更新日 2022.04.18
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
税理士 畑中 孝介
いよいよ、令和5年10月1日にインボイス制度が始まります。特に仕入税額控除のあり方が大きく変わり、従来通り仕入税額控除を受けるためには自社だけではなく仕入先・外注先・家主が適格請求書発行事業者になっているかどうかの確認も必要です。つまり経理部門だけでなく営業や購買部門・契約部門など幅広い部門をまたがった確認が必要になるということです。
当コラムでは、全4回でインボイス制度のうち中堅・大企業が対応すべき事項について解説します。
- 目次
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1.控除対象外消費税額等の概要
課税売上高が5億円超の事業者については、95%ルール(課税売上げ割合が95%以上の場合は全額仕入れ税額控除可能)の適用が除外され、「課税売上げにのみ要する課税仕入れ」しか控除できません。そのため、控除できない消費税額等(控除対象外消費税額等)が発生することになります。
2.控除対象外消費税額等の税務処理
控除対象外消費税額等は、「資産に係る控除対象外消費税額等」と「資産に係るもの以外の控除対象外消費税額等」の2つに分けて処理をすることとなります。
(1) 資産に係る控除対象外消費税額等
資産に係る控除対象外消費税額等は、次のいずれかの方法によって、損金の額に算入します。
① その資産の取得価額に算入し、それ以後の事業年度において償却費などとして損金の額に算入します。
② 次のいずれかに該当する場合には、損金経理を要件としてその事業年度の損金の額に算入します
- 1)その事業年度又は年分の課税売上割合が80%以上であること。
- 2)棚卸資産に係る控除対象外消費税額等であること。
- 3)一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満であること。
③上記に該当しない場合には、「繰延消費税額等」として資産計上し、繰延消費税額等/60×事業年度の月数(資産取得年度はその1/2)の範囲内で、その法人が損金経理した金額を損金の額に算入します。
※また、居住用賃貸不動産の購入については、租税回避行為を規制するため、令和2年10月1日以後に、居住用賃貸建物で税抜取得価額1,000万円以上のものを取得してもその課税仕入れについては、仕入税額控除制度の適用が認められないこととされ全額控除対象外消費税に該当することになりました。この場合にも上記①②に該当しない場合は、「繰延消費税額等」として資産計上し、繰延消費税額等/60×事業年度の月数(資産取得年度はその1/2)の範囲内で、その法人が損金経理した金額を損金の額に算入します。
(2) 控除対象外消費税額等が資産に係るもの以外である場合
一般的には雑損失や租税公課等の科目で処理し、全額をその事業年度の損金の額に算入します。
(3) 税込み経理の場合の控除対象外消費税の処理
そもそも税込経理方式を採用している場合には、消費税額は資産の取得価額又は経費の額に含まれますので、特別な処理は要しないこととなります。
(4) 交際費に係る控除対象外消費税
仕入税額控除の対象外となった仕入税額は、資産に係るもの以外については、その年度の損金として処理ができますが、交際費等に係る部分については交際費等の額として別表での加算が必要となります。
消費税の申告では改正に気づいていても、法人税申告にまで影響することに気づかれていないことが多いようです。改正の影響は消費税にとどまらず法人税申告にも影響しますのでご注意ください。特に、交際費等に係る部分については注意が必要です。
また、インボイス制度の導入により免税事業者からの課税仕入れに関しては法人税別表での加算額が徐々に増加することになりますので一層留意が必要になります。詳細は、「3.インボイス制度による法人税別表への影響」をご参照ください。
3.インボイス制度による法人税別表への影響
インボイス制度導入後は、免税事業者などの適格請求書発行事業者でないものからはインボイスがもらえないため、消費税の仕入税額控除の適用対象外となります。
(控除対象額)
R5.10.1~R8.9.30 仕入税額×80%
R9.10.1~R11.9.30 仕入税額×50%
R11.10.1~ 仕入税額控除不可
(注)帳簿にはこの経過措置の適用を受けたものである旨の記載が必要です。
この控除対象外となる消費税部分については新経理通達14の2において「適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る取引について税抜経理方式で経理をしている場合であっても、その取引の対価の額と区分して経理をした消費税等の額に相当する金額を当該課税仕入れに係る取引の対価の額に含めて法人税の課税所得金額を計算する。」とされ控除対象外消費税額等となるのではなく、対価の額に含めて経理することとされていますので、費用又は資産の対価の額として処理する必要があります。
今後免税事業者からの建物の購入については、徐々に控除対象外消費税額が増加しますので資産に係るものについては対価の額として含めるとともに、交際費等についても対価の額に含めて認識をする必要があります。
例えば、令和11年10月1日に免税事業者から耐用年数20年の店舗用の建物を購入し、下記のようにインボイス制度導入前と同様に仮払消費税を認識する仕訳を計上した場合には、本来対価の額に含めるべき金額が損金計上されていることになりますので申告調整により減価償却超過額として加算留保が必要になります。
インボイス制度導入後(令和11年10月1日以降)は、税務上は適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて仮払消費税等の額はないこととなるため、仮に法人の会計において仮払消費税等の額として経理した金額がある場合には、その金額を取引の対価の額に算入して法人税の所得金額の計算を行うことになります(新経理通達14の2)。
税務上は仮払消費税等の額はないことになりますので、この100万円は建物の取得価額に算入することになります。そのため上記のように建物の取得時に仮払消費税等の額として経理した金額を、決算時に雑損失として計上している場合には、結果として償却限度額を超える部分の95万円を減価償却の償却超過額として当該事業年度の所得金額に加算することになります(新経理通達14の2(注)1)。
(出典:国税庁「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A(令和3年2月)」インボイス制度導入後(令和11年10月~)に免税事業者から減価償却資産を取得した場合の法人税の取扱い)
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第1回 インボイス制度の概要と取引先への対応
プロフィール
税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員
- 略歴
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ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。 - 著書等
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- 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
- 『令和4年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
- 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
- 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
- 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
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