更新日 2018.04.23
1.平成30年度税制改正の概要
(1) 法人税関連の主な改正内容
- 所得拡大促進税制の改正
- 試験研究費投資税制その他一定の税額控除適用制限
- 情報連携投資(IoT)投資促進税制
- 高度省エネルギー増進設備の特別償却
- 企業内保育所の特別償却制度
- 法人税における収益認識時期の明確化
- 組織再編税制(株式対価M&A)の改正
(2) 国際課税関連の主な改正内容
- 恒久的施設(PE)関連規定の見直し
- タックスヘイブン対策税制の見直し(PMI)
- 非居住者・非永住者に対する課税の見直し
(3) 所得税・資産税関連の主な改正内容
- 給与所得控除・公的年金等控除・基礎控除等の見直し
- 特定一般社団法人に対する相続税の課税見直し
- 小規模宅地(家なき子)に対する特例適用の厳格化
(4) 電子申告関連
- 大企業の電子申告義務化
- 年末調整手続きの電子化
- 電子申告手続きの緩和
(5) その他の主な改正内容
- 特例事業承継税制の創設
- 消費税簡易課税制度の見直し
2.所得拡大促進税制の改正
本年度税制改正は昨年に続き法人税の改正があまり多くありません。その中で大きな改正があったのが所得拡大促進税制です。基準年度との比較要件がなくなり、平均給与の前年との平均値との比較だけになったので、今まで使えなかった企業も使える可能性が出てきます。
増加率が3%になり、設備投資要件も加わったためハードルは高くなったと言えますが、控除率及び控除上限が大幅に引き上げられましたので適用できた場合のインセンティブはかなり大きくなりました。常に前年との比較になったために「今年は使えないけど来年使えるよう人件費の試算をする」というようなタックスプランニングも今後は必要になるでしょう。
(1) 制度の概要(改正前)
大法人については、以下の3要件を満たした場合に、基準年度の給与等支給額からの増加額の10%及び前年度の給与等支給額からの増加額の2%の合計額が控除されていました(法人税額の10%を限度)。
- ①基準年度からの雇用者給与等支給増加額が5%以上(平成29年度)であること
- ②雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上であること
- ③平均給与等支給額が比較平均給与等支給額から2%以上増加していること
(2) 改正内容
- ①賃上げ要件の見直し
上記の適用要件①及び②が廃止され、③の平均給与等支給額の要件について、増加割合が「2%以上」から「3%以上」に引き上げられます。
また、平均給与等支給額の計算基礎となる「継続雇用者」の範囲について、当期及び前期の全期間の各月において給与等の支給がある雇用者とされます。 - ②設備投資額に関する要件の追加
新たに「国内設備投資額が減価償却費の総額の90%以上であること」という要件が追加されます。 - ③控除税額の計算方法の見直し
前年度の給与等支給額からの増加額の15%を控除することとされます。また、控除上限も当期の法人税額の20%に引き上げられます。 - ④人材投資に積極的な企業に対する控除率の引き上げ
教育訓練費の額が比較教育訓練費(前期及び前々期の教育訓練費の額の年平均額)の額から20%以上増加している法人については、控除率が15%から20%に引き上げられます。 - ⑤外形標準課税(付加価値割)の取扱い
適用要件について法人税と同様の見直しが行われます。
項目 | 大法人(改正後) | 大法人(改正前) |
---|---|---|
対象者 | 国内の事業所に勤務する法人の使用人(法人の役員及び特殊関係者を除く) | 改正なし |
給与等支給額の基準事業年度からの増加要件 | 廃止 | 雇用者給与等支給額が、基準雇用者給与等支給額(平成24年度)から5%以上増加 |
給与等支給額の前年度からの増加要件 | 廃止 | 雇用者給与等支給額が、前事業年度の雇用者給与等支給額以上 |
平均給与増加要件 | 平均給与等支給額が比較平均給与等支給額から3%以上増加していること(継続雇用者に対する平均給与で比較される) | 平均給与等支給額が比較平均給与等支給額から2%以上増加していること(継続雇用者に対する平均給与で比較される) |
継続雇用者の範囲 | 当期及び前期の全期間の各月において給与等の支給がある国内雇用者(退職者・再雇用者・新卒採用者を除く) | 当期及び前期において給与等の支給がある国内雇用者(退職者・再雇用者・新卒採用者を除く) |
設備投資額の要件 | 国内設備投資額が減価償却費の総額の90%以上であること | 新設 |
控除率(原則) | 給与等支給増加額×15% | 給与等支給増加額×12% |
控除率の上乗せ | 給与等支給増加額×20% | 新設 |
上乗せのための要件 | 教育訓練費の額が比較教育訓練費(前期・前々期の平均)の額から20%以上増加していること | 新設 |
控除上限 | 当期の法人税額×20% | 当期の法人税額×10% |
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プロフィール
税理士 畑中 孝介(はたなか たかゆき)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会 幹事
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
TKC全国会中央研修所租税法小委員会委員
- 略歴
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ビジネス・ブレイン税理士事務所所長、株式会社ビジネス・ブレイン代表取締役CEO
大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業から中小企業・ベンチャー企業・ファンドまで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。TKC企業グループ税務システムの専門委員、中堅・大企業支援研究会幹事等に就任。 - 著書等
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- 『消費税インボイス制度の実務対応』(TKC出版)
- 『令和6年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
- 『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
- 『CFOのためのサブスクリプション・ビジネスの実務対応』(中央経済社)
- 「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆
- システム・コンサルティング事例
- ホームページURL
- ビジネス・ブレイン税理士事務所
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