上告人に対する本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとし、原判決中、不服申立ての範囲である本判決主文第1項記載の部分を破棄し、上告人に支払われるべき賃金の額、付加金の支払を命ずることの当否及びその額等について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻した事例(補足意見がある)。
2022.11.01
労働委員会命令取消請求事件(セブン-イレブン・ジャパン事件)
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LEX/DB25593425/東京地方裁判所 令和 4年 6月 6日 判決 (第一審)/令和1年(行ウ)第460号
コンビニエンスストア加盟店で組織する労働組合である原告が、全国においてコンビニエンスストアのフランチャイズ・チェーンを運営している参加人が原告による団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるとして、これに対する救済を申し立て、岡山県労働委員会が救済命令(本件初審命令)を発したところ、参加人がこれを不服として再審査を申し立て、中央労働委員会が初審命令を取り消したうえ、救済申立てを棄却する命令を発したことについて、原告が、本件命令の取消しを求めた事案で、参加人と本件フランチャイズ契約を締結する加盟者は、参加人との交渉上の対等性を確保するために労働組合法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められるかという観点からみて、同法上の労働者に当たるとは認められないところ、本件各団交拒否は同法7条2号所定の不当労働行為に当たるとはいえず、本件命令は適法であるとして、原告の請求を棄却した事例。
2022.09.27
分限免職処分取消請求事件
LEX/DB25572318/最高裁判所第三小法廷 令和 4年 9月13日 判決 (上告審)/令和4年(行ヒ)第7号
普通地方公共団体である上告人(被告・控訴人)の消防職員であった被上告人(原告・被控訴人)が、任命権者である長門市消防長から、地方公務員法28条1項3号等の規定に該当するとして分限免職処分を受けたのを不服として、上告人を相手に、その取消しを求め、第一審は、本件処分を取消し、控訴審も第一審を維持したため、上告人が上告した事案で、免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても、被上告人に対し分限免職処分をした消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできないとし、本件処分が違法であるとした原審の判断には、分限処分に係る任命権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるとし、原判決を破棄し、事実関係等の下においては、本件処分にその他の違法事由も見当たらず、被上告人の請求は理由がないから、第1審判決を取消し、同請求を棄却した事例。
2022.06.21
懲戒処分取消等請求事件
LEX/DB25572187/最高裁判所第三小法廷 令和 4年 6月14日 判決 (上告審)/令和3年(行ヒ)第164号
上告人(被控訴人・被告。氷見市)の消防職員であった被上告人(控訴人・原告)は、任命権者であった氷見市消防長から、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分(第1処分)を受け、さらに、その停職期間中に正当な理由なく上記暴行の被害者である部下に対して面会を求めたこと等を理由とする停職6月の懲戒処分(第2処分)を受けことにより、被上告人が、上告人を相手に、第1処分及び第2処分の各取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めたところ、原判決は、第1処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとする一方、第2処分の取消請求を認容し、損害賠償請求の一部を認容したため、上告人が上告した事案で、停職6月という第2処分の量定をした消防長の判断は、懲戒の種類についてはもとより、停職期間の長さについても社会観念上著しく妥当を欠くものであるとはいえず、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできないとし、原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるとし、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第2処分に関するその他の違法事由の有無等について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻すこととした事例。
2022.06.14
損害賠償請求事件
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LEX/DB25572164/最高裁判所第二小法廷 令和 4年 6月 3日 判決 (上告審)/令和3年(受)第1125号 等
建物の解体作業等に従事した後に石綿肺、肺がん等の石綿(アスベスト)関連疾患にり患した者又はその承継人である被上告人らが、建材メーカーである上告人らに対し、当該疾患へのり患は、上告人らが、石綿含有建材を製造販売するに当たり、当該建材が使用される建物の解体作業等に従事する者に対し、当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等(本件警告情報)を表示すべき義務を負っていたにもかかわらず、その義務を履行しなかったことによるものであるなどと主張して、不法行為等に基づく損害賠償を求め、原判決は、被上告人らの不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容したため、上告人らが上告した事案において、上告人らが、石綿含有建材を製造販売するに当たり、当該建材が使用される建物の解体作業従事者に対し、本件警告情報を表示すべき義務を負っていたということはできないとして、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとし、原判決中、被上告人らの請求に関する上告人ら敗訴部分は破棄し、上記破棄部分のうち、被上告人X1の請求に関する部分については、原審の確定した事実関係によれば、同被上告人が石綿含有建材を使用する建設作業に従事していた時期があることから、損害の額等について更に審理を尽くさせる必要があるので、本件を原審に差し戻すこととし、また、その余の被上告人らの請求は、第1審判決は結論において正当であり、上記破棄部分のうち、同被上告人らの請求に関する部分につき、同被上告人らの控訴を棄却し、同被上告人らの原審で拡張した請求を棄却した事例。
2022.03.29
山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件
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LEX/DB25572036/最高裁判所第二小法廷 令和 4年 3月18日 判決 (上告審)/令和3年(行ヒ)第171号
労働組合である上告補助参加人から、使用者である被上告人の団体交渉における対応が労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する旨の申立てを受けた処分行政庁が、上告補助参加人の請求に係る救済の一部を認容し、その余の申立てを棄却する旨の命令を発したところ、被上告人が、上告人を相手に、本件命令のうち上記の認容部分の取消しを求め、第1審判決は、処分行政庁による本件命令は、その命令の内容において、処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱したものとして、被上告人の請求を認容し、原判決もこれを維持したため、上告人が上告した事案で、本件認容部分は、被上告人が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をしたとして、被上告人に対して本件各交渉事項につき誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずる誠実交渉命令であるところ、原審は、本件各交渉事項について、被上告人と上告補助参加人とが改めて団体交渉をしても一定の内容の合意を成立させることは事実上不可能であったと認められることのみを理由として、本件認容部分が処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であると判断したものであり、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決を破棄し、本件各交渉事項に係る団体交渉における被上告人の対応が誠実交渉義務に違反するものとして不当労働行為に該当するか否か等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した事例。
2021.11.30
障害補償給付不支給決定等取消請求控訴事件
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LEX/DB25590917/札幌高等裁判所 令和 3年 9月17日 判決 (控訴審)/令和2年(行コ)第10号
回転寿司店の事業所に勤務していた控訴人が、本件事業所内のトイレに散布された殺菌剤の原液を拭き取る業務に従事した際、当該業務に起因して化学物質過敏症を発症したとして、労働者災害補償保険法による障害補償給付の請求をしたところ、処分行政庁から、〔1〕これを支給しない旨の処分、〔2〕療養補償給付の支給決定を取り消す旨の変更決定処分、及び〔3〕同日付けで休業補償給付の支給決定を取り消す旨の変更決定処分を受けたため、本件各処分の取消しを求めたところ、原審が控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した事案で、控訴人の化学物質過敏症は、本件拭き取り作業に起因したものと認められるから、これは、労基則別表第1の2第4号9ないし第11号に該当する業務上の疾病ということができ、控訴人の化学物質過敏症の発症及びこれと本件拭き取り作業との相当因果関係を否定したうえでされた本件各処分は違法であるとして、原判決を取り消し、本件各処分をいずれも取り消した事例。