更新日 2024.06.17
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ会計システム普及部会会員
公認会計士・税理士 宮嶋 芳崇
能登半島地震で被災された皆様には心よりのお見舞いを申し上げます。本コラムでは、甚大災害指定されるような大規模な災害が発生した場合の会計・税務・開示等を中心に寄稿します。
当コラムのポイント
- 甚大災害指定される震災等が発生した場合、会計処理・税務で参考になる通知を明確にしています。
- 税務は「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」を中心に解説します。
- 能登半島地震だけでなく、今後震災等が発生した場合でも参考になる情報となっています。
- 目次
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前回の記事 : 第4回 災害発生時の税務処理(各種申告期限の延長)
第5回目においては、会計処理、税務処理が終わった後の開示に着目して解説した後、災害等があった場合の決算スケジュールについても解説をしたいと思います。
1.注記について
(1) 後発事象の記載の検討
決算日後から会計監査人の監査報告書日までに、火災、震災、出水等により重大な損害が発生したときは、開示後発事象として次の事項を注記することになります。
- ①その旨
- ②被害の状況
- ③損害額
- ④復旧の見通し
- ⑤当該災害が営業活動等に及ぼす重要な影響
- ⑥その他重要な事項がある場合にはその内容
また、影響額を見積もる場合には、信頼度の高い資料にその根拠を求める等により客観的に見積もる必要があり、影響額を客観的に見積もることができない場合には、その旨及び理由等の開示が必要となります(出典:監査基準報告書560実務指針第1号 後発事象に関する監査上の取扱い)。
実際に東日本大震災などの大規模災害が発生した際の後発事象について分析を行ってみると、固定資産等の滅失や原状回復費用、その他復旧等に係る費用などの見込み額を算定して開示している企業もあれば、被災した旨について被災エリアや店舗数など詳細に記載を行っている企業もありました。また、固定資産等の滅失や除却などが見込まれる旨の記載はあるものの、実際には損失額を算定することができないとして未確定又は合理的に算定することが困難であるとしている企業も多数存在していました。
(2) 追加情報の注記(損益計算書関係注記での災害損失に関する注記など)の検討
決算日前に震災等が発生し、後発事象としての注記が不要である場合であっても、災害損失などの勘定科目を利用した場合には、勘定科目名だけではその内容が明確でないとして、追加情報の注記で内容を説明する必要があります(出典:監査・保証実務委員会実務指針第 77 号 追加情報の注記について)。なお、開示項目については(1)の後発事象の注記(①~⑥)と異なり、注記すべき事項は決まっていません。
実際に東日本大震災などの大規模災害が発生した際の追加情報について分析を行ってみると、災害による損失の内訳(固定資産等の滅失損失、災害損失引当金繰入額、原状回復費用など主要なもの)を記載しているものもあれば、金額や質的影響が大きいため、追加情報を充実させた記載を行っている企業もありました。なお、参考までに東日本旅客鉄道㈱の2011年3月期の有価証券報告書の追加情報は次の通りでした。
2.災害等があった場合の決算スケジュールについて
災害等があった場合、必要に応じて決算スケジュールの見直しも検討する必要があります。この点、まず決算短信の発表や有価証券報告書等の提出時期については、日本取引所グループも金融庁も一定の猶予措置を認めています。また、会社法においても、株主総会の開催時期について延期することも許容するなどの対応が考えられます。以下、詳細に確認していきたいと思います。
(1) 決算短信
上場企業の決算短信については、日本取引所グループの規則では、原則決算開示は決算期末後45日ルールとなっています。一方、この45日ルール開示は、必ずしも強制されているわけではなく、確定した状況で発表することでよいとされています。また、45日以内に決算短信が提出できなくても法的な罰則はとくに設けられていません。但し、決算期末後の45日以内に決算短信を開示できず、50日を超えるようなときは、決算短信を開示した後に一定事項の報告が必要となる点、留意が必要です。
なお、以前、新型コロナウイルス感染症の影響で、決算短信の提出が困難な企業も出てきたときに、日本取引所グループは45日ルールを一旦は保留としたことがあり、決算短信は確定次第の開示としていました。この延長措置等は2024年現在ではなくなっているものの、こうした日本全体に影響を及ぼす災害その他やむを得ない理由があるときは、緊急的な提出期限の変更がなされることがあったという点についてご留意いただければと思います。
(2) 有価証券報告書
有価証券報告書の提出時期は、決算日後3カ月以内に提出することが求められていますが、災害等により「やむを得ない理由」により当該期間内に有価証券報告書を提出できないと認められる場合には、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められています。
なお、今回の令和6年能登半島地震についても、下記の通知が発出されており、やむを得ない理由があり期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められています。
「出典:金融庁 令和6年能登半島地震に関連する有価証券報告書等の提出期限について」参照
(3) 会社法上の観点
日本企業の多くは、定款において議決権行使のための基準日を事業年度末日に設定していることが多い為、事業年度終了後3か月以内に定時株主総会の開催が行われています。では、震災等の理由により定款所定の時期に定時株主総会を開催することができない場合、どうなるのかという点が論点になります。「東北地方太平洋沖地震の影響により、定款所定の時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、会社法第296条第1項に従い、事業年度の終了後一定の時期に定時株主総会を開催すれば足り、その時期が定款所定の時期よりも後になったとしても、定款に違反することにはならない。」と法務省から見解が示されています(出典:法務省:定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて (moj.go.jp))。但し、その場合には、新たに議決権行使のための基準日を設定して、当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告するなどの対応を別途行う必要がある点、留意が必要です(会社法第124条第3項本文)。
了
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