更新日 2016.01.25

国際税務の実務ポイント~押さえておきたい話題の事例~

第2回 海外子会社への従業員の出張に係る負担(その2)

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長 英樹

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税理士 朝長 英樹

日本の親会社が従業員を海外子会社に出張させたり出向させる場合に負担する金額等の課税問題が話題となっています。当コラムでは、話題の国際税務の事例として「海外子会社への従業員の出張に係る負担(第1回、第2回)」、「海外子会社への従業員の出向に係る負担(第3回、第4回)」について、根拠法令等の確認から、その実務ポイントまで解説します。

3.対応策等

 日本の親会社が従業員を海外子会社に出張させてその従業員がその海外子会社で技術支援等を行っているという事実がある限り、その海外子会社から相応の負担金を受け取らないことが適切であると主張するのは、かなり難しいと言わざるを得ません。

 しかし、対応策が全く無いのかというと、そういうわけではありません。
 このような課税の根拠となっている事務運営指針2-10は、あくまでも日本の親会社が海外子会社に対して役務を提供しているという前提に立った取扱いとなっています。
 ところが、本稿のテーマとなっている日本の親会社の従業員が海外子会社に出張して技術指導等を行うというケースにおいては、現実には、日本の親会社が海外子会社のために従業員を出張させて技術指導等を行うというものだけでなく、外部の企業に製造委託を行っている法人がその製造委託先に従業員を出張させて規格に合う製品を製造できるように技術指導等を行うというようなものと同種のものも少なからず存在します。日本の親会社が海外子会社のために従業員を出張させて技術指導等を行うということであれば、確かに「役務提供」ということになりますが、日本の親会社が自己の都合で従業員を出張させて技術指導等を行っているということであれば、自らのために自ら役務を用いているだけであって、他に役務を提供しているということにはなりません。
 日本の親会社の従業員が海外子会社に出張して技術指導等を行うというケースにおいて、それがいずれの法人のために行っていることであるのかという事実認定を行うことは容易ではないと思われますが、この事実認定の如何によって、事務運営指針2-10に基づく処理の対象となるのか否かということが決まることになります。
 実際に、税務調査で課税を受けたケースをみてみると、この入り口の事実認定の問題を素通りして、海外子会社に従業員が出張して技術指導等を行っていればそれは即ち海外子会社のために日本の親会社が役務提供をしていることに他ならないとの前提に立ち、課税処理が進められたという傾向が少なからずある、と感じます。

 親会社が子会社に従業員を出張させて技術指導等を行った場合に、親会社がその子会社から適切な対価を受け取らないことが寄附金となるのか否かという問題は、移転価格税制や国外関連者への寄附金の損金不算入制度が創設されるよりもはるか以前から存在する問題です。
 昭和40年には現在の法人税法が制定され、昭和44年には法人税基本通達の抜本改正が行われたわけですが、特にこの前後の時期においては、親会社が従業員を子会社に出向させたり出張させたりした場合の従業員の人件費等の負担をどのように取り扱うべきかという議論がかなり精力的に行われています。そして、当時は、具体的な取扱い等に関しては諸説があるものの、出向や出張がいずれの法人の利益になるものかということによって、その人件費等が損金の額となる法人を決めるべきであるという基本的な認識では一致していると言って良い状況となっていました。
 このような基本的な認識は、法人税法22条3項に定められた「損金の額」に関する理論から導かれるものであって、法人税法においては「常識」と言って良いものです。

 現在の国外関連者への寄附金の損金不算入制度も、条文を正しく読めば直ぐに分かるとおり、国外関連者への寄附金の全額を損金にしないという特例に過ぎず、上記のような従来からの法人税法における「損金の額」に関する常識を変えるものではありません。事務運営指針2-10を根拠にして行う国外関連者への寄附金の課税も、このような法人税法における「損金の額」に関する常識を正しく踏まえた上で行う必要があるわけです。

 このような点からすれば、本稿のテーマとなっているケースに対する対応策としては、法人税法における「損金の額」に関する常識を正しく踏まえて、日本の親会社の従業員の出張が自らのために自らの役務を用いているだけであるのか、あるいは、自らの役務を他に提供しているものであるのかという事実認定が重要であるということを予め出張者を含む関係者に十分に理解しておいてもらい、その上で、税務調査に際しては、最初にその事実認定をしっかりと行ってもらうようにする、ということになります。
 本稿のテーマとなっているケースにおいては、このような法人税法における「損金の額」に関する常識を正しく踏まえた対応を心掛けることによって、課税される金額を大きく減少させることができる可能性があります。

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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日本税制研究所 代表理事

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