内部統制が分かる!ポイント解説と実務

第1回 内部統制の基本的な考え方

更新日 2025.01.14

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税理士・公認会計士 髙倉 裕幸

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

税理士・公認会計士 髙倉 裕幸

内部統制は、会社が事業活動を健全かつ効率的に運営するために必要な仕組みを指します。内部統制を整備することで、社内の不正行為やミスの防止、業務の透明性を高めるなど、重要な役割を果たします。
近年発生している経営者や従業員による粉飾決算や法令違反なども内部統制が適切に整備されていれば未然に防げていた可能性があります。
そこで、内部統制の基本や具体的な事例を紹介するとともに、全社的・決算業務の内部統制の整備、IT統制のポイントを解説します。

当コラムのポイント

  • 内部統制の基本と具体的な事例を紹介
  • 全社的・決算業務の内部統制の整備、IT統制のポイント
  • IPO準備企業や中小企業に期待される内部統制
目次

 内部統制の基本的な考え方について解説します。

1.内部統制の4つの目的

 内部統制は、会社等の組織が、①業務の有効性と効率性、②報告の信頼性、③事業活動に関わる法令等の遵守、④資産の保全を確保するための仕組みやプロセスを指し、不正行為やミスの防止、業務の透明性を高めるための重要な役割を果たします。すなわち、内部統制とは、会社が事業活動を健全かつ効率的に運営するために必要な仕組みを指し、内部統制を整備することにより、社内の不祥事を未然に防ぎ、業務の効率化や資産の安全な管理を図ることができます。
 近年では、経営者や従業員の倫理観や責任意識の欠如から、粉飾決算や法令違反、資産の横領などの企業の不祥事が発生しています。このような企業の不祥事は、自社の経営層や従業員だけでなく、株主や債権者、顧客、一般消費者などのステークホルダーを含め社会全体に大きな影響を与えます。不祥事の発生要因は様々ですが、内部統制が適切に整備されていれば未然に防げていた可能性があります。

2.内部統制の基本的要素

 内部統制を整備するためには、内部統制の基本的要素を理解する必要があります。内部統制には6つの基本的要素が定められており、この6つの基本的要素が適切に整備・運用されることにより、内部統制の4つの目的が達成されることとなります。以下6つの基本的要素について解説します。

(1) 統制環境

 統制環境は、組織風土や組織全体の管理方針等を表し、統制に対する組織内のすべての者の意識に影響を与え、他の基本的要素の基礎となり、影響を及ぼす基盤をいいます。経営理念や経営方針、マネジメント層の考え方やリーダーシップ等が重要となり、他の内部統制の基本的要素に大きな影響を与えるため、基本的要素の中でも重要な項目といえます。

(2) リスクの評価と対応

 新規事業を立ち上げたものの想定通りに進まないリスクや、市況の変化により事業計画や予算を達成できないリスクや、セキュリティの要因により機密情報や個人情報が漏洩するリスクなど、企業は事業活動を進めていく中で様々なリスクに直面しています。リスクの評価と対応とは、組織目標の達成に影響を与えうる事象をリスクとして識別し、分析と評価を行った後に、適切な対応を行う一連のプロセスとなります。

(3) 統制活動

 統制活動は、不正や誤りを防止するための具体的な手続を指します。例えば、月末に通帳と会計帳簿の金額が一致していることを確認する手続や、請求書の金額が正しいかレビューする手続等が含まれます。また統制活動には権限や職責の付与、職務分掌等の方針や手続も含まれます。各担当者の権限と職責を明確にし、権限と職責の範囲内で適切に業務を遂行していく体制を整備することが重要です。
 内部統制のなかでもより具体的な手続となるため、理解しやすい基本的要素であると思います。

(4) 情報と伝達

 組織内外で生じた必要な情報は、適切なタイミングで正しく伝えられなければなりません。例えばある現場で従業員の不正が発覚したとします。当部署では直ちに事実確認を行い、定められた社内通報制度に基づき一定時間内に適切な役職者に報告を行う必要があります。情報と伝達が適切に整備・運用されていなければ情報が適時にマネジメント層に伝わらず、深刻な被害を及ぼす可能性があります。情報を正しく管理・伝達することは重要な内部統制の1つとなります。

(5) モニタリング(監視活動)

 モニタリングは、内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセスを指します。モニタリングにより、内部統制の実態を把握し評価や見直しを行います。モニタリングには「日常的モニタリング」と「独立的評価」の2つがあります。前者は通常業務のなかで内部統制が有効に運用されているかをチェックするための機能であり、後者は経営層や内部監査などを通じて定期的に行われるものとなります。
 モニタリングは上場会社のように比較的大きな会社の内部統制というイメージがありますが、中小企業においても、税理士等が月次巡回監査を行い、証憑や帳簿の正確性をレビューする手続等もモニタリングの1つであると考えます。

(6) IT(情報技術)への対応

 企業や組織が業務を行ううえで、販売管理システム、購買管理システム、会計システム等の基幹システムは非常に重要な役割を果たしています。また紙ベースで管理されていた契約書や注文書、検収書等は、近年では書類の電子化が急速に進められています。組織における業務内容や情報システムの利用状況に応じて適切な方針や手続きを定めることのほか、業務を遂行するうえでIT統制を適切に構築する必要があります。
 例えば、セキュリティの高い最新の会計システムを導入することや、関連する部署のみに閲覧権限を与えシステム上のアクセス権限を制限する手続なども含まれます。

出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」

3.おわりに

 内部統制のデザインは、会社の業種、規模、取引の複雑性等により異なり、同業種であっても全く異なる内部統制がデザインされることもあります。また内部統制には正解はなく、このようにデザインしなければならない、という決まりはありません。
 中小企業等では人出が足りないために十分な内部統制を構築することは難しいと思われがちですが、意識をしていないだけでいくつかの基本的要素は備わっている可能性があります。会社のルールや行動指針、活動等を基本的要素に落とし込み、今あるリソースを工夫し補完しながらデザインしていくことにより、リスクを十分に低減することは可能です。

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プロフィール

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 髙倉 裕幸

税理士・公認会計士 髙倉 裕幸(たかくら ひろゆき)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

略歴
1998年に株式会社富士通研究所に入社しJPEGを中心とした画像圧縮技術を専門として研究開発に従事。その後、2008年に公認会計士として有限責任監査法人トーマツに入社し、テクノロジー、メディア、製造業等を中心とした上場会社の監査業務に従事、その間、前職の知識を活かしてIT監査を含むシステム統制を中心とした内部統制の改善提案等を行ってきた。現在は、税理士法人NewRの代表として税理士業務を行いながら、上場子会社のPMIを中心に決算支援や内部統制の構築支援、税務顧問など幅広く業務を行っている。
ホームページURL
税理士法人NewR

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