更新日 2022.11.07
TKC税務研究所
副所長
丸山 慶一郎
2019年12月に掲載した「疑問を解消!印紙税よくある質問Q&A」の続編として掲載します。
当コラムのポイント
- TKC税務研究所に寄せられた質問から12種類を厳選
- 関連情報として根拠条文等を記載
- 目次
-
【Q9】税理士、会計法人及び社会福祉法人を当事者とする請負契約書と第7号文書
- A税理士、会計事務を事業内容とするB会社及び社会福祉法人Cの間において、〔1〕社会福祉法人Cは、A税理士に対して、法定調書合計表・給与支払報告書の作成等の請負に関する事務(本件事務)を委託する、〔2〕A税理士は、本件事務を、B会社に対して再委託する、〔3〕社会福祉法人Cは、再委託を承認し、本件事務の処理に係る報酬をB会社に対して支払う、ことを主たる内容とする契約書(本件契約書)を作成する予定でおります。
- 本件契約書は、営業者であるB会社を当事者とするものであることから、「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)に該当するのか、お尋ねします。
【A9】
- 課税文書の判断
印紙税の課否は、当該文書の全体的な評価によってではなく、文書に記載されている個々の事項についての検討に基づき、判断することになります。 - 本件契約書と「継続的取引の基本となる契約書」
- (1) 印紙税法施行令26条1号は、営業者の間において請負に関する2以上の取引を継続して行うために作成される契約書で、当該2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類等を定めるものを「継続的取引の基本となる契約書」の一類型として規定しております。
- (2) 本件契約書はA税理士、B会社及び社会福祉法人Cとの間の合意を内容とするものであり、B会社以外の2者(A税理士及び社会福祉法人C)は、いずれも営業者でないため、本件契約書は、上記(1)にいう「営業者の間」において作成される「請負に関する契約書」に該当せず、したがって、本件契約書は、「継続的取引の基本となる契約書」に当たらないと考えられます。
【関連情報】
- 《法令等》
- 印紙税法施行令26条1号
印紙税法基本通達第3条
【Q10】原契約の契約内容を補充する覚書と印紙税
当社(甲)は建設業を営んでいますが、下請業者(乙)との間において、工事請負契約に係る基本契約書(以下、「本契約書」)を締結しており、本契約書は、第2号文書(請負に関する契約書)・第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)のいずれにも該当し、契約金額の記載がないことから第7号文書として取り扱っています。
本契約書には「解除権」を定める条項があり、そこには「甲は、乙が次の各号の一に該当するときは、個別契約を解除することができる。」とし、その1号において「正当な理由がないのに、工事に着手すべき時期を過ぎても、工事に着手しないとき。」と定めていますが、これに新たな号として、「乙がこの契約の目的物を完成させることができないことが明らかであるとき。」とする内容を追加する覚書(以下、「本覚書」)を締結する予定です。この本覚書は、課税文書に該当するのかご教示願います。
【A10】
印紙税法別表第1課税物件表の適用に関する通則5において「この表の第一号、第二号、第七号及び第十二号から第十五号までにおいて「契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。」と規定し、ここでいう「契約の内容の補充」については、原契約の内容として欠けている事項を補充することをいうと解されています。
そして、その補充契約書の課税物件表における所属の決定については、「原契約が2以上の号の課税事項を含む場合において、当該課税事項の内容のうちの重要な事項を補充する契約書については、当該2以上の号のいずれか一方の号のみの重要な事項を補充するものは、当該一方の号に所属を決定し、当該2以上の号のうちの2以上の号の重要な事項を補充するものは、それぞれの号に該当し、通則3の規定によりその所属を決定する。」(印基通18〔2〕(2))としており、ここでいう「重要な事項」については、印紙税法基本通達(以下「基本通達」という。)別表第2において所属号ごとに例示的に列挙されています。
お尋ねの本契約書は、第2号文書・第7号文書に該当するものとありますので、基本通達別表第2の4において、第2号文書に係る重要な事項が例示的に列挙されており、その(7)に「契約に付される停止条件又は解除条件」が掲げられております。
お尋ねによれば、本契約書の条項に解除権が定められ「甲は、乙が次の各号の一に該当するときは、個別契約を解除することができる。」とされ、そこに新たな号として「乙がこの契約の目的物を完成させることができないことが明らかなとき。」を追加すなわち補充するために本覚書を締結するとあります。つまり、補充した事実が生じた場合にも個別契約を解除することができるとするものと思われます。
基本通達別表2に第2号文書に掲げる「重要な事項」の一つに解除条件が掲げられていますが、解除条件付法律行為については、民法127条2項において「解除条件が成就した時からその効力を失う」としていますので、解除条件とは条件成就により効力が消滅する条件をいうと解されます。
したがいまして、本覚書は、いわゆる解除権に係る解除事由を追加したに過ぎず、これをもって解除条件を新たに設定したものとは解されませんので、重要な事項の補充に当たらないため、課税文書には該当しないものと考えます。
【関連情報】
- 《法令等》
- 印紙税法別表第1課税物件表の適用に関する通則5
印紙税法基本通達別表第2号の4
民法127条2項
【Q11】機械設備販売に係る契約書と印紙税
機械設備の売買契約は印紙の課税対象となりませんが、以下の内容でどこまでが機械設備の売買にあたるでしょうか?
