更新日 2018.11.26

収益認識に関する会計基準ポイント解説

第6回(最終回) 重要性に基づく代替的な取扱い

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TKC全国会 中堅・大企業支援研究会副代表幹事 公認会計士・税理士 岸田泰治

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
公認会計士・税理士 岸田 泰治

2018年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)、「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)が公表されました。当コラムでは、今回公表された収益認識基準等の内容についてポイント解説します。

 収益会計基準では、第2回から第5回で述べてきた原則(IFRS第15号における取扱い)とは別に、代替的な取扱いを定めています。これは、従来から我が国で行われてきた実務等に配慮して、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で認められるものです。
 代替的な取扱いを適用するにあたっては、個々の項目の要件に照らして適用の可否を判定しますが、企業の過度の負担を回避するため、金額的な影響を集計して重要性の有無を判定することは要求されません。
 主な代替的な取扱いは、以下のとおりです。

1.ステップ1(契約の識別)の代替的な取扱い

(1) 重要性が乏しい場合の契約変更

 第3回でみたとおり、契約締結後に契約内容(契約範囲又は契約価格)の変更を行う場合、① 契約の範囲が拡大かつ独立販売価格に適切な調整を加えた金額分だけ契約価格が増額されるときは、その部分を別個の契約として処理し、② 範囲や価格が増加しない契約変更については、既存の契約の解約又は修正として処理しますが、「契約変更による財又はサービスの追加」が既存の契約内容に比べて重要性が乏しい場合には、①・②のいずれの方法も適用することができます。

2.ステップ2(履行義務の識別)の代替的な取扱い

(1) 重要性が乏しい場合の履行義務の識別

 約束した財又はサービスが、顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合には、約束が履行義務であるかについて評価しないことができます。これは、企業による過度の負担を回避するために米国基準で定められている基準に倣ったものです。顧客との契約の観点で重要性が乏しいかどうかを判定するにあたっては、約束した財又はサービスの定量的及び定性的な性質を考慮して、契約全体における約束した財又はサービスの相対的な重要性を検討します。

(2) 出荷及び配送活動に関する会計処理の選択

 顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、「商品又は製品を移転する約束を履行するための活動」として処理し、履行義務として識別しないことができます。実務におけるコストと便益の比較衡量の結果、「支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動」を履行義務として識別しないことを認めている米国会計基準に倣ったものです。

3.ステップ3(取引価格の算定)の代替的な取扱いは定められていない

 第4回でみたとおり、取引価格の算定する際に、変動対価の影響を考慮します。変動対価の額を見積ることは困難であると懸念されますが、代替的な取扱いは定められていません。その理由は、次のとおりです。

  • ・半年ごと(第2四半期末及び年度末)に不確実性が解消される変動対価であれば、第1四半期及び第3四半期のみの限定的な取扱いとなるから
  • ・交渉によって対価の額が確定する取引については、変動対価の額を見積ることが実務上困難なものも存在すると想定されるが、その見積りの判断に資する要件を一意的に定めることが困難であると考えられるから

 また、長期の工事契約に対する重要な金融要素の有無の判断についても、代替的な取扱いは定められていません。我が国の工事契約の個別性が高い等の理由により、重要な金融要素の有無の判断に資する要件を一意的に定めることが困難であると考えられるからです。

4.ステップ4(履行義務への取引価格の配分)の代替的な取扱い

(1) 代替的な方法としての残余アプローチの使用

 第4回でみたとおり、独立販売価格が存在しない場合に用いる方法に、残余アプローチがあります。残余アプローチは、① 同一の財又はサービスを異なる顧客に同時又はほぼ同時に幅広い価格帯で販売していること、② 当該財又はサービスの価格を企業が未だ設定しておらず、当該財又はサービスを独立して販売したことがないこと、のいずれかに該当する場合に限り使用できるものとされていますが、これらとは別に、財又はサービスが契約における他の財又はサービスに付随的なものであって重要性が乏しい場合にも、残余アプローチを使用することができます。

5.ステップ5(収益の認識)の代替的な取扱い

(1) 期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア

 工事契約及び受注制作のソフトウェアについて、契約における「取引開始日」から「完全に履行義務を充足すると見込まれる時点」までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたって収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます。

(2) 船舶による運送サービス

 海運業において複数の顧客の貨物を取り扱う場合には、顧客ごとの輸送サービスをそれぞれ別個の履行義務として識別して、履行義務ごとに収益を認識します。船舶による輸送サービスが、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすと判断される場合には、複数の顧客ごとの輸送サービスをそれぞれ義務履行までの期間にわたって収益を認識することになります。
 しかしながら、顧客との契約ごとに履行義務の識別を行うと実務上の負荷が増大することから、発港地から帰港地までの航海が通常の期間である場合には、一航海を単一の履行義務として、航海の期間にわたって収益を認識することができます。

(3) 出荷基準等の取扱い

 これまで実務慣行で認められてきた出荷基準は、IFRS第15号に従うと、支配の移転を伴っておらず履行義務が充足されていないことから認められないことになりますが、出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時までが「通常の期間」である場合には、出荷時から商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例:出荷日又は着荷日)で収益を認識することができます。「通常の期間」とは、期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合をいい、数日間程度とされています。

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プロフィール

公認会計士・税理士 岸田 泰治(きしだ やすはる)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
連結会計システム普及部会 部会長

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関西総合会計事務所

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