更新日 2023.06.26

グローバル・ミニマム課税のポイント解説

第1回 グローバル・ミニマム課税の導入趣旨と背景

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員 税理士 西山 実

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員

税理士 西山 実

令和5年度の税制改正で創設されたグローバル・ミニマム課税の導入の背景と計算の全体像を対話形式で解説します。

当コラムのポイント

  • グローバル・ミニマム課税の導入背景と趣旨を理解できる
  • 制度の全体像、対象者、課税額の計算の概要を理解できる
  • 適用免除制度、申告の方法、情報提供の仕組みを理解できる
目次

 今回は令和5年度の税制改正で創設されたグローバル・ミニマム課税の導入の背景と計算の全体像を対話形式で解説します。

【場面紹介】

 海外に多くの関連会社を持つ株式会社T(T社)の会議室。T社の経理財務部で税務30年のベテランK部長が、部下で税務担当3年目のCさんと今年の税制改正で創設された新しい国際税務について語り合っています。

1.グローバル・ミニマム課税の概要と背景

K部長:令和5年度の税制改正で「グローバル・ミニマム課税」という税制ができたんだけど、どんな税制か知ってる?

Cさん:海外の子会社などの現地国での税負担が15%を下回る場合に、日本の親会社で15%との差額を課税する、という税制だったと思います。現地の税制で10%ならば、5%を日本で税金を払うということですよね。

K部長:その通り。では「グローバル・ミニマム課税」ができた背景も知ってるかな?

Cさん:歴史はちょっと苦手なんです。

K部長:国際税務においては2つの大きな問題があると言われてきたんだ。インターネットの発展により、その国に拠点を置かなくてもビジネスができてしまうようになり、「PE(Permanent Establishment:恒久的施設)なければ課税なし」という原則に問題が生じた。すなわち市場国への新たな課税権の配分が求められるようになってきたんだ。

Cさん:「PEなければ課税なし」は知ってましたが、その見直しが検討されているんですね。

K部長:もうひとつは、各国による法人税率引き下げ競争が進んできたこと。法人税率を低く設定することや外国企業誘致のために優遇税制を設けることがこれにあたるんだ。これにより各国の法人税収基盤が弱くなり、企業間の公平な競争が疎外されているとも言われているんだよ。

Cさん:特定業種の関連会社が優遇税制の置かれた国に集中しているという話は聞いたことがあります。

K部長:国同士の税の競争が、企業間の公平な競争を阻害しているという問題点は、そういった例を聞くと実感できるかもしれないね。

Cさん:その2つの問題にどのように対応しようとしているんですか?

K部長:OECDでは長年これらの課税問題について議論を行ってきて、2021年10月に大きな合意がなされたんだ。2つの柱を設け、第1の柱(Pillar1)は市場国への新たな課税権の配分ルール、第2の柱(Pillar2)をグローバル・ミニマム課税としている。第2の柱については、制度の導入は各国の選択に委ねられているが、導入するならばこの国際ルールに沿って国内法を改正し実施することになっているんだ。

Cさん:OECDの合意ルールをなぞって法律にするということは、税制調査会で検討される通常の税制改正とは少し違うのですね。

K部長:その通り。だから第2の柱を読んでおくと、さらに将来の税制改正のゆくえも見えてくるんだよ。たとえば、第2の柱のグローバル・ミニマム課税には、次の3つのルールがあるんだ。

  • ① 所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)
    子会社等の税負担が15%を下回る場合、親会社等の所在地で15%に至るまで課税する。例えば、日本に親会社があり、軽課税国に子会社がある場合、日本の税務当局が日本の親会社に対して、軽課税国の子会社の税負担が15%に至るまで課税を行うもの。
  • ② 軽課税所得ルール(UTPR:Undertaxed Profits Rule)
    親会社等の税負担が15%を下回る場合、子会社等の所在地で15%に至るまで課税する制度。例えば、軽課税国に親会社がある場合に、日本の税務当局が日本の子会社に対して、最低税率15%になるまで課税をするもの。
  • ③ 国内ミニマム課税(QDMTT:Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)
    国内の会社等に対し、税負担が税額控除等により15%を下回る場合、15%に至るまで課税をする制度。この制度が導入されていれば、他国のIIR/UTPRの対象にならない。 

Cさん:なるほど。つまり、IIRは他国にある子会社が15%を下回っている場合、UTPRは他国にある親会社が15%を下回っている場合に日本で税収が増えるパターンですね。一方で、QDMTTでは日本は最低15%課税できる権利を他国に持っていかれないように、漏れなく日本で15%を課税してしまおうというものですね。日本で実際に税率が15%を下回る場合があるかはわかりませんけれど。

K部長:グループの最上位に近い事業体から課税をするという原則に従って、各国でIIRを優先的に導入していくことになっているんだ。日本でも令和5年度の税制改正で法制化され、令和6年4月1日以降開始の日本の親会社等から適用されることになったんだ。UTPRとQDMTTは1年後の令和6年度税制改正で追加され、令和7年4月1日以降開始事業年度からの適用が予想されているね。

Cさん:でも、各国がIIRを導入すると軽課税国が税率を15%まで上げてくるんじゃないでしょうか?

K部長:そのような方向になるのはグローバル・ミニマム課税の目的にかなうことでもあるし、現地の税制改正のゆくえを調べるのは、我々の大切な仕事だね。

2.CFC税制との関係

K部長:ところで、軽課税国の合算という意味では、外国子会社合算税制(CFC税制)というのもあるけれど、説明できる?

Cさん:CFC税制は、一定の外国子会社等の所得を日本の親法人の所得に合算して課税しようというもので、経済的な実体のない外国子会社等を用いた租税回避に対処するための税制だったかと思います。グローバル・ミニマム課税の導入で重なる部分もあり、見直しにはならないんですか?

K部長:法人税率引き下げ競争に歯止めをかけることが目的のグローバル・ミニマム課税と、租税回避行為に対処しようとするCFC税制は目的が異なり、OECDの議論でも両者は併存するものと整理されているようだよ。両方で課税になるケースがあるだけではなく、計算の方法が異なることから、我々実務家は準備が大変になるんだ。
 我が国のCFC税制は令和5年度の税制改正で、ペーパーカンパニーなどの特定外国子会社にかかるトリガー税率が現行の30%から27%に引き下げられる(令和6年4月1日以降開始事業年度から適用)けれど、通常の外国子会社に適用される20%のトリガー税率の見直しは行われない。簡素化を期待したいね。

 次回は令和5年度の税制改正で導入されたIIRの課税制度について解説します。

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税理士 西山 実(にしやま みのる)

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