更新日 2025.07.22
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 伊藤 明弘
組織再編税制の実務は、頻繁にあるものではありません。いざ税務の手続きや申告を行おうとすると一とおり勉強したつもりでも手が止まってしまうことがあります。
本コラムでは、毎年、コンスタントに十数件の組織再編のスキーム立案や申告といった実務に携わってきた筆者が過去に手が止まってしまった項目を中心に解説いたします。
当コラムのポイント
- 組織再編税制の申告実務
- 組織再編により移転する固定資産の処理
- 親子会社合併の税務処理
- 目次
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組織再編は、M&Aやグループ内での経営資源の最適化等の局面で広く用いられています。一方で、会社単位で見たときには、頻繁にあることでなく、法人税等の取り扱いについて一通り勉強をしたつもりでもいざ手を動かそうとすると手が止まってしまうことがあります。このコラムでは、組織再編のうち手が止まりがちな論点をピックアップして解説いたします。
第2回目は、法人の一部の事業や資産負債を移転する法人(分割法人、現物出資法人、現物分配法人。以下、分割法人等)の取扱いについて解説いたします。
1.原則と期中損金経理額等
法人の一部の事業や資産負債を移転する適格組織再編である適格分割、適格現物出資、適格現物分配(以下、適格分割等)では、合併とは異なり組織再編の直前で事業年度を区切ることがないため、減価償却などの損金経理が要件になっている規定を適用して分割承継法人等(分割承継法人、被現物出資法人、被現物分配法人。以下同じ)に資産負債を引継ぐことができません。つまり、このような減価償却資産等は適格分割等を行った日の前事業年度末の帳簿価額により分割承継法人等に引継ぐことになっています。
この特例として期中損金経理に関する特例が設けられています。期中損金経理額の特例では、適格分割等の日以後2月以内に届出をすることで事業年度の途中でも損金経理をしたとみなして損金経理が要件になっている規定を適用することができます。また、分割承継法人等は、これらの規定を適用した後の資産負債の帳簿価額により引継ぎます。
2.期中減価償却費
(1) 制度の解説
分割法人等における減価償却資産に係る期中減価償却費の計算は、分割等を行った事業年度開始の日から分割等の日の前日までの期間(以下、分割等の日の前日までの期間といいます。)を1事業年度とみなして減価償却費の計算を行います。そのため、年間の償却限度額を月割りして、該当期間の減価償却費を計算するのではなく、事業年度が1年に満たない場合の償却率を使って減価償却費の計算を行います。
(2) 実務上の取扱い
実務上は、上記のような償却率の見直しを行って償却額を計算するのではなく、年間の償却限度額を分割等の日の前日までの期間の月割りにより計算するケースが少なくありません。旧定額法・定額法・定率法のケースでは、償却率を見直す場合の月割後の端数処理は、小数点以下3位未満切上であるため、年間償却額を月割りする際に何も端数処理をしなければ、償却不足になります。また、定率法についても償却率の見直しを行うと償却限度額が大きくなり、こちらも償却不足になります。これらのことから、年間償却額を月割りにより計算をしても許容されると考えられます。
3.一括償却資産の引継ぎ
一括償却資産は、適格分割等を行った場合には、たとえ会計処理や一括償却資産の実物を分割承継法人等に移転したとしても、原則として引継ぐことができません。
ただし、特例が設けられており、以下のケースで届出をすることにより、一括償却資産を引継ぐことができます。
- (1) 「適格分割等による期中損経理額等の損金算入に関する届出書」を提出
- (2) 以下の3つの要件を満たしているケース
- ① 該当の一括償却資産が適格分割等により分割承継法人等に移転する事業の用の供するために取得した減価償却資産であるまたは移転する資産に係るものであること。
- ② ①の要件を満たすことを明らかにする書類を保存していること。
- ③ 分割法人等が適格分割等の日以後2ヶ月以内に「適格分割等による一括償却資産の引継ぎに関する届出書」を提出していること。
4.リース資産の期中損金経理と引継ぎ
リース資産について、賃貸借処理を行っている場合であっても1.の適用があります。従って、賃貸借処理を行っているリース資産について期中損金経理額に関する届出書を提出していない場合には、分割法人等の適格分割等を行った事業年度において、リース料(減価償却費)を否認したうえで、分割承継法人等に引継ぎを行う必要があります。
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プロフィール
税理士 伊藤 明弘(いとう あきひろ)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
- 略歴
- 税理士法人髙野総合会計事務所パートナー
大学卒業後、都内の会計事務所を経て、税理士法人髙野総合会計事務所に入所。
税務部門に所属し、上場企業や上場企業の関係会社、中規模の非上場企業に対する通常の税務業務のほか税務ガバナンス構築、組織再編、グループ通算導入、企業再生、事業承継、国際税務、移転価格などの税務コンサルティング業務に従事。 - 著書等
- 『二訂版 繰越欠損金と含み損の引継ぎを巡る法人税実務Q&A』(共著)(2015年 税務研究会出版局)
『第4版 ケース別 会社解散・清算の税務と会計』(共著)(2020年 税務研究会出版局) - 寄稿・記事
- 『週刊税務通信』2022年10月17日 3724号 インボイス下の消費税関係届出書等の留意点
『週刊税務通信』2018年01月22日 3491号 DESによる相続税対策事例の検討(東京地裁平成28年5月30日判決)~税理士賠償責任保険の対象足りうるか~ など。 - ホームページURL
- 税理士法人 髙野総合会計事務所
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