当社(甲)はメーカーの設備を卸商社(乙)から仕入れます。
- ・乙が設備にロボットなどのエンジニアリングを付加して甲に納入します。
- ・甲で最終の製品を仕上げるためのプログラム作成などを行い、ラインとして完成させます。客先には、素材を投入すれば製品になって出てくるというラインを納入します。
- ・全部で4ライン(1ラインあたり設備2台+ロボット2台)納入予定で、合計2億5000万円ほどになります。
- ・販売の内訳は、大きく分けると、以下のとおりです。
- 「設備(機械とロボット)費」=乙経由で甲が購入
- 「自動化エンジニアリング費」=乙経由で別会社へ依頼
- 「製品化エンジニアリング費」=甲が対応
- 「治具費」=甲が製作
- 「搬入・据付」=甲から運送会社に委託
例えば、ライン全体に当社の銘板を貼るなどすれば、全体を機械設備にすることができるのでしょうか?
また、契約書に、「契約金額は別途協議」などの記載をしたうえで見積書を作成した場合にはどのようになるでしょうか?
【A11】
- 請負と物品等の譲渡との判断基準
制作物供給契約のように、請負に関する契約書と物品又は不動産の譲渡に関する契約書との判別が明確にできない契約書については、契約当事者の意思が仕事の完成に重きをおいているか、物品又は不動産の譲渡においているかによって判別し、大型機械の取付等、例えば、プラント設備などの大型産業設備を建設、設置する場合には、目的物を生産するために複数の機械・装置を組み合わせたものの建設を請け負う契約であって、設備を構成する個々の機械・装置の売買を目的とするものではなく、設備全体の完成を目的として、設備の完成引渡しにより対価を支払う契約関係であることから、契約書上において、装置代金と組み立て装置代金を区分していたとしても、その全体が「請負に関する契約書」(第2号文書)に該当すると解されております(印紙税法基本通達第2号文書2(6)参照)。 - 本件契約書と「請負に関する契約書」(第2号文書)該否
- (1) ご照会の「契約書」(本件契約書)については、ご照会の記述によると、甲社は、乙社から仕入れた「設備」に「自動化エンジニアリング」及び「製品化エンジニアリング」を付加するなど、最終の製品を仕上げるためのプログラム作成などを行ってラインとして完成させ、素材を投入すれば製品になって出てくるというラインを客先に納入することを内容とするものであり、したがって、上記1に照らし、本件契約書は、その全体が「請負に関する契約書」(第2号文書)に該当すると解するのが相当と思われます。
- (2) 本件契約書が「請負に関する契約書」に該当する理由は上記(1)のとおりですので、「ライン全体に当社の銘板を貼るなど」しても、そのことから、本件契約書が、「機械設備の売買契約書」に該当することにはならないと思われます。
- 本件契約書と記載金額
- (1) 本件契約書に記載された契約金額が、印紙税法別表第一「課税物件表」第2号にいう「契約金額」に該当することになると考えられます。
- (2) 印紙税法別表第一「課税物件表の適用に関する通則」4は、「この表の課税標準及び税率の欄の税率又は非課税物件の欄の金額が契約金額、券面金額その他当該文書により証されるべき事項(以下この4において「契約金額等」という。)として当該文書に記載された金額(以下この4において「記載金額」という。)を基礎として定められている場合における当該金額の計算については、次に定めるところによる。」と定め、「契約金額」とは「当該文書に記載された金額」をいうとされていることから、「『契約金額は別途協議』などの記載をしたうえで見積書を作成した場合」には、本件契約書自体に契約金額の記載はないため、記載金額のない契約書として、印紙税の額は200円であると考えられます。
【関連情報】
- 《法令等》
- 印紙税法基本通達2号文書2(6)
【Q12】委託取引基本契約書と印紙税
甲社と乙社とは、コンピュータ・プログラム、設計図面等の情報成果物の作成その他の役務提供にかかる取引に関し、委託取引基本契約書を取り交わすこととなり、その第1条において、情報成果物の作成その他の役務提供を業務とし、この業務を甲社と乙社が互いに委託者及び受託者となる旨規定し、第2条において、その個々の業務に係る委託内容、委託料、納期その他の条件については個別契約を締結して行う旨規定しています。また、契約期間は1年とし、自動更新の定めを置いています。
