新リース会計基準のポイント解説2

第3回 減損会計の実務への影響

更新日 2025.04.17

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公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ会計システム普及部会会員

公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇

2024年9月13日に公表された企業会計基準第35号「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正により、リースに関する事項が改正されました。新リース会計基準では、原則として借手のすべてのリースについて使用権資産を計上し、適用初年度から減損会計基準を適用することが求められます。また、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の整理および事務所等の賃貸借契約に係る減損損失の検討について考察します。

当コラムのポイント

  • 新リース会計基準の適用初年度の期首時点において、使用権資産に減損会計基準が適用
  • ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の整理
  • 事務所等の賃貸借契約に係る使用権資産に対する減損損失の検討
目次

前回の記事 : 第2回 開示・表示の解説

1.総論

 新リース会計基準(企業会計基準34号「リースに関する会計基準」、以下34号)の適用にあたり、2024年9月13日付けで、企業会計基準第35号「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正(以下35号)が公表され、「固定資産の減損に係る会計基準」(以下減損会計基準)及び「固定資産の減損に係る会計基準注解」のうちリースに関する事項が改正されました。なお、減損会計基準の適用時期は、新リース会計基準(リース会計基準34号)と同様とされています。
 改正された減損会計基準によれば、新リース会計基準の適用においては、これまでオペレーティング・リース取引として資産を計上していなかったリースも含め、リースに該当する場合、原則として借手のすべてのリースについて使用権資産を計上することとなっており、適用初年度の期首時点(2027年4月1日)の使用権資産に「減損会計基準」が適用されます。
 なお、減損会計基準の適用においても、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとなりますが、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することも可能です。

2.ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の整理(少額リースや短期リースは除く)

<企業会計基準第13号を適用した際の経過措置>

 現行基準13号のファイナンス・リース取引に分類していたリースについて、新リース会計基準の適用初年度において、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとなりますが、リース適用指針33号118項ただし書きの方法(累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減算する方法)を選択する場合は、適用初年度の前事業年度の期末日におけるリース資産及びリース負債の帳簿価額をそれぞれ適用初年度の期首における使用権資産及びリース負債の帳簿価額とすることができます。減損会計基準は、適用初年度の期首時点における使用権資産の帳簿価額に対して適用することとなります。
 また、現行基準13号のオペレーティング・リース取引に分類していたリースについて、新リース会計基準の適用初年度において、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとなりますが、リース適用指針33号118項ただし書きの方法(累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減算する方法)を選択する場合は、主に次のような会計処理となります。

  • (1) 適用初年度期首における残存リース期間のリース料で割引計算を行い、リース負債を算定することにより同額を使用権資産として計上する場合
  • (2) 借手のリース期間のリース料で割引計算を行い、そこから過年度の減価償却費等を控除することにより使用権資産を計上する場合

 いずれにしても、減損会計基準は、適用初年度の期首時点における使用権資産の帳簿価額に対して適用することとなります。

※<企業会計基準第13号の適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・リース取引の取扱い>
 リース取引開始日が13号の適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・リース取引の取扱いにより通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行っている場合、借手が当該リースに係る使用権資産又は当該使用権資産を含む資産グループの減損処理を検討するにあたっては、当該リースに係る未経過リース料の現在価値を、当該使用権資産の帳簿価額とみなして、減損会計基準を適用することとなります。その結果、使用権資産に配分された減損損失がある場合には、重要性がある場合には負債の部において「使用権資産減損勘定」等の適切な科目をもって計上することになります。当該負債は、リース契約の残存期間にわたり規則的に取り崩し、取り崩された金額は各事業年度の支払リース料と相殺します。なお、使用権資産の重要性が低い場合、未経過リース料の現在価値に代えて、割引前の未経過リース料を、使用権資産の帳簿価額とみなすことが可能です。(減損会計基準 注解12)。

3.短期リース及び少額リースに関する取扱い

 短期リース及び少額リースとして、使用権資産の計上対象とならなかったリース取引については、資産(及び負債)として計上しない場合にも、財務諸表利用者の有用性が大きく損なわれるものではないことから、減損会計基準も適用されないとされています。

4.事務所等の賃貸借契約に係る使用権資産に対する減損損失の検討

 事務所等の賃貸借契約については賃貸借処理を行っていた場合でも、新リース会計基準の適用初年度においてリースと識別された場合、原則として使用権資産としてオンバランス計上することとなります。この場合の使用権資産計上額は、上記の現行基準13号のオペレーティング・リース取引に分類していたリースと同様の方法により算出し、他のリース取引と同様に、適用初年度において当該使用権資産の帳簿価額に対して、減損会計基準を適用し、減損損失の検討が必要となります。
 減損損失の検討にあたって、当該使用権資産に減損の兆候がある資産又は資産グループと判定されれば、減損損失の認識を行うこととなり、割引前将来CFの総額が使用権資産の帳簿価額を下回る場合に減損損失を認識することになります。
 適用初年度の使用権資産の帳簿価額は、残存リース期間のリース料について割引現在価値の計算を行いますが、減損損失の認識では割引前の将来CFの総額を用いるため、割引後の使用権資産の帳簿価額の方が少額になる可能性が高いと考えられます。この点から、新リース会計基準の適用初年度において、減損損失を認識する可能性は低いと考えられます。
 ただし留意が必要な点が、減損の割引前将来CFの計算期間と使用権資産の残存リース期間についてです。割引前将来CFの計算期間(経済的残存使用年数)と残存リース期間とが一致する場合には、上記に記載した通り減損損失を認識する可能性は低いと考えますが、使用権資産として資産計上の対象残存リース期間(例えば10年)に比べ、割引前将来CFの計算期間(例えば5年)が短く設定されてしまうと、割引前将来CFの総額が使用権資産の帳簿価額を下回る可能性がでてくる為、現在の計算でギリギリ減損損失を回避しているような資産グループでは、減損損失が発生する可能性が高くなる為、留意が必要です。

(参考)
 企業会計基準第 13 号「リース取引に関する会計基準」
 企業会計基準第 34 号「リースに関する会計基準」
 企業会計基準適用指針第 33 号「リースに関する会計基準の適用指針」
 企業会計基準第 35 号「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正
 企業会計基準適用指針第 6 号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」
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プロフィール

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇

公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇(みやじま よしたか)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ会計システム普及部会会員

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税理士法人ZERO

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