更新日 2018.10.15
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
公認会計士・税理士 岸田 泰治
2018年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)、「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)が公表されました。当コラムでは、今回公表された収益認識基準等の内容についてポイント解説します。
今回は、ステップ1とステップ2のポイントを解説します。
1.ステップ1:顧客との契約を識別する
ステップ1では、収益会計基準が適用される契約を識別します。
(1)収益会計基準の「契約」とは?
収益会計基準において、契約は「法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決め」と定義されますが、次の要件を満たすものでなければなりません。
- ①当事者が書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
- ②財又はサービスに関する各当事者の権利・支払条件を識別できること
- ③契約に経済的実質があること
- ④企業が受け取る権利を有する対価の回収可能性が高いこと
④については、対価の支払期限が到来した時に顧客が対価を支払う意思と能力を有しているかについて、取引開始日において考慮します。対価のうちいくらかを回収できると判断できれば、この要件は満たされることになります。
(2)対価を受け取った場合
対価を受け取った場合でも、上記契約の要件が満たされていないのであれば、収益ではなく負債を認識することになります。ただし、移転義務の履行が完了して対価をほとんど全て受け取っている場合や、解約後に受け取った対価が返金不要な場合には、収益を認識します。
(3)契約の結合
複数の契約であっても以下のいずれかの場合には、単一の契約であるかのように契約を「結合」する必要があります。
複数の契約を同一の顧客と同時(又は、ほぼ同時)に締結した場合で、
- ①当該複数の契約が同じ目的で締結されており、包括的に交渉されている
- ②ある契約の対価が、他の契約の価格又は履行に依存している
- ③複数の契約において約束した財又はサービスが、履行義務の識別の要件に従うと単一の履行義務である
具体例を示します。
契約の結合
- A社が機器の販売に際して顧客との間で、保守サービス契約を同時に締結する。
- 機器の販売契約は、20,000千円、保守サービス契約は、単独で提供する場合の料金3,000千円よりも低い2,000千円である。
- 機器の販売契約と保守サービスの提供契約は、契約の結合の前提である「同一の顧客」と「同時に締結した複数の契約」を満たしている。
- 契約を結合するかどうかについて、さらに、結合の要件を検討する。
・機器の販売と保守サービスの提供を一体で交渉している。
・保守サービスの価格は機器の販売の影響を受ける。
以上より、機器の販売契約と保守サービスの提供契約を結合して「単一の契約」(22,000千円)となる。
(4)契約の変更
契約締結後に、契約内容(契約範囲又は契約価格)の変更を行うことがあります。契約の範囲が拡大かつ独立販売価格に適切な調整を加えた金額分だけ契約価格が増額される場合は、その部分を別個の契約として処理することになります。範囲や価格が増加しない契約変更については、既存の契約の修正として処理します。
契約の変更
A社は製品1,000個を単価120円で販売する契約をB社と締結した。
製品500個を販売した時点で、B社から追加で300個の注文が入った。
この追加分300個については、単価80円で販売することになった。
(1)追加分の単価引下げの理由が、追加販売につき初期の販売費用が発生しないことによる場合
追加分300個については、当初契約の追加により契約の範囲が拡大するものであり、価格変更は引き渡した製品の品質や性能に起因するものではなく、販売済の製品には影響を与えないことから、値引き40円は販売政策の変更に伴う適切な調整である。よって、当初契約とは別個の独立した契約として、会計処理を行う。
①最初の500個を販売
(*1)500個×120円=60,000円
②残りの500個を販売
③追加の300個を販売
(*2)別個の独立した販売契約として会計処理する。300個×80円=24,000円
契約の変更
A社は製品1,000個を単価120円で販売する契約をB社と締結した。
製品500個を販売した時点で、B社から追加で300個の注文が入った。
この追加分300個については、単価80円で販売することになった。
(2)追加分の単価引下げの理由が、最初の販売分である500個に品質トラブルがあったので、それを反映したことによる場合
追加分は、引き渡した製品の品質や性能に起因するものであり、最初の販売分と別個のものであることから、既存の契約を解約して新しい契約を締結したものとして会計処理を行う。
①最初の500個を販売
(*1)500個を販売した後、解約したと考える。500個×120円=60,000円
②残りの500個を販売
(*2)800個の新契約を締結したものとして会計処理する。
(60,000+24,000)÷(500+300)=105
500個×105円=52,500円
③残りの300個を販売
(*3)300個×105円=31,500円
既存の契約の一部変更として会計処理する場合(工事進行基準)
建物の工事契約を顧客と締結した(取引価格100,000千円、工事原価総額90,000千円、利益10,000千円)。
第1期において工事原価45,000千円が生じたため進捗度50%として、工事収益を50,000千円計上した。
第2期において、建物の仕様変更があり、変更後は取引価格120,000千円、工事原価総額100,000千円、利益20,000千円となった。
