更新日 2024.07.22
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ会計システム普及部会会員
公認会計士・税理士 一木 伸夫
DCFを学ぶ前提の基礎知識から、実践でも役立つ設例まで、DCFのすべてを分かりやすく、ストーリー仕立てで解説するコラムです。
当コラムのポイント
- DCFの前提となる知識から丁寧に解説
- 問題を考えながら理解を深める
- エクセルの使い方も身につく
- DCFの実務を設例で解説
- 目次
-
4.投資意思決定
前回の資本コストの理解を前提に、投資の意思決定について考えていきましょう。
- 【問題】
- 調達した資金を年10%以上で運用することが求められています。
今100万円投資すると、1年後に110万円のリターンがあるAプロジェクトに投資しますか?
理由とともに答えてください。
- 【問題】
- 調達した資金を年10%以上で運用することが求められています。
今100万円投資すると、4年後に140万円のリターンがあるBプロジェクトに投資しますか?
理由とともに答えてください。
- 【解答】
- 10%以上での運用が求められた場合、
1年後は100 × (1+10%)^1 = 110
4年後は100 × (1+10%)^4 = 146.4
が最低限の将来価値なので、答えは簡単に導くことができます。
Aは投資する、Bは投資しないとなります。
資本コストを意識しないと、Bのようなプロジェクトにも、「黒字」だから、という理由で投資してしまうことになります。調達を下回る運用を続けていたのでは、会社の成長は望むべくもありません。
では次の問題はどのように考えればよいでしょうか。
- 【問題】
- 調達した資金を年10%以上で運用することが求められています。
今100万円投資すると、毎年4年間30万円のリターンがあるプロジェクトに投資しますか?
理由とともに答えてください。
この問題に答えを出すためには発想の転換が必要になります。
このあと考え方について解説します。
5.現在価値
投資意思決定を「将来価値」との比較で考えるのは限界があります。
そこで「現在価値」という考え方が生まれました。
将来のキャッシュ・フローを現在の価値に直したらいくらになるか、という発想です。
複利計算の公式を思い出してください。
元本 × (1 + 年利率(r))^n年後 = 将来価値
「元本」を「現在価値」に、「将来価値」を「n年後のキャッシュ・フロー(CFn)」に置き換えてみます。
現在価値 × (1 + r)^n = CFn
この式を変形すると現在価値を求める公式を導くことができます。
現在価値 = CFn × 1/(1 + r)^n
この1/(1 + r)^nの部分を「現価係数」と呼びます。
これを利用すると
現在価値 = CFn × 現価係数
というシンプルな式になります。
rがプラスであれば現価係数は1より小さくなるので、将来キャッシュ・フローを現在価値に「割り引く」といいます。
このように将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いたものを「割引現在価値」と呼び、rを「割引率」と呼びます。
割引現在価値を利用して価値を評価する手法をDCF(Discounted Cash Flow)といいます。
将来キャッシュ・フローを予測することで、あらゆるものの価値を評価することのできるDCFは現代の会計には欠かせないツールとなっています。
現在価値は英語で「Present Value」なので、PVと略されます。
また、PVから投資を差し引いたものをNPV(Net Present Value:正味現在価値)と呼びます。
NPV = PV – 投資
よく使うので一緒に覚えてしまいましょう。
DCFを使って先程の問題を考えてみましょう。
- 【問題】
- 調達した資金を年10%以上で運用することが求められています。
今100万円投資すると、1年後に110万円のリターンがあるAプロジェクトに投資しますか?
現在価値(PV)を計算して答えてください。
- 【解答】
-
PV = 110 ÷ (1 + 10%)^1 = 100
PV >= 投資額100なので投資する。
ちなみに、
NPV = PV – 投資 = 100 – 100 = 0
NPVがゼロ以上なので投資すべき、という結論になります。
NPVを使うと、常にゼロとの比較で投資意思決定が可能になります。
- 【問題】
- 調達した資金を年10%以上で運用することが求められています。
今100万円投資すると、4年後に140万円のリターンがあるBプロジェクトに投資しますか?
NPVを計算して答えてください。
- 【解答】
- PV = 140 ÷ (1 + 10%)^4 = 95.6
NPV = 95.6 – 100 = -4.6
NPV < 0なので投資しない。
- 【問題】
- 調達した資金を年10%以上で運用することが求められています。
今100万円投資すると、毎年4年間30万円のリターンがあるプロジェクトに投資しますか?
理由とともに答えてください。
- 【解答】
-
各年度のPVを合計することでプロジェクト全体のPVを求めます。
PV = 30 ÷ (1 + 10%)^1
+ 30 ÷ (1 + 10%)^2
+ 30 ÷ (1 + 10%)^3
+ 30 ÷ (1 + 10%)^4
= 95.1
NPV = 95.1 -100 = -4.9
NPV < 0なので投資しない。
実務上はエクセルを使って計算することが多いと思います。
絶対参照を効果的に利用して、効率よく計算してください。
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プロフィール
公認会計士・税理士 一木 伸夫(いちき のぶお)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ会計システム普及部会会員
- 著書等
- 「会計士が教えるスゴ技Excel」(日本経済新聞出版社)
- 「7つの基本で身につくエクセル時短術」(日本経済新聞出版社)
- 「会社では教えてもらえない 一瞬で仕事が片付く人のエクセルのキホン」(すばる舎)
- 10兆円企業でファイナンス講座講師を担当
- ホームページURL
- ビジネス・ブレイン税理士事務所
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