知っておきたい!ROE・ROIC経営の本質

第3回(最終回) ROE・ROIC向上のための戦略

更新日 2024.09.19

  • X
  • Facebook

税理士・公認会計士 小形 剛央

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

税理士・公認会計士 小形 剛央

資本収益性の代表的な指標であるROE・ROICとはどのようなものか、ROE・ROIC指標採用の趣旨と向上のための課題解決手法について紹介します。

当コラムのポイント

  • 企業価値とは企業が将来にわたって稼ぐ能力
  • ROE・ROIC向上は企業価値の向上につながる
  • ROE・ROIC向上のためのポイントは「事業の収益力向上」
目次

前回の記事 : 第2回 ROE・ROICの算出方法と目的

1.投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイント

(1) 自社株買いや増配の捉え方

 ROEの分母は自己資本のみであることから、自己資本を減少させる自社株買いや増配を実施すると一時的にROEが向上します。しかしながら、この施策は永続的な株価の上昇にはつながりません。
 投資者は自社株買いや増配のみの対応や、一過性の対応を期待していません。継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取組みを期待しています。なお、当該内容は東京証券取引所においても、再三にわたり強調している点です(参考:資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について)。

(2) 持続的な成長を果たすための抜本的な取組みとは

 ROE・ROICの分子である利益を増やすことが、ROE・ROIC向上の王道です。将来FCF増加のために知財・無形資産創出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、事業ポートフォリオの見直し等の取組みを推進することで、経営資源の適切な配分を実現していくことが期待されます。つまり、効果的な投資をすることによって企業が将来にわたって稼ぐ能力をつけることです。結果、利益が成長していき継続的なROE・ROIC向上につながります。
 具体的には、「利益の確保・利益率の向上→高収益事業への投資→利益の確保・利益率向上」の永遠のサイクルを続けることです。また、短期ではなく、長期的にこのサイクルを実現するためには、正しいことをして儲けるということが大切です。社会の役に立ち、仁義道徳に基づいた経営です。一万円札の顔にもなっている渋沢栄一氏の『論語と算盤(そろばん)』の考え方であり、「パーパス経営」でもあります。

2.ROE・ROIC向上のための戦略をストーリーとして語れるか

 経営者は、選択する経営指標やその目標値について、自らのことばで語る必要があります。さらに、その内容が魅力的なものであることが重要となります。先ほどの自社株買いや増配について、経営者が魅力的なストーリーを語ることは難しいと思います。一方で、将来にわたって稼ぐ能力をつけるための施策を語ることができたら魅力的です。経営指標実現の大切なポイントは、「正しい経営戦略」、「競争優位性のある製品・サービス」です。競争優位性とは、一言でいうと「他社との違い」です。このポイントを押さえた上で、ストーリーを描いてみてください。これがIR活動の本質です。ROE・ROIC向上の説明について、単なる数字の羅列や数字遊びではなく、ストーリーとして語れるようにすれば、世界から遅れている日本の経営指標に対するレベルも世界に一歩近づくと思います。

3.経営戦略の視点‐経営のフレームワークを活用

 企業価値を向上させる経営は、経営戦略の視点を特に重視しています。経営戦略を構築する際に活用したいのがフレームワークです。例えば、3C分析、SWOT分析、ファイブフォース分析等があります。

  • 3C分析
    Customer(市場・顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)の要素から競争環境を分析するフレームワーク。
  • SWOT分析
    Strengths(強み)・Weaknesses(弱み)・Opportunities(機会)・Threats(脅威)の視点から市場機会について分析するフレームワーク。
  • ファイブフォース分析
    競合企業の脅威・新規参入企業の脅威・代替品の脅威・買い手の交渉力・売り手の交渉力に着目したフレームワーク。

 フレームワークは、複雑な経営環境を整理することができるため、本質的な課題の把握及び効果的な課題解決方法の立案につながります。また、フレームワークは他人にとっても分かりやすいため、経営戦略をストーリーとして語ることにも一役担います。

4.ROE・ROIC向上のための施策

(1) ROE・ROICの理解

 ROE・ROICの理解には、その算定に使われる数値の意味を知るために会計知識の理解が必須です。また、ROE・ROICのみではなく、幅広く財務分析や経営指標を学ぶことも有効です。日々進化している分野なので最新手法をキャッチアップしていく必要があります。上場会社であれば、東京証券取引所の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」のフォローは必須です。

(2) 財務に関する人材確保・育成

 財務に関して高度な知見のある人材の確保・育成が大事です。優秀なCFOや経理人材がいれば、目指すべき経営戦略につながる正しい財務戦略を構築することができます。いつの時代においても、良い会社には、素晴らしい社長だけではなく必ず優秀なCFOが社長のそばにいることは周知の事実です。

(3) 財務分析のための有効な情報

 「有価証券報告書」や「統合報告書」が参考になります。もしも、自分がその会社の社長だとしたらどんな経営戦略にするか、どんな経営指標を使うか考えてみてください。考えた上で、その会社の決算資料に目を通してみるとストーリーが浮かぶようになります。

 今回は、ROE・ROIC向上のための戦略について解説しました。ぜひとも、経営戦略と結び付きを強固にした経営指標を魅力的なストーリーで語れるようになっていただければと思います。

  • X
  • Facebook

この連載の記事

テーマ

プロフィール

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士・公認会計士 小形剛央

税理士・公認会計士 小形 剛央(おがた たけひさ)

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

略歴
専門:企業会計(財務会計、管理会計)、戦略経営、事業承継
上場会社の会計顧問・税務顧問を基軸に、多数の中小企業の健全発展を伴走支援によりサポートしている。日本の課題である事業承継についても注力している。
著書等
『これだけは知っておくべき社長の会計学』幻冬舎
『いきなり事業承継成功読本』講談社
ホームページURL
ON税理士法人

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。