第2期までの工事原価の累計が75,000千円(第1期45,000千円+第2期30,000千円)となった。進捗度は75%(75,000÷100,000=0.75)となる。
建物の仕様変更は、変更前の契約とは別個のものではなく、単一の履行義務の残として処理する。
①第1期
工事原価 45,000 / 現金預金 45,000
工事原価 45,000/現金預金 45,000円
②第2期
工事原価 30,000 / 現金預金 30,000
工事原価 30,000/現金預金 30,000円
(*)120,000×0.75-50,000=40,500千円
2.ステップ2:契約における履行義務を識別する
ステップ2では、ステップ1で識別した契約に含まれる履行義務を識別します。
(1)履行義務の識別のしかた
履行義務は、顧客との契約において、「別個の」財又はサービスまたは「一連の別個の」財又はサービスを移転する約束のことです。「一連の別個の」とは、例えば、ビルの清掃サービスのように、実質的には同一のサービスを1日単位で契約期間にわたって提供するような場合をいいます。
別個の履行義務となるのは、次の要件をいずれも満たす場合です。
- ①顧客が単独で約束の効果を享受できること(個々の財又はサービスの観点での区分可能性)
- ②契約の中で、約束が他の約束と区分されていること(契約の観点での区分可能性)
②について、以下のような場合は履行義務を区分できないことになります。
- ・複数の財又はサービスを統合する重要なサービスである
- ・著しい修正又はカスタマイズが必要である
- ・相互関連性、依存度が高い
履行義務の識別の例を示します。
履行義務の識別(別個の履行義務かどうか)
(1)A社はB社との間で、設備の販売とその据付を行う契約を締結する。設備は一般的仕様であり、据付は設備を著しく修正もしくは顧客仕様とするものではない。B社はA社以外からの据付サービスでも設備を使用できる。A社は設備の販売のみ、据付のみの履行も可能である。
個々の財又はサービスの観点での判断
- 顧客は各財またはサービスから、単独で顧客が便益を享受できる。
→○
契約の観点からの判断
- 設備の販売・据付を統合する重要なサービスを提供しない
- 据付は著しい修正・カスタマイズでない。
- 設備の販売と据付は、相互に関連していない、相互依存度が低い。
→○
以上より、「設備の販売」と「据付」は、別個の履行義務として識別される。
(2)設備が特殊仕様でA社のみが当該据付サービスを提供できる場合には、履行義務は以下のように識別される。
個々の財又はサービスの観点での判断
- 顧客は各財またはサービスから、単独で顧客が便益を享受できる。
→×
契約の観点からの判断
- 設備の販売・据付を統合する重要なサービスを提供しない
- 据付は著しい修正・カスタマイズでない。
- 設備の販売と据付は、相互に関連していない、相互依存度が低い。
→×
以上より、「設備の販売と据付」は、単一の履行義務として識別される。
(2)本人と代理人
顧客への財又はサービスの提供で他の当事者が関与している場合において、顧客との約束が「企業が自ら提供する履行義務」であると判断される場合には、企業は「本人」に該当することになり、財又はサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識します。
一方、顧客との約束が「他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務」であると判断される場合は、企業は「代理人」に該当することになり、「他の当事者が提供するように手配すること」と交換に企業が権利を得ると見込む報酬又は手数料の金額(あるいは他の当事者が提供する財又はサービスと交換に受け取る額から当該他の当事者に支払う額を控除した純額)を収益として認識します。
前回みたとおり、収益会計基準の基本原則は、「約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識する」ことでしたが、本人か代理人かの判定は「顧客への支配の移転」があるか否かがポイントとなります。つまり、顧客に提供される前に、企業が財又はサービスを支配していれば「本人」、支配していなければ「代理人」に該当することになります。
代理人と判断されるのは、以下のような場合です。
- ・主たる契約の履行責任を有していない
- ・在庫リスクを有していない
- ・財に対する法的所有権を獲得したとしても瞬時である
- ・価格決定の裁量権を有していない、等
本人と代理人(消化仕入契約)
百貨店であるA社は、B社より商品を仕入れ、店舗に陳列し、個人顧客に対し販売を行っている。
B社との契約は、通常の商品売買契約(買取仕入契約)のほか、消化仕入契約がある。消化仕入契約では、A社は、店舗への商品納品時には検収を行わず、店舗にある商品の法的所有権は仕入先が保有している。また、商品に関する保管管理責任及び商品に関するリスクも仕入先が有している。
A社は、消化仕入契約の対象の商品Yを20,000円で顧客に現金で販売した。同時に、商品Yの仕入先B社との消化仕入契約に基づき買掛金19,000円を計上した。
手数料収入 1,000(*)
/手数料収入 1,000円(*)
(*) A社は代理人として、B 社により提供された商品を顧客に販売したことにより受け取った対価20,000 円から、B 社に支払う対価19,000 円を控除した純額を収益として認識する。この結果、手数料収入は純額の1,000円で計上される。
次回は、ステップ3とステップ4のポイントについて解説します。
プロフィール
公認会計士・税理士 岸田 泰治(きしだ やすはる)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 副代表幹事
連結会計システム普及部会 部会長
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