この委託取引基本契約書は、印紙税法上の課税文書に該当するか否か、該当するとすれば、どの課税文書に該当するのかご教示願います。
【A12】
- 「請負」とは、当事者の一方(請負者)がある仕事の完成を約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約をいい、民法632条《請負》に規定する「請負」のことをいうとされています。
お尋ねの「委託取引基本契約書」(本件契約書)は、第1条において、情報成果物の作成その他の役務の提供を業務とし契約当事者双方が委託者及び受託者になることを定め、第2条において、個別契約により委託料を支払うことを明らかにしていますので、印紙税法別表1課税物件表の第2号文書「請負に関する契約書」に該当するものと認められます。 - また、上記課税物件表の第7号文書の「継続的取引の基本となる契約書」(契約期間3月超かつ更新の定めがあるもの)とは、「特約店契約書、代理店契約書、銀行取引約定書その他の契約書で、特定の相手方との間に継続的に生ずる取引の基本となるもののうち、政令で定めるものをいう」とされ、同法施行令第26条第1号には、「特約店契約書その他名称のいかんを問わず、営業者(課税物件表第17号文書の非課税物件の欄に規定する営業を行う者をいう。)の間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する2以上の取引を継続して行うため作成される契約書で、当該2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価 の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定めるもの(電気又はガスの供給に関するものを除く。)」と規定されています。
因みに、請負の場合の「目的物の種類」とは、仕事の種類・内容等がこれに該当するとされています(印紙税法基本通達第7号文書8)。
したがって、次に掲げる5要件のすべてを満たすものであれば、令第26条第1号に該当して第7号文書となります。- (1) 営業者の間における契約であること
- (2) 売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負のいずれかの取引に関する契約であること
- (3) 2以上の取引を継続して行うための契約であること
- (4) 2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうちの1以上の事項を定める契約であること
- (5) 電気又はガスの供給に関する契約でないこと
本件契約書については、営業者間の契約であり、上記1のとおり、請負契約と認められ、2以上の取引に係る契約期間は1年(更新の定めあり)で、請負に係る目的物の種類としては、コンピュータ・プログラム、設計図面等の情報成果物の作成その他の役務を業務とする旨定められており、5要件のすべてを満たすので「継続的取引の基本となる契約書」に該当するものと認められます。
- 請負契約と基本契約のいずれにも該当する場合の取扱い
印紙税法別表1課税物件表の適用に関する通則3イにおいて、第1号又は第2号に掲げる文書と第3号から第17号までに掲げる文書とに該当する文書は、第1号又は第2号に掲げる文書とするとしていますが、ただし書きにおいて、「第1号又は第2号に掲げる文書で契約金額の記載のないものと第7号に掲げる文書とに該当する文書は、同号に掲げる文書とし」すなわち第7号に掲げる文書に該当するとしています。
したがいまして、本件契約書には記載金額の定めはなく個別契約で定めるとしていますので、本件契約書は第7号文書「継続的取引の基本となる契約書」に該当することになります。
【関連情報】
- 《法令等》
- 印紙税法別表1課税物件表の適用に関する通則3イ
印紙税法別表1課税物件表第2号文書
印紙税法別表1課税物件表第7号文書
印紙税法基本通達第7号文書8
了
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丸山 慶一郎(まるやま けいいちろう)
TKC税務研究